45もう、無理。
神楽坂さんがスキル名を唱えてスマホをタップすると俺の身体が薄い光に包まれ、身体の痛みが引いていく。
「これって」
「さっき使えるようになったみたい。攻撃スキルじゃないからあまり役に立てないかもだけど」
「いや、助かった。これでまだ動ける」
まさに天の恵みだ。
体力も、身体の痛みも完全に癒えたわけではないが、動かなくなっていた身体と腕が再び動くようになっている。
精神的な摩耗も少し和らいだのか僅かばかり気力も回復している気がする。
俺は動くようになった身体で新田さん達が戦ってくれているところへと駆け、目の前ゴブリンを斬り伏せていく。
「ああああああ!」
力と気力を振り絞り腕と身体を動かし続ける。
数匹のゴブリンを相手取ると神楽坂さんのおかげで回復したはずの身体がすぐに悲鳴を上げ始める。
俺以外のスキルホルダーも既に限界を迎えており、ゴブリンの殲滅には至らない。
いったい何匹いるんだ。
もう自分が倒した数も正確にはわからなくなってしまったが、絶え間なく襲ってくるゴブリンが無限に湧いてくるような錯覚を覚える。
もう無理だと何度も心が折れそうになるが、向日葵や三上さん達を護らなきゃという義務感だけで、どうにか持ち堪えゴブリンへと立ち向かう。
「こんなところで死んでたまるか!! 俺には家族が待ってるんだ〜!!」
「くっそ〜! 独り身だって死んでたまるか!!」
「ママ〜死ねるかよ〜!」
「うおおおお〜!!」
「おせええええ!!!」
誰からともなく声が上がり、戦っているメンバーが残った気力を絞り出すように呼応する。
「彼女作るまでは死ねるか!! 俺の最後はゴブリンじゃなくて優しい彼女の胸の中って決めてるんだ!!」
「サラリーマンをなめるな〜!! 絶対特別手当もらうぞ!! クソ〜」
「俺は明日から休みなんだよ〜!」
場違いにも思える声がフロアに響くが、その声でさえ頼もしく思え脚を動かし、腕を振るう。
みんなの必死の頑張りもあり僅かに押し返したようにも思えたが、突然それはやってきた。
無理矢理動かしていた自分の身体が突然動かなくなってしまい、擦り切れ本当の限界を迎える。
「もうダメか……」
俺は残った力を振り絞り声を張り上げる。
「向日葵〜!! 3人で逃げろ!! 頼む! 逃げてくれ! もうもたない!!」
今ので完全に出し尽くした。腕も脚も動かない。もう大きな声を出す事もかなわない。
だけど限界を迎えた俺の状況などお構いないしにゴブリンが迫ってきた。
ああ、終わった……
死の瞬間には走馬灯が走るとか言うけど、嘘だな。
何にも思い浮かばない。
ただ迫ってくるゴブリンが目に映るのみだ。
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