第10話 自宅で雑談配信 with メイド 3
それからはフレイヤは、視聴者からの質問に次々と答えていった。
「クランにも企業にも所属していません。所謂個人勢ですね。今後も所属する予定はないです」
”オーディションとか受けなかったんだ”
”これだけ強いんだったら、どこのクランや企業も受け入れそうなものだけど”
”デカい魚逃がしたって思ってるんじゃないかな”
”個人でここまで大きくなると、もはや企業に所属するメリットなくなるからなー”
”ていうかここで企業のやらせ疑惑や、金払っての八百長疑惑が晴れるのが地味に草”
「収益化は今申請しています。皆さんのおかげで一晩で基準を超えましたので。本当にありがとうございます」
”でも時間かかりそうだね”
”美琴ちゃんもこれくらいのペースで一気にでかくなって、収益化遅れたもんな”
”前例ができたからちょっとは早くなるんじゃない?”
”収益化できたらレインボーロードを作るか赤スパ祭り開催しようぜ”
「お金はちゃんと大切にしてくださいね? 投げ銭してくれるのはありがたいですけど、貰いすぎると怖くなってきますから」
ひたすら投げかけられてくる質問を答えていき、時々リタに対しての質問が来るのでそれはリタが答えたりする。
ただ聞かれたことだけを答えているつもりなのだが、武器関連の質問に素直に答えると若干引いているような反応が見られるが、それ以外は上々の反応だった。
SNSの方でも少し話題になっているようで、「『百合配信』のタグから来ました」や、「破壊兵器製造している女子高生の配信はここですか?」といったコメントが流れてくる。
そんなこんなで配信は一時間、言葉が途切れることなく続いて、ありがたいことに同接も七万人まで膨れ上がっていた。
このままいけばもっと人が集まるだろうが、いつの間にかリタが部屋からいなくなっていて、時計を見るとそろそろ夕飯時だし、そもそも配信は一時間だけと決めてあるのでいい頃合いだろうと次の質問に答えるのを最後にする。
「少し早いですけど、もうそろそろ時間なので次の質問を最後にしますね」
”出身はどこ?”
”スリーサイズ教えて!”
”普段来ている服のブランド教えてほしいな”
”作った武器の販売は考えていますか?”
”次の配信はいつになりますか?”
最後にふさわしい質問はないかとコメント欄を見ていると、一ついいものが目に留まった。
「次の配信は明日を予定しています。明日は普段通りのダンジョン探索になりますので、私が作った魔導兵装の性能をお見せします」
質問コメントを拾いながら答えていた感じ、視聴者はフレイヤのオリジナル魔導兵装が気になっているようなので、その期待に応えるべく明日ダンジョン探索すると宣言する。
ネットは熱しやすく冷めやすい。雑談配信でここまでたくさん人が集まってくれていても、すぐに本領であるダンジョン探索をしなければせっかく固定リスナーになってくれそうな人が離れて行ってしまう。
明日から早速ダンジョン攻略配信をするのは、今この場で決めたものだが、リタもきっと同じ答えを出すだろう。
”キタアアアアアアアア!!”
”早速ダンジョン攻略配信感謝!”
”こんなの残業してる場合じゃねえ!”
”課題やってる場合じゃねえ!”
”昨日は音声だけだったからなあ。実際の戦闘を生配信で観るの楽しみ”
”SNSの通知とチャンネル登録して通知オンにしておかねばっ”
最後の最後にコメント欄も大盛り上がりを見せる。
やはり雑談よりも視聴者は攻略風景を見たいようだ。
「それでは今日の配信はここまでです。見逃さないようにチャンネル登録して通知をオンにして待っていてくださいね。今日は最後まで見に来てくれてありがとうございます! See you in the next stream! Bye Bye!」
”お疲れー”
”おつー”
”乙ー”
”バイバーイ!”
”Bye bye!”
”また明日ー!”
”楽しみにしてるよー!”
マイクを切って配信画面にエンディングページを表示させて、終わってもなお流れるコメントを少し眺めてから配信を切る。
「ふー……。話すだけでも結構疲れるものですね」
きちんと配信が切れているかどうかを確認してから椅子の背もたれに体を預ける。
「お疲れ様です、フレイヤ様。夕食の準備ができております」
「ありがとうございます、リタ。人がたくさん集まる配信って、疲れますね」
「お風呂の後にマッサージでもしましょうか?」
「……お願いしてもいいですか?」
「……っ。かしこまりました」
少し悩んだが、明日に向けて少しでも疲れを取っておきたいのでお願いする。
そう言うとリタが一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐにいつも通りの柔和な笑みを浮かべて頭を下げる。
配信も終わったことなので椅子から立ち上がってぐーっと思い切り伸びをしてから一緒に一階のダイニングに行き、出来たての夕飯にありつく。
今日は一段と冷える日だったため、ビーフシチューだった。
パンまでいつの間にか手作りしていたようで、焼き立てのほんのりと甘い味と香りがして、まさに絶品だった。
食後はすぐに歯を磨いてから課題を終わらせ、お風呂をリタと一緒に入って疲れを取る。
お風呂から上がり、しっかりと髪を乾かし肌の手入れをしてから部屋に戻ると、早速リタのマッサージを受ける。
「ぁ、ぅ……」
「お加減はいかがでしょうか?」
「すご、く、気持ちいい、です。思っている以上に、体が凝って、いたみたいです、ね」
言葉では言い表せないような気持ちよさに体をよじらせながら、絶妙な力加減のマッサージを堪能する。
回数を重ねるごとに上達していっており、既に完璧以上になっている料理や掃除もだが、これだけできるのだから店を開けそうだ。
「明日の配信で、どれくらいのリスナーが定着してくれるでしょうか」
「恐らく今回来た方々は全員定着すると思いますよ」
「そう、でしょうか?」
「フレイヤ様の戦いはとても配信映えしますから。きっと多くの人がフレイヤ様のファンになりますよ」
配信者の世界は厳しいなんてものじゃない。今は昨日のこともあって賑わってくれていたが、本質は一過性の流行に大勢が乗っかっているだけのもの。
そこからどのようにしてどれだけの人を固定にするかは、フレイヤの腕にかかっている。
だからこそ、明日の探索配信でどれだけ人が定着してくれるかが重要になってくるし、固定リスナーになってくれるかどうかが不安なのだ。
「どれだけの人が来ようが来なかろうが、わたしはフレイヤ様のことを心より応援しております」
「いつもそう言ってくれてありがとうございます、リタ。……もう、大丈夫ですよ」
うつぶせになっているフレイヤの上に馬乗りになっているリタに、もう十分だと伝えて降りてもらう。
体を起こして肩を少し動かすが、やってもらう前と後で随分と軽さが違う。やっぱり一時間程度の雑談配信でも、人の数が違うだけで疲れるものなのだなと苦笑する。
「それではフレイヤ様、お時間ですので」
「えぇ。……ねえ、リタ」
「はい、なんでしょうか?」
ベッドから降りて部屋から出て行こうとするリタを呼び止める。
ドアノブに手をかける直前で止まったリタは、どうしたのだろうといった顔で振り向く。
「今日は久しぶりに、一緒に寝ませんか?」
「……へ?」
一緒に寝ようと提案すると、珍しくリタが顔を赤くして見るからに少し狼狽える。
「し、しかしわたしにはまだお仕事が……」
「さっきも言いましたけど、少し働きすぎです。もうお風呂に入ってパジャマに着替えているのですから、これ以上仕事をするわけにはいかないでしょう。これはあなたの雇い主である私からの命令であり、そしてあなたの幼馴染からのお願いです」
「……わ、分かり、ました」
そう言ってリタはドアから離れて、フレイヤの方に寄って来る。
「それっ」
「きゃあ!?」
ベッドの縁に腰を掛けるのと同時に飛び掛かって、そのまま押し倒す。
「ふ、フレイヤ様!?」
「ふふっ。久々にあなたの悲鳴を聞いた気がします。最後に聞いたのは、去年のハロウィンにホラー映画を観ていた時でしたか」
押し倒したため髪が少し乱れていつもは隠れている左目があらわになり、両方とも驚愕の色に染まっているのがよく分かった。
いつ見ても綺麗な瞳の色だなと見ていると、恥ずかしそうに顔を逸らす。
「あ、あまりまじまじと見られると、恥ずかしい、です」
「さっき配信で誤解を解くのを手伝ってくれなかった罰ですよ」
「申し訳ありません……」
「今更謝っても遅いですよ、もう」
リタの右側に横になって、添い寝する。
ベッドの上なので距離が近く、お互いの体温や匂いを感じ、相変わらずローズマリーのような香りがしてくる。
「明日から忙しくなりそうですね」
「そうですね。わたしも色々と頑張りませんと」
「きちんとスケジュールとかを決めないといけませんね」
「フレイヤ様の体調などを考慮して、毎日ダンジョン攻略ではなく、週に三回から四回はダンジョン攻略配信、残りは雑談枠かお休みにしたほうがよろしいかと」
「詰め込みすぎは体によくないですからね。お休みの日は二日取るようにします」
「無茶をするようであれば、わたしが無理やりにでも休ませますからね?」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
電気を消して、明日からのスケジュールを話し合い、時には軽口を叩き合っては小さくくすくすと笑う。
そうやって話している間に、ふかふかのベッドとリタから伝わってくる体温と疲れで眠気が急にやってきて、瞼が重くなってくる。
それはリタも同じなようで、眠気に抗おうとしているが睡眠欲は人間の三大欲求の一つであるため、抗いきれずに瞼を閉じてしまう。
今日は珍しい一面をたくさん見れたなと先に眠ってしまったリタを見て思い、フレイヤもまた瞼を閉じて深い眠りに就いた。




