メスマッパーの恐怖
メスマッパーがよだれを垂らしながらこちらへと向かってくる。
俺も必死に身体を動かしメスマッパーを迎え撃つ。
メスマッパーが手に持つ金属の棒で殴りかかってくるが、その動きはオスのマッパーゴブリンより速い。
この勢いの金属の棒を水月で受けると折れる。
俺は必死で避けるが、踏み込んできたメスマッパーとの距離が詰まる。
メスマッパーが間近に迫る。その涎を垂らす顔を見ると、無理矢理動かした身体が鎖で拘束されたかの如く重くなり、また動きが鈍る。
「うわっ」
メスマッパーが想定外の動きを見せる。
手に持つ金属棒を放り投げ、俺の両手首を掴んできた。
まずい。
物凄い力だ。
「くそっ! はなせ!」
振り解こうと力を込めるが、メスマッパーの方が膂力で優っているようで振り解く事ができない。
両手首を掴まれた俺は、メスマッパーに完全に動きを制されてしまい身動きが取れない。
メスマッパーは更に距離を詰めてゼロ距離目掛け迫ってくる。
メスマッパーの顔が、俺の目と鼻の先へと迫る。
必死に抵抗を試みるが、圧倒的な力の前では無力。
俺は、その場へと押し倒されてしまった。
まずい、まずい、まずい!
襲われる!
いや、既に襲われてる!
俺に馬乗りになったメスマッパーは力任せに迫ってくる。
逃げられない。
生命の危機を感じ、全身から一気に血の気が引いていく。
諦める事はできない。
ここで諦めたら死ぬ。死ななくても終わる。
だけどこの状況、俺の力では覆す事ができない。
絶望。
この状況こそ絶望と呼ぶのだろう。
「御門から離れなさい! 『アイスフィスト』」
俺が死の淵で絶望に駆られているその時、俺を押さえ込んでいたメスマッパーが氷の拳に殴り倒され、俺の上から後方へと弾け飛んだ。
その直後、メスマッパーの顔面をボウガンの矢が捉える。
「ガガガッ」
「もう消えて!」
舞歌の声がしてメスマッパーの胸にもボウガンの矢が刺さり、そのままメスマッパーは消滅してしまった。
助かった……。
英美里と舞歌に助けられた。
たすかった事を認識して全身から力が抜ける。
まだ、終わってない。
まだ、マッパーは残っている。
それはわかってるけど身体に力が入らない。
「御門くん、大丈夫⁉︎ 今治すからね『ヒーリング』」
舞歌が俺に駆け寄り
回復をかけてくれ、全身が癒しの光に包まれる。
メスマッパーに掴まれた手首の痛みが消え、あの顔に迫られた恐怖が癒えていく。
あぁ……やっぱり舞歌は天使なのかも。
戦闘不能に陥った俺に代わりに英美里と野本さんが戦ってくれ、それ以上の被害を受けることなく戦闘を終えることができた。