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第16話 大魔境の下層

”頼むからもうあんなことをいきなりしないでくれ”

”いきなりアイキャンフライしたから、心臓が早鐘打ちすぎて痛い”

”お、おおおおれは、ささささ最初から分かっててててててたぞ?”

”次もしそうやって降りるんだった最初から翼出してね”

”リアルで悲鳴上げちゃったじゃねーか”

”推しができたその日に推しが身投げしたのかと思ったじゃないか”

”怖いからもうやめて”

”これは後でしっかりとみんなでお説教だからねフレイヤちゃん”


「えっと、ごめんなさい……」


 視聴者達が、フレイヤが中層のボス部屋から下層に続く縦穴を飛び降りたことに対してお叱りのコメントを送ってくる。

 あの翼があるのであの高さから飛び降りても問題ないので普段からやっていることだが、確かに何も言わずにいきなり飛び降りるのは心臓に悪いだろう。


「次からは事前に言うか、先に翼を出していきますね」


”頼むからそうしてくれ”

”しっかりと覚えておいてよね?”

”忘れたら罰として、フレイヤちゃんにリタちゃんが着ているのと同じメイド服着てもらうから”

”あるいは超ふりっふりなゴスロリとか”

”彼シャツみたいにビッグサイズシャツ一枚とかもあり”


「それ、単に皆さんの願望では?」


 リタのメイド服やゴスロリとかはまだ理解できるが、それ以外のサイズの大きなシャツ一枚とかサキュバスコスプレとかは、完全に視聴者側の願望だと分かる。


”《Rita》:フレイヤ様、(Dear Freya) |ご帰宅後は《after you return home》|今後の活動のスタイルを《we will decide on the 》|決めてしまいましょう, 《style of your future activities.》”

”リタちゃんだ!”

”しっかり英語で送っとるwww”

”やっぱり可愛い女の子の配信を観て楽しむだけじゃなく、英語も勉強できて一石二鳥だね”

”ちゃんと今後について話そうって言ってるwww リタちゃんもあれはよろしくないって思ったんだね”

”ていうかやっぱり、下層で出していい雰囲気の軽さじゃねえwww マジで散歩気分だwww”


「分かりましたよ、リタ。帰ったら話し合いますから、どうか変なことは企まないでくださいね」


 小悪魔的な一面をたまに出すので、どうかその被害に遭わないようにと心の中でひっそりと祈りながら進む。

 そんな会話をしていると、どう考えてもダンジョンの下層を散歩感覚で歩いていることに、視聴者達がある意味戦慄しているかのようなコメントを送り始める。


 下層はベテランですら一瞬も気を抜けない地獄と評するほど強力で凶悪なモンスターが跋扈しているが、それ以上に水中を動いているかのような重い感覚もある。

 慣れてくるか適正レベルまで実力が上がればその感覚はなくなるが、重い感覚がなくなったからと言ってモンスターの脅威が下がるわけではない。


 モンスターたちや地上の怪異、妖怪にはそれぞれ強さや危険度を示す等級が当てられており、下から順に四等、三等、二等、準一等、一等となっている。

 基本は一等までだが、中にはその等級で測れないだけの強さと危険性、残忍性を持つ化け物が発生することがあり、それらは大規模な自然災害と同等の扱いを受け、一等よりも上の特等という特例等級が与えられる。


 特等のモンスターや怪異はそうポンポン発生するものではないが、絶対に発生しないなんてことはない。

 モンスターも怪異も、人に限らず全ての生き物が何かに恐怖することや憎悪や嫌悪、怒り、恥辱などの負の感情を抱くことで生まれ、どれだけ恐怖しているかによって生まれた後も力が増幅する。

 そのため、特等なんて強さを持つ怪異はそう何度も生まれたりはしないが、この地球上に生物が存在している以上絶対に世界のどこかで発生する。


 それで下層に入ると、全てのモンスターが最低でも二等となり、中層とは比べ物にならない。

 二等の怪異がどれだけ脅威なのかを簡単に言えば、大型の戦車を三台用意してようやく安心できるレベルの強さだ。

 準一等や一等ともなれば早急に対処しなければ町一つ消えかねないし、特等はもはや大災害並みだ。


 探索者や、魔術師、呪術師、退魔師にもモンスターや怪異と同じ等級が割り振られ、同じように最大で特等まで存在する。

 しかし探索者の中には特等まで至った者は今のところ二人しかいないし、魔術師や呪術師は世界中を探しても魔法使いを含めて三桁まで行かない上に、退魔師に至っては特等は現時点で一人しかいないという。そしてその特等退魔師が二人の特等探索者のうちの一人である。

 基本的に一等までしか発生しないので、探索者や地上の魔術師、呪術師、退魔師も最大でも単独で町一つ潰せるだけの強さがあればどうにかなる。まあ、それができないから一等の座に就く者の数は少ないし、その上の特等もそれ以上に少ないわけなのだが。


「……あ、水筒の中身が」


 下層深域を目指しつつ下層のモンスターを探しながら、こまめに水分補給をしていると、水筒の中身が空っぽになる。

 少しは慣れたつもりだったのだが、やっぱりまだこれだけの人数が見ている中で配信することに緊張していたようで、無意識のうちに飲みすぎてしまっていたようだ。


「むぅ、水分補給は基本ですからなくなると大変ですね。……仕方がない、あれを使いますか」


 そう言ってランスを壁に立てかけてから、筒状の装置を取り出す。


”何それ”

”またなんか新しいの出て来たんだけどwww”

”きっとこれもえっぐいやつなんだろうなあ”

”水筒の中身がなくなったって言ってたし、普通の替えの水筒じゃね?”


 コメント欄も、取り出した装置が何なのか気になっている様子だ。


「これはいつでもどこでも、たとえそこに水がなくても水を生成することができる装置です。正確には、酸素があればですけど」


 装置の中には水素のカートリッジが入っており、そこに酸素を取り込んで一気に熱することで反応を起こし、水を生成することができる。

 これを作るのには本当に苦労をしたものだ。何度父親に作ってもらった作業部屋を爆破しかけたことか分からないほど、水素爆発が起きた。

 どうにかして装置の内側で全てが完結できないかを何百回と繰り返しシミュレートし、ようやく満足のいく逸品を作り上げることに成功した。

 おかげでたとえ砂漠地帯に水なしで放り出されても、水素のカートリッジとこの装置一つあれば、水だけならばどうにか確保できる。

 ちなみに現在、水と空気だけで食物を作る人工食物合成小型プラントの構想をいくつか作っているところだ。


”今なんつった!?”

”あっれれー、おっかしーなー? 俺の耳が逝かれたのかな?”

”流石に嘘、だよね?”

”本人がいたって真面目な顔しているあたり、まさかって思っちゃう”

”水を? 酸素さえあれば?? どこでも作れる??”

”あははは、ご冗談を”


 信じていない様子なので、証明するために装置のボタンを押して酸素を中に取り込み、酸素が外に出ないように密閉しつつ中で燃焼させて水を生成し、その際に発生した熱を一気に外に放出しながら急速冷却させて、冷えた浄水を水筒の中にそそぐ。


”冗談じゃなかったあああああああああああああああ!?”

”うっそだろおい!?”

”マジで水を生成しやがったぞこの子!?”

”嘘おおおおおおおおおおおおおおおお!?”

”えええええええええええええええ”

”ふぁーーーーーーーw”

”マwジwかwよw”

”水不足問題をこの子一人で解決してやがる……”


「無制限に水を作れるわけじゃないんですよ、これ。ほら、これ。これは水素が入っていたカートリッジなんですけど、水を一回生成するのにこれを一本消費しないといけないんです。満足の出来の代物ではあるんですけど、どうしても製造コストがかかってしまうのがネックなんです」


”それだとしても、それ一個あれば確実にその水筒一個分の水を確保できるのはやばすぎ”

”水素と酸素の反応で水を作るには燃やさないといけないんですが、その中で一体何が起きたんですか一体”

”上と下から水蒸気みたいなんがすんごい勢いで出てたけど”

”まさかその中で燃焼させて水作ったって言うの!?”

”なんでそれでその装置壊れていないんだよwww”

”兵器以外もぶっ壊れなのは分かってたけど、これは流石にバグレベル”


 信じられないものを見たと言ったコメントが多く送られてきて、それを見ながら少し冷やしすぎた水を飲む。


「オォオオオオオオオオオオ!!」


 すると、放熱と急速冷却の時に出た音に寄せられてきたのか、モンスターの雄叫びが聞こえてきた。

 素早く水筒をしまってランスを取って構えると、通路の奥の方から姿を現す。

 現れたモンスターはアッシュコングという、五メートルほどの巨躯を持つ灰色のゴリラのモンスターだ。


”灰色ゴリラだ!?”

”うげ!? 灰ゴリかよ!?”

”向かった先にいるのがフレイヤちゃんという美少女だと認識した瞬間、殺意むき出しになっとる”


 アッシュコング。

 下層の中では中堅程度の強さで、上域から深域までと結構広い場所に分布している。

 その特徴は何と言っても灰色の体毛で、倒した際に時折この毛皮を落とすがかなりの高値で買い取ってもらえる。


 しかしそれを換金に出すのはほとんどが女性であり、男性はどういうわけかこれを持ってくる数が少ない。

 理由として、このアッシュコングのオスは男性を、そしてメスも男性を襲うという意味の分からないモンスターだからだ。

 メスはともかくオスも男性を襲うため、男性探索者からは通称ホモゴリラとも呼ばれている。


 そしてそんなアッシュコングはどうやらオスのようで、フレイヤを目の当たりにした瞬間に見るからに怒りをあらわにして、二足歩行になってドラミングしながら猛烈な速度でダッシュしてきた。

お読みいただき、ありがとうございます。




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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味トラウマモンスターですね 肉体的にも精神的にもやられた事ある男性探索者いそう
[一言] 人間がフレイヤと戦うならカートリッジ狙う、水素の爆発的燃焼程度でダメージはいるんだろうか 部屋を爆破とか言ってるから大したダメージにならなそうだ
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