おいしいところ
暴れているけどホブゴブリンの視力はまだ戻ってはいない。
俺の事もはっきりとは認識出来ていないので、慎重を期してホブゴブリンの後方へと素早く回り込む。
右腕と武器を失ったホブゴブリンに先程までの怖さはない。
後方から距離を詰めて一気に水月を振り抜いた。
ヌルッとした水月独特の感触が手に伝わってきて、直後ホブゴブリンの首が落ち切断面からは噴水にように血が吹き出してきた。
なんとか倒せた。
倒せたけど、やってしまった。
消滅してしまえばモンスターの姿は消えてしまう。
ただし、消滅の前に流れた血はそのまま残る。
つまり、この大量に吹き出している血は、後で誰かが掃除しなければならない。
格上とのギリギリの戦いの中で後片付けの事まで気を回しながらなんて器用な事は不可能だけど、心臓を貫くとかもう少しスマートなやり方があったかもしれない。
「御門、やったわね。だけどまだ2匹残ってる」
「わかってる」
3年生が相手取ってる方はなんとかなりそうなので、岸田たちの方へと行きたいところだけど深く呼吸して乱れた息を無理矢理整える。
1番の難敵を退けたといっても、連戦で俺も余裕があるわけでは無く体力と精神力はかなりすり減っていて厳しい。
「チクショ〜が！ 岡島〜！！ さっさとフォローしやがれ！！！」
「岸田、すまん．あと1発しかないんだ」
「はぁ〜！？ お前舐めてんのか？ クソがアアアアアアア！！」
厳しいけど、岸田はもっとキツそうだ。
ただ岸田と岡島のやり取りが、妙に面白く感じてしまい思わず笑いが口から漏れそうになる。
岸田もスキルは切れてるだろうし、近接でホブゴブリンとなんとかやりあえているのを見ても結構やる。
あの大口と大声が無ければ、頼もしい奴には違いない。
ただ、それは岸田ではないのかもしれない。
「フゥ〜〜」
身体は重いけどいける。
「岸田ぁ〜！ 踏ん張れ!」
声をかけてから、両脚に力を込めて岸田の下へと走り出す。
岸田とやり合っているホブゴブリンへと距離を詰め水月を走らせる。
「御門！ おせええええんだよ！ 俺がやられたらどうしてくれるんだ！」
「文句は倒してからにしてくれ」
「そんな事はわかってんだよ！ 俺を誰だと思ってんだ〜！」
岸田だろと返してもよかったけど、まずは目の前のモンスターだ。
さっきの一振りで手傷は負わせた。
俺が加わった事で一気に形勢が逆転しこちらへと傾く。
「うおおおおおお！ 死ね死ね死ね〜〜！！」
ホブゴブリンの様子を見た岸田が前に出た。
完全に勝負を決めにいってる。
岸田をフォローすべく俺もホブゴブリンへと斬りかかる。
「俺だ！ 俺が決める〜〜！！」
岸田も手に持つ武器でホブゴブリンに手傷を与え、敵は完全にグロッキー状態になり、顎が上がり顔が無防備となった。
[アイスフィスト]
その瞬間三上さんのスキルがホブゴブリンの顔を完全に捉え潰した。
