第14話 ちょっぴりガチ装備フレイヤ vs 中層ボス
「さて、中層ボスの部屋の前まで来たわけですが、ここで何か要望があれば言ってください。正直中層のボスはそれなりの数倒していて、攻撃パターンなどは把握していますので」
ボスモンスターと呼ばれる、その先の未開拓エリアや層に続く道を守護し、進もうとするものを阻むモンスターは中層以降からしか出現しないが、中層のボスモンスターであってもかなり強力だ。
その強さは下層の上域から中域ほどで、下手に挑めば殺されてしまう。
なので定石は、ボスの攻撃を受け止めるタンク、注意を引き付ける前衛、火力減の呪術師や魔術師で大きなレイドを組んで挑む。
ただフレイヤはソロなのでそんな風に役割分担できるはずもないのだが、そこは圧倒的火力でものを言わせている。
いつも通り大火力で片付けることもできるが、今はたくさんの視聴者がいるので退屈させないためにも何か工夫したいところだ。
ゆえに視聴者からこうしてほしいという要望があれば、それに従うつもりだ。
”そのままでも観てて楽しそう”
”翼ありの武器なし縛りとかどう?”
”流石にボスモンスターでもフレイヤちゃんはきついでしょ。ちょっとガチ装備で行ってもいいんじゃない?”
”ランス以外だとまだあの大剣しか知らない”
”結構蹴りを使ってたし、翼ありでステゴロとか行けるんじゃない?”
募集をかけてみると案外集まるもので、次々と案が出てくる。
その中でも一番多いのは、翼型デバイスを使いながらの超近接戦闘だった。
そういえば今までのボス戦は、ランスや体験やその他といった武器を使ってきたが、武器なしはやったことがなかったなと思いだす。
「では翼型デバイスありで武器なしで行きますね。ただ完全に丸腰だとダメージが与えられないので、メタルブーツとガントレットは着けさせていただきますね」
”フレイヤちゃん本人に魔力はないの?”
”魔力まとわせれば行けるはずだけど”
”魔力攻撃をしない理由があるのかな”
「魔力はあるんです。ありすぎるくらいには。ただ血筋なのか、魔力を使って魔術を使うことは問題ないのですが、まとわせることが上手くできないんです」
魔術師であれば誰もが心臓に持つ魔力刻印。そこに呼吸することで取り込まれる大魔を負の感情を使って魔力に変換して、心臓から伸びる魔術回路に流すことで魔力励起状態、あるいは魔力強化状態になって、いつでも魔術が使えるようになる。
魔力の操作は基礎中の基礎で、フレイヤも呼吸するように魔力強化状態になることはできる。そこから切り詰めた魔術の高速詠唱で魔術を連発することだってできる。
しかし、もう一つの基礎である魔力をまとわせることが壊滅的に下手なのだ。
何度やってもできないので父親に相談したら、ロスヴァイセ一族はみんなそれだけがとにかく下手らしい。代わりに武器にまとわせることだけは、なぜか突出して上手いと、結構ちぐはぐなのだ。
ちなみに魔術を使わずにいる理由は、詠唱している時間が無駄なので同じ効果の魔導兵装で殴ったほうが早いからである。
「なのでこうして魔術を使わず武器なしで戦うなら、最初から魔力が込められている魔術道具や魔導兵装がないとダメなんです」
”へー”
”そんなこともあるんだ”
”得手不得手はあるけど、血筋でダメってこともあるんだね”
”ちょっと面白いから、他にも似たものないか後で探してみよ”
思わぬフレイヤの欠点が出て不思議がっているコメント欄を見ながら、近くにある岩に腰を掛けてからメタルブーツを取り出して、今履いているニーハイブーツを脱ぐ。
「むぅ……。やっぱりあまり激しく動いていないのにもう蒸れていますね。動きやすいですけど、通気性があまりよくないのが欠点ですね。改良しないと」
”蒸れ蒸れタイツエッッッッ!”
”わ~お(◉ω◉`) ジーーーッ”
”もっと近くで見せて!”
”そのブーツ言い値で買いますっっっ!”
”タイツに覆われたフレイヤちゃんのおみ足prpr”
”蒸れたその足をぺろぺろしたい”
”その足で踏んでほしい”
「ず、随分変態的なコメントが多いですね……?」
ブーツを脱いだ途端に変態コメントが爆増し、ドン引きしてしまう。その表情すらスパイスになったのか、コメントが更に加速する。
こういう時はどう対処すればいいのか分からないので、リタもこの配信を観ているだろうし帰ったら相談しようと決め、脱いだブーツをしまってメタルブーツを履く。
しっかりと留め具を閉じてから軽く動き、脱げないことを確認してから今度はガントレットを着ける。こちらは自動調整機能が付いているので、楽々装着できる。
今度このメタルブーツにも同じものを付けようかなと考え、その場で軽くシャドーをしてからボス部屋に続く転送陣を踏む。
ザザッという音と共に景色が変わり、ボスの待ち構える大広間に飛ばされる。
今なお変態コメントで溢れる中に、どこのボスなのだろうかと期待するのが見受けられる。
何度も挑んでいるのでよく知っているが、あえてどのボスなのかは教えないでおく。
「……来ましたね」
髪飾り型の探知機が反応を示す。
「アオォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
広間全体に響くような大きな遠吠え。幾度となく挑んで幾度となく消し炭にしてきたため、もはや聞き慣れたものだ。
その遠吠えの後、フレイヤの正面にある巨大な岩の向こう側からこの部屋に鎮座し、この先に進まんとする侵入者から下層を守護するモンスターが現れる。
全身灰色の毛皮で覆われた六メートルを超す巨大で屈強な肉体。刃物のように鋭い爪を持ち、その頭は凶悪な狼のもの。
おとぎ話や伝承などでよく登場する半人半獣の怪物、人狼。ダンジョンのボスモンスターとしてつけられた名前はライカンスロープだ。
”おいこれ人狼じゃねーか!”
”ライカンスロープかよ!?”
”あれこいつこんなデカかったっけ!?”
”挑戦者が女の子だとデカくなるとか?”
”んなバフあったらこえーよ!”
”迫力やっば”
”やっぱ武器ありにしたほうがいいんじゃ”
「心配なさらずとも、もう幾度となく倒していますから平気ですよ。それでは、下層へさっさと行くためにサクッと倒しちゃいましょう」
腰に反重力制御装置付きの翼を、背中にスラスター付きの翼を展開して、履いているメタルブーツのメイン効果である脚力の大幅強化をフルに使った爆速特攻を仕掛ける。
その突撃に加えてスラスターも吹かせているため、その速度はただぶつかるだけでもモンスターを蹴散らせるほど。
だが相手はボスモンスター。今までのモンスターと比べてはいけない。
狼の部分の野生の勘か、それとも見えているのか、勢いたっぷりの右拳の突きを繰り出すが余裕を持って回避される。
それどころか通り過ぎる前に攻撃を仕掛けようとしてきたので、一瞬だけ全てのスラスターを吹かせて急加速し、攻撃から逃れる。
「ガオォ!」
大きく離れたフレイヤを逃がすまいとライカンスロープは地面を蹴って追いかけて来る。流石は中層最速のボスモンスター。速度を落としたとはいえかなりの速さで移動しているフレイヤに追い付く。
「ふっ!」
刃のように鋭い爪で攻撃を仕掛けてくるが、それらを全てガントレットで受け流しながら、合間に蹴りを繰り出す。
その蹴りは引き戻された腕や足で受け流され、中々命中しない。
威力だけで見ればかなりのものになっているのだが、当たらなければ意味がないことを直感で理解している様子だ。
だがフレイヤは自由に空を飛べるがライカンスロープはそうもいかず、途中で失速して地面に落ちていく。
「今度はこちらからですよ!」
くるりと反転してからスラスターを思い切り吹かせて、片足跳び蹴りの体勢で超加速する。
もはや目で追えない速度での加速だが、危険を察知したライカンスロープは直前で大きく跳躍して回避。そのまま地面を蹴りつけるが、右足が地面に深く突き刺さるように減り込んでとてつもないヒビを部屋全体に加える。
”ふぁーwwwww”
”ふぁ!?”
”えぇwww”
”意w味wがw分wかwらwんw”
”ボス部屋って壊れるの!?”
”いやいやいや、威力どうなってんのよwwww”
”今ので怪我していないあたり、フレイヤちゃんも頑丈ね”
ボス部屋全体にヒビを入れる想像以上の威力に、視聴者が困惑しているのかコメントの流れが速くなる。
いい具合に盛り上がっているのを横目で確認し、突き刺さっている足を地面から引き抜いて跳躍してきたライカンスロープに向きなおる。
鋭い爪のある腕を連続で振るってきて斬り付けようとしてくるが、全てを回避しメタルブーツやガントレットで防いだり受け流す。
硬質な音がボス部屋の中に響き、反響する。
”戦い方がアニメとか漫画みてーなハイスピードステゴロバトルになっとるwwww”
”これで武器持ったらボスも瞬殺できる可能性がある件”
”武器持たない状態でライカンスロープと互角なんだから、ランスとか持ってたらそれどころじゃなかったんだろうなあ”
”ボスが瞬殺されるとか見たいけど見たくねえwww”
”人狼の爪って鉄すら切るから、下手に受け止めると防具破壊されるんじゃなかったっけ?”
”それは常識が通用する一般探索者の場合。フレイヤちゃんには通用しない”
”最初から最後まで非常識極まりねえwwww でも見てて超楽しいwwww”
”どこの戦闘民族みたいな戦い方だよこれwww”
切り裂くように振るわれる腕も、突き刺すように伸ばされた腕も、大きな顎を開けての噛み付きも、全て受け流して回避する。
腰の翼でふわりと浮いて翼のスラスターを吹かせて高速移動しても、それに合わせて追随して激しい攻撃を仕掛けてくる。
こうして無手で戦うことは初めてなので、意外と見たことのない戦い方が見れて新鮮さを感じる。
空中で変態的な体の捻りを加えてフレイヤを蹴り飛ばしたライカンスロープは、その反動を使って壁に足を付けて、ぐっと膝を曲げて縮んだ発条を伸ばす様に壁を蹴って真っすぐ弾丸のように跳躍して左腕を突き出してくる。
蹴り飛ばされたフレイヤも背中の翼で体勢を立て直し、突撃してくるライカンスロープに向かってスラスターを吹かせて飛び蹴りを放つ。
数瞬後に衝突して、ライカンスロープの左腕が千切れ飛ぶ。
「ギャアアアアアアアア!?」
左腕を失ったライカンスロープは悲鳴を上げてきりもみしながら地面に落下する。
”ええええええええええええええええええええ!?”
”ふぁーーーーーーーwww”
”部位破壊しやがったよこの子……”
”むしろ腕だけで済んだライカンが頑丈だな”
”でもここからが大変じゃなかったっけ”
”あ、そういえば……”
”ライカンスロープのやつ、大きいダメージを受けると『手負いの獣』状態になって余計に狂暴化するんだ!”
”これをどう攻略するのかが楽しみ”
「オォオオオオオオオオオオ……!」
コメント欄の言う通り、左腕を失ったライカンスロープは全身の灰色の毛を逆立たせて赤く染まっていく。
大きなダメージを受けた時になる特殊形態の『手負いの獣』。傷の回復などは一切せずに、全ての力をひたすら自身の強化に使うという攻撃に超々特化した形態だ。
爪は全てが数十センチまで伸びて間合いが拡張され、筋肉が膨張してより屈強となる。牙が伸びて一本一本がダガーのようになり、金色の瞳は酷く血走っている。
基本的にこの状態になる前に倒すのが定石だ。『手負いの獣』形態に入ると今まで以上に狂暴化して手が付けられなくなるほど大暴れして、ベテラン探索者でも怪我をするほどだ。
「『手負いの獣』。確かにその能力は非常に脅威ですが、明確な欠点というのがあります。それは───」
「ガアアアアアアアアアアア!!!」
地面を踏み砕く勢いで突撃してきて、今まで以上の速度で攻撃を繰り出す。
上に振りかざされた右腕が勢い良く振り下ろされると、基本破壊不可能なダンジョンのボス部屋の地面に切り傷が刻まれる。
それほどまでに攻撃力が強化されているが、しかしフレイヤは一切動じず慌てず、振り下ろされた腕をがっしりと掴んで反重力で少し浮いてから左側の翼だけスラスターを起動し、猛烈な速度で回転してその勢いのまま思い切り投げ飛ばす。
「筋肉が膨張して大きくなった分、攻撃が非常に単調になって倒すのがとても楽になるんです」
投げ飛ばされたライカンスロープよりも速く先回りして、飛ばされている速度に加えてスラスター全開の超加速から壊滅的な突きを繰り出して、そのまま地面に向かって落下するように加速して叩き付ける。
「ギャバッ!?」
ドゴォンッ! という部屋全体を揺らすような一撃をピンポイントで腹部に叩きこまれたライカンスロープは、びくびくと痙攣してからパタリと動かなくなり、やがてその体をぼろぼろと崩していく。
そしてそこに残されたのは、数十センチまで伸びた鋭利な爪とダガーのような牙一本ずつ、そしてフレイヤの頭よりちょっと小さい程度の大きさの核石だけだった。
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