第15話 怪物地獄の下層へ
「よし、これで中層も突破ですね」
ライカンスロープの落とした核石だけを拾ってそれをカメラに映しながら、いい笑顔で言う。これでなんの心置きなくこの先の魔境、ダンジョン下層に行くことができる。
”うははははははwwww”
”マジかああああああああああ!?”
”部位破壊した上に止めも一撃とかマ?”
”ライカンスロープを通してダンジョンの床にとんでもないヒビが入ってるwww”
”えっぐいわあwww”
”ライカンってそうやって倒せばいいんだあ”
”なんだ簡単だね! 今度試してこよっと!”
”何人か正気失ってる奴いて草”
”フレイヤちゃんにしかできない攻略法だから絶対に真似できないね!”
攻撃は何度も繰り出していたが当たったのは二回だけで、実質二発の攻撃で仕留めたため、コメント欄は大盛り上がりを見せる。
爆速でコメントが一斉に流れていき、全てを追いきれない。
中々にいいタイムで倒せたのではないだろうかと思い、ふと同接数を見てみるとそこには十三万という数字が表示されており、思わず悲鳴を上げそうになる。
「ら、ライカンスロープは中層ボスの中では比較的倒しやすい部類ですよ。『手負いの獣』形態に移行させれば攻撃の威力は上がりますけど動きが遅くなりますから』
”フレイヤちゃん、それに反応している時点であなたはもう人間じゃないです”
”何一つ分からんわwww”
”速度が落ちる言うけど、俺らからすれば何も変わらん”
”誰か速度落ちているかどうか検証してくれー”
”つーかこれ、ライカンの最速討伐記録だろ。五分かかってねーぞ”
”ハイスピードバトルが繰り広げられてたけど、戦闘開始から五分もかかってないってマジですか”
”結構大規模なパーティーでも十分はかかってたはずだけど、それをソロで倍以上の速さで終わらせるとかwww”
”しかもこれ装備に縛りを入れたタイムでしょ? ガチ装備で行ったら一瞬だったんじゃね?”
”もう「そんなまさかwww」って言えなくなってきた”
”つーかライカンの核石でっけえなオイ! いくらするんだ?”
フレイヤからすればライカンスロープの動きというのは、形態変化の前と後で明確に違うのが見て取れるのだが、意外と分からないらしい。
中にはそれを信じていない視聴者もいるようなので、配信が終わって家に帰った後にリタに頼んで、スーパースロー動画でもアップしてもらおうかと考える。
「ああ、あとこれも一応映しておきますか。『手負いの獣』の状態で倒した場合にのみ、たまに落とすライカンスロープの爪です。すごいですよねこれ。下手なナイフより切れ味があるんですから」
”凶器並みに鋭い”
”結構前にダンジョン内で起きた殺人事件で、ライカンスロープの牙とか爪をそのまま使った事件があったっけ”
”加工しなくても武器に使えるとか結構バグだと思うんだ”
”フレイヤちゃんはそれを持ち帰って、それを素材に武器とか作るの?”
”なんかとんでもない切れ味のナイフとか剣作ってそう”
「え、核石以外は普通に捨ててますよ? 換金許可証でダンジョンからの持ち出しが許されているのは核石だけですから」
そう言いながら、後から来る人が回収して不労所得にしないように、全力投球して天井にぶっ刺す。
”あ、そっか。未成年……”
”リタさんほどじゃないけど大人な雰囲気あるから忘れてた”
”むしろその素材持ち帰ってたら何作るか分かったもんじゃないから、ちょっと安心した”
「まあ来年成人なので、来年からはたくさん持ち帰って換金したり魔導兵装開発に使いますが」
”うわああああああああああああ!!”
”そうだこの子十七歳だ!”
”下層ボスの素材とか持ち帰ったりでもしたら、それこそ破壊兵器が誕生する!”
”もうこの時点でえぐいのに、これ以上のやばいのが出てくる可能性があるのか……”
”来年成人で金髪美少女の振袖が見られるかもしれないことに歓喜すればいいのか、激ヤバ兵器が開発されるかもしれないことに恐怖すればいいのか……”
「流石に自重しますよ。そもそも、私が持つ兵装はもう十分ありますから。紅天……モンスターパレードを一掃したあの大剣だって、他のものと比べると火力は下の方ですし」
あれはどちらかというと、複数体一を想定して作った大規模破壊魔導兵装なので、ピンポイントでの破壊力はそこまで高くはない。
持っている兵装の中で一番威力が高いのは、馬型の魔導兵装とリンクしている戦闘用装甲で、シミュレーションシステムでどれだけの威力が出るのか確認してみたら、作った張本人でも開いた口が塞がらない威力になっていた。
それと比べるのは違うと分かっているが、それ以外のものもダンジョン内では他に使ったら崩落しかねない威力がある対個体用のものなので、どのみち紅天は下から数えたほうが早い威力だ。
”あれでさえ火力が下の方って、一番威力高いやつ使ったらどうなんの?”
”世界が滅びるとかそんなものじゃないよね!? ね!?!?”
”もうフレイヤちゃんが、魔神を倒せるだけの兵器持ってても何ら不思議じゃなさそう”
”下層モンスターのパレードをワンパンできてなお下の方だから……もう考えたくない”
”お願いしますお願いしますもうこれ以上常識外れの武器を出さないでくださいじゃないとこっちの常識が壊れてダンジョン攻略が楽なんだって誤解しちゃうから俺が”
”まだこれがフレイヤちゃん専用なのが救いだけど、もしこれが販売開始でもされたら、日本の戦力おかしなるで”
”ダンジョンモンスターがそのうち本能的にフレイヤちゃんを恐怖するようになるのかな”
「流石にそこまで酷いことにはならないでしょう。昨日の配信でも言いましたけど、ダンジョンは大体いつも使ってるランスと紅天、あとは今着けているこれらと翼型デバイスがあれば事足ります。今のところ、今日の配信で見せたもの以外の魔導兵装は、リクエストがない限りは使いません。あとは、それを使わざるを得ないようなイレギュラーと遭遇した時くらいでしょうか」
そんなイレギュラーと遭遇することは滅多にないので、結局は視聴者からのリクエスト次第になるので、コメント欄の反応を見た感じだとそのリクエストもあまり来ないだろう。
フレイヤとしても、紅天以上の威力の武器はダンジョン内では過剰すぎるので、できればあまり使いたくはないと思っている。
「さて、それよりもいよいよ目標の下層です。正直何度も潜っているので、怖くはないんですけどね」
”仮にも(探索者にとって)怪物地獄とか怪物天国とか呼ばれている下層を怖くないとかwww”
”そりゃ(モンスターパレードワンパンできる上に、まだ未確認の激ヤバ兵装を複数持っているんだから)そうよ”
”うーん、そこはかとなくどこぞの雷神ちゃんと似た空気を感じる”
”あの子もそうだけど、フレイヤちゃんもこれから下層なのに、まるで今からピクニックに行くのかってくらい雰囲気が軽いwww”
”慣れで片付けていいものじゃないなこれwwww”
”下層って紛いなりにもベテランですら油断できないってきっぱりと言う地獄なんですが”
ブーツを元々履いていたものに履き替え、両手のガントレットを外してしまう。
これから下層だというのにまるで散歩や遠足にでも行くかのようなテンションで、地獄との評される領域へ通じる道へと進むフレイヤ。
まるで奈落に続いていそうな螺旋階段のような縦穴をカメラで映しながら見下ろす。
「それじゃあ、今日の本題の下層の攻略開始です!」
どこかぬるりとした空気を感じる下層へ通じる道へためらわずに踏み出し、そのまま縦穴の真ん中へ躍り出て落下していく。
コメント欄が何をしているんだというコメントで溢れかえるが、一々階段を上り下りしていたら時間がかかりすぎてしまうので、いつもこうしている。
びゅう、と風を切る音が鼓膜を震わせる。
やがて下層が近付くと、腰と背中の翼を展開してゆっくりと減速してふわりと着地する。
「さあ、ダンジョン下層の攻略の本格始動です」
しまっていたランスを取り出して、やはり散歩のような軽い足取りで中層以上にモンスターで溢れている下層を歩き始める。




