マッパーゴブリン
今回の依頼の趣旨(あくまで推測)を理解して愕然となるが今は立ち止まる時じゃない。
ホブゴブリンとは何度か戦ったことがあるし、普通にやれば問題ないはず。
違うのは、着衣の有無のみだ。
くっ……ダメだ。どうやってもアソコに集中してしまう。
こうなったら、消し去る為もう一度やってみるしかない。
水月を持つ手に力を込めマッパーゴブリンへと駆け間合いに入ると同時に振り下ろす。
「ギイィイン」
およそ肉を斬ったとは思えないような金属音が響く。
くっ……。
「ギヤアアアア」
斬れている様子はないがダメージはあったのかマッパーが声をあげる。
ただ、ダメージがあったのはこちらも同じだ。
手首を痛めた。
刀を持つこちらの手がやられるとは、とんでもない硬さだ。
深追いせずにその場から一旦下がる。
「舞歌、回復頼む!」
「うん、まかせて。『ヒーリング』」
こんなタイミングで舞歌にスキルを使ってもらうのは本意ではないけど、手負いで倒せる相手じゃない。
舞歌のスキルの恩恵で手首の痛みと同時に身体の気怠さも消え軽くなる。
再度、マッパーへと踏み込むが、オークと違い腹は出ていないので狙うは頭か。
水月を水平に振るが、マッパーの持つこん棒で防がれてしまった。
「御門、右へ!」
英美里の声に反応し、水月を引き右側へと飛びのく。
直後マッパーの胸にボウガンの矢が刺さる。
「グえっ」
かえるのような声を上げマッパーの動きが止まる。
「これで終わりだ~!」
再びマッパーの頭部を狙い水月を振り抜く。
山田さん達もまだ戦っているし、マッパーはまだいる。
すぐに次のマッパーへと向かうが、今度のマッパーは今までのマッパーとは少し異なっている。
なにが異なっているかといえば、アレがない。
アレがない代わりに出るところが出ている。
つまりはメス。
オークは全てのマッパーがオスだったと思う。
今までモンスターの性別を意識したことはなかった。
だが、今俺と相対したマッパーは明らかに興奮状態で口からはよだれを垂らしている。
その姿を間近に見た瞬間、全身を悪寒が貫く。
人型のメス。
モンスターとはいえ、本来であれば高校生の俺には少々刺激が強いはずだが、これは違う。
俺の本能が警鐘を鳴らしている。
俺の細胞が、生物としての危機にサイレンを鳴らしている。
身体が竦む。
これほどまでのは、以前ミノタウロスに相対した時以来だ。
こいつはヤバイ。
すぐにでも倒さなければヤバイ。
『うおおおおおおおおおおおお~!」
強張った身体を無理やり動かすために、ダンジョンに潜って今までで一番の雄たけびを上げる。