第13話 人形の軍隊は一か所に集めて壊せ
長めの小休止を挟んだ後、いよいよ中層に足を踏み入れる。
同接はなおも増え続けており、九万三千、九万五千五百と、視聴者の増加が止まらない。
「中層からは少し敵が硬くなるのですよね。上層と同じモンスターでも、強さが違うことはよくあります。私もまだ装備が揃っていない時期は少し苦労したものです」
まだ今のように高火力の魔導兵装をそこまで揃えていない初期の頃を思い出す。
怪我をすることはもちろんなかったが、囲まれたりしたときはそれなりに苦戦していた。
”いや少しかいwww”
”一応中層って、五割から六割の探索者がメインで活動する場所なんですが”
”モンスターの数も強さも上層とかなり違う場所なのに、少し苦戦するとはこれいかに”
”まあこの子、ランス一本で下層まで潜るだけの強さ持ってるからね”
”配信が一週間前からなのが悔やまれる……”
”過去に戻ってフレイヤちゃんに一つだけ伝言できるなら、活動開始した時期に配信もしてほしいって言うわ”
「そんなの初期の頃の私が見たいのですか? 今ほど派手にやっていませんよ」
”その派手じゃない時期が見てみたいの”
”今よりも知らないことが多くて、あわあわしているんだろうなあ”
”初々しいフレイヤちゃんとか見てみたいです”
どうもその頃のフレイヤが見たいらしい。
フレイヤ自身が言ったように、今ほど派手なことはしていないしダンジョンに住むモンスターがどれだけ強いのかも知らないので、今使っている武器よりも火力などは低い。
それもあって基本的には苦戦することはないのだが、囲まれたりすると少し苦戦するような場面もあった。
そのこともあって、怪我をせずにモンスター包囲網からすぐに脱するためには何が必要かを考え、行きついた答えが圧倒的大火力だった。
”そーいえばさっきから核石拾ってるけど、フレイヤちゃん未成年じゃなかった?”
上層にいるブラッディウルフの上位種のブラッドヘルウルフが飛び出してきたがランスで串刺しにして消滅させ、落ちた核石を拾ってしまっているとそんなコメントが送られてくる。
”そういや十七歳じゃんこの子”
”え、実はヤバいことしてる?”
”未成年は原則ダンジョン産素材の持ち出しと換金は禁止……”
”普通に拾ってたから何も思わなかったけど、そうじゃん。この子未成年じゃん”
”さ、流石に拾ってるだけで出る前に捨てる、よね?”
”こんな可愛い顔してても、法に抵触しているんじゃあ許せない”
「誤解しないでくださいね? 私、一応『未成年限定換金承認試験』受けて受かっているんです。これが証拠です」
未成年限定換金許可申請試験とはその名の通り、未成年でも核石だけに限定してダンジョンから持ち出して換金することが可能になる試験だ。
試験は年に一度受けることが可能で、これに受かると証明書となる換金許可証が発行される。なお、過去にその許可証を偽造するという事件が発生したため、わざわざ魔法使いに頼み込んで複製が絶対にできない細工を仕掛けたそうだ。
”ええええええええええええええええええええ!?”
”あの試験受かってんの!?”
”そこまで美琴ちゃんの同じなのかよwww”
”あれ合格者出すつもりがないって言われるくらい鬼ムズイ試験なのに……”
”まあでもフレイヤちゃんならなんか納得いくかも”
”意味分からん兵器とか回復薬作っている時点で頭いいこと確定だしなあ”
”見た目はモデルとか女優級に可愛くて、革命起きそうなレベルの代物をたくさん作れるくらい頭がいいし、それでいて普通に本体も強い(可能性)。完璧超人か何かかな?”
”身辺調査まで突破するくらいだから、ここまでいい子に育ったんだろうなあ(白目)”
そんな偽造も複製もできない許可証を取り出してカメラに映すと、猛烈な速度でコメントが流れていく。
それもそのはず。この試験、未成年だけが受けることができるものなのだが、その難易度が合格者を出すつもりがないと言われるほど高い。
筆記試験もそうだが、実践試験もあってその時に試験官と模擬戦をする必要があるのだが、その試験官も現役の一等探索者でとにかく強い。
実践試験の合格ラインというのは、五分間の制限時間の中でどれだけ戦えるのかが審査されて、百点満点中九十点ととにかく合格点が高い。
相手が現役一等探索者ということもあるため、仮に筆記試験を突破してもほとんどはここで落とされてしまう。
ちなみにフレイヤは、試験官の猛攻撃を全てエネルギーシールドで受けつつ、合間合間に反撃を何度も仕掛け、ラスト十秒で大振りになった瞬間を見逃さずにパリィして、思い切り回し蹴りを叩き込んで気絶させたため、満場一致で合格となっている。
「ただ、換金できるのが核石だけですし、潜っていられるのもせいぜい二時間が限度なので、ここで下手にたくさん持ち帰ってしまうと税金が発生するラインをぎりぎり超えてしまうんですよね。そうなると面倒ですし、税理士さんを雇う余裕もないので今までセーブしてきたんです」
一体どれだけのお金が投げられるのかは分からないが、その額は人によって大きく変動するのは重々承知なので、期待半分にしておく。
そもそもまだ申請したばかりなのだし、まだあと数日はかかるだろう。何日もずっと期待し続けて、いざ蓋を開けてみたら思っているのと違ってがっかりした、なんてこともないわけではないのだし。
そんなことを話していると、モンスターの反応があった。
警戒しながら進んでいき、通路を右に曲がるとドール・アーミーという個体であるにもかかわらず軍勢で攻撃を仕掛けてくる、中層の中では比較的強敵な部類のモンスターだ。
「ドール・アーミーですか。これも最初はよく分からなくて、倒しきるに時間がかかりましたね。懐かしいです」
”うわあああああああああああ!?!?”
”いやあああああああああああ!?!?”
”一部視聴者がトラウマで発狂しとるwww”
”実際こいつは中層のトラウマモンスター代表みたいなものだろ。倒しても倒しても本体が生きている限り無限に復活するんだから”
そう、ドール・アーミーは個体だが群体という矛盾した特徴を持つが、それは本体がモンスターや怪異特有の無尽蔵の魔力や呪力で、無限に手駒である人形を作り続けるからだ。
この手駒の人形をどれだけ破壊しようとも意味はなく、本体を倒さない限り永遠に戦い続ける羽目になる。
中層に進出したばかりの探索者がこのモンスターと遭遇して、いつまでも続く無限戦闘でトラウマになる者が続出している。
「今回は最初から随分たくさんいますね。下層へ通じる道はここが最短ルートなので、できればここを行きたいです。あぁ、でしたらちょうどいいですね。このまま進めば中層ボス部屋ですし、ここでいいアップになります」
”中層のトラウマモンスターがアップ代わりにされるとかwww”
”強いの分かってても不安になるけど、その発言聞いて安心したよ”
”魔導兵装の性能頼りに見えて、実は結構フレイヤちゃん本人もしっかり動けるって言うね”
とんとんとその場で小さく跳び、五回目で地面を強く蹴って一気に接近して、人形をまとめて十数体粉砕する。
遅れて、どこかに隠れている本体が気付いたのか、破壊された分を補充しながら他の生きている人形を動かしてがしゃがしゃと音を立てながら近付かせてくるが、背中の翼を右側だけを一瞬だけ展開して急旋回し、その勢いのままエネルギーシールドで殴り壊す。
正面から迫ってくる人形をランスで薙ぎ払い、左右から掴みかかろうとする人形は、左側はシールドで防ぎつつ右側はブーツで強化された蹴りで粉砕され、そのまま左足を軸に回転して左側も破壊。
後ろから抱き着こうとしてくる人形もいたが、ノールックで繰り出した後ろ蹴りで粉々になる。
最初の数十体を倒してから十秒も経っていないのに、それだけの時間でも十分な時間なのか、十数体がまとめておかしな動きで走ってくる。
相変わらず人形兵を作り出す速度が速いなと思いながら蹴り壊し、ランスやシールドで殴り壊し、刺し貫いて破壊する。
”やっべwwww 観てて超気分爽快wwww”
”オラ死に晒せやこの戦闘遅延系クソモンスが!!!”
”何度見ても生成速度鬼速いな。これで下層に行くとこれの上位互換のボス、マリオネット・レギオンがいるとかマジですか”
”いい加減土くれから人形作るのやめろや!! 作るならせめて陶器にしろよ!!”
”何人かアーミーに殺意高いやつと、変な要求してる奴がいて草”
”ドール・アーミー戦がここまで爽快なことってある?”
「おや? 動きを変えてきましたね」
包囲するように迫ってくる人形を次々と破壊していくと、これではフレイヤを倒せないと思ったのか人形を散らばらせるのではなく、一か所に集め出した。
それで何をするつもりだと見ていると、そのまま人形たちが隊列を為して突撃してきた。
”なんだその動き!?”
”ファランクスかよ!?”
”特殊行動か何かかこれ!?”
”んなゲームみたいなことあるわけねーだろ”
”これどうやって攻略するのさ”
「一か所に集まってくれるなんてありがたいですね。まとめて倒しやすくなります」
そう言ってフレイヤはぐっとランスを引き、力いっぱい地面を蹴って弾丸のような速度で飛び出す。
中層モンスターとはいえ当たるとそれなりに痛いので正面にシールドを張りながらのその突撃ランスで、隊列を組んで突撃してきた人形がまとめて粉々にされて行く。
”そうだったwwww 相手しているのフレイヤちゃん何だったわwwww”
”翼使わなくてもこの速度で行けんの!?”
”これよりも速い速度で体全身に強烈な一撃を受けても死ななかったお廃棄物様って、かなり頑丈なんだなって”
”これこのクソモンスの本体がどんな顔をしているのか超見てみたいwwww 絶対目ん玉ひん剥いてるよwwww”
”常識がwww 通用しないwww”
”普通あんなふうに隙間なく並んで突撃して来たら逃げるものなんだけどなあ”
一回の突撃で粉砕されるのを目の当たりにした視聴者は、信じられないと言ったようなコメントを続々と送ってくる。
そして翼なしでもかなりの速度と威力があり、これよりも強力だったシールドバッシュを受けた御影ジンの評価が、ここで謎に上がっていた。
”それより本体はどこにいるんだ”
”本体倒さない限り無限戦闘編だよ!”
”探せー!”
「本体はそこですね」
人形が全て破壊されたので、視聴者達が本体がどこに隠れているのか探し始めるが、とっくに見つけているフレイヤはランスを逆手に持ってから、そのまま投擲する。
何もない天井に向かって投げられたランスが突き刺さり、若干遅れて姿を隠していたタキシードのような服に身を包んだ七つ目のモンスターが串刺しにされていた。
「最初からそこにいることは分かっていたんです。よく見ると魔力の糸が繋がっていましたし、そもそも探知機がそこにいるって教えてくれていましたから」
ぼろぼろと体を崩して帽子と核石を落とし、それを拾って指で帽子をくるくると回しながら言う。
”フレイヤちゃんからは逃げられない”
”いよいよサーチ&デストロイが現実味を帯びて来たな”
”姿隠しているはずなのにどこにいるのかが分かっているとか、もう恐怖でしかねえな”
”人形壊れた時点で逃げてたらワンチャンあったかな?”
”探知機持ってる発言してるし、逃げたところで追っかけて絶殺だろ”
”まじでサーチ&デストロイじゃん”
”逃げても地の果てまで追いかけて来る金髪美少女……。これってホラーになりますか?”
「死神みたいな言い方やめてください。逃げたら流石に追いかけませんよ。目標は下層深域なんですから、余計な時間をかけられません」
ジャンプして天井に刺さったランスを引き抜いて着地してから、コメント欄に書かれたコメントを見て、むっとした表情で反論する。
自分の作る兵装によって常人離れした強さを持っていることは自覚しているが、それでも青春真っただ中の現役女子高生なので、化け物扱いや死神扱いはされたくない。
”あっ、カワイッ”
”あっ”
”スゥー……”
”これはスクショタイム”
”ぎゃわいい!!”
”きゃわわ!”
”ちょいおこフレイヤちゃんhshs”
すると今度はよく分からない理由でコメント欄が盛り上がり始める。
一体何がよかったのかよく分からないが、とりあえずフレイヤのことを死神か何かみたいな言い方をするコメントはなくなったので良しとする。
そして進み続けることしばらく。中層と言えどフレイヤの敵ではないため、雑談とそう変わらない緩い雰囲気のまま、しかし上層と同じかそれ以上のペースで進み、中層最深域にある六つのボス部屋と呼ばれる大広間のうちの一つの入り口に到達した。
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