紙屑
「やった。完成だ!」
慎重に、慎重に……可憐な細い指が、女性の額に触れる。
沈黙のさなかで額が輝き、美しく正座する女性の首が機械的に上がった。
しかしその動作は、たった今生まれた人造人間とは考えられないほどに秀麗でもあった。
「はじめまして。動作開始しました」
微細な濁りもない澄んだ声だった。女性の声を聞いた少女は、後ろに手を組んで微笑む。
ブロンドとコバルトブルーの混ざった髪を揺らし、眼鏡の奥にある目を輝かせながら、女性の顔を見つめた。
「はじめましてっ。えぇと、まぁ……無事に動いてくれて……うれしいよ」大人びた声は、情熱の震えを帯びている。
女性の金色の目に、僅かな光が灯った。
「ありがとうございます。あなたが誰か、知りたいです」
「あたしは」少女は遠い目をして、自らの胸を押さえた。「君の家族。ああそうだ、君は私の家族だ」
女性は口をつぐみ、純真な笑顔を見せた。
少女は小鳥に近付くように優しく女性へ身を寄せ、その肩を強く抱きしめる。
「君がこれからどんな風に生きるのか想像もつかない。だけど君には、誰でもいい――誰かに、夢を与えて欲しい」
「君の名前は、天夢だよ」
ずっと前方を見ていた女性の視線が、少女の肩へと動く。
少女は満足げに体を離すと、目を瞑って嬉し気な笑みを浮かべた。
そして、部屋の隅ではにかんでいるもうひとりの女性へ手招きした。
「来なよ、光。妹にずっと会いたいって言ってただろ……まだこの子に意識はないけど、君の名前は憶えてくれる」
「は、はい。蓮さん……」
光と呼ばれた女性はうつむきながら天夢の前まで歩み寄り、その場に座って視線を合わせた。
「わたしは光……。よろしく……っ」長すぎるほどの髪をなびかせ、勢いよく天夢に抱きついた。
天夢はしばらく表情を変えなかったが、やがて僅かに笑みを浮かべて姉の背中に手を回した。
「こちらこそ」
抱き合った2人の髪が、深く絡み合って輝いた。
「じゃあ、またね」