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月下想  作者: 水月沙夜野
ルーク十一歳(仮)
9/25

診療所にて 三

 次の日の朝食はその漬物もどきを使った粥で、美味くはないが食べられる味になっていたので、ルークの自尊心は少なからず傷付いた。

 朝食を食べながら、その日から、カヤルの講義が始まった。曰く、その難しい術というのはルークの夢に入り、夢を辿って兄王の意識を呼び出し、無事を伝えるというものらしい。


 「そんなこともできるのか」

 「夢というのはすべて繋がっているから、理論上はな。俺もやったことない術なんだ。今回はルークの夢に入るから、この術が成功するかどうかはお前によるところも大きい。だから最低限の下地は整えておきたい」


 ノマは夕方に帰ってきた。カヤルはそれがわかっていたかのように風呂を沸かしていた。


 「まあ、嬉しい。寒い中赤ちゃんのところに行ったら、他にも患者さんがいてねぇ、もうくたくただったのよ。カヤルさんも後で入りなさいね」

 「いえ、俺は、……行水のほうがいいです」

 「なんでだよ、寒いだろ。それも何か術と関係があるのか?」

 「それはないが……」


 カヤルは眉根を寄せてそれ以上答えなかった。







 世界は、知ること、思考することで開ける、とカヤルは言った。


 「一見無意味な思考を続けていると、それを愛してくれる存在が現れる。その存在に手助けしてくれるよう頼むのが、俺の使う術の正体だ。思考は人によって違うから、術がどんなものかも人によって違う。呪術とか、魔術とか、一応区別はできるが、人間が決めた呼び方に意味はないと、俺は思う」

 「その存在って? 精霊とかか?」

 「人による。俺の場合は自然の精霊達が多いな。あとは夢の司と、動物達と、他にも少し。人によって神とか、悪魔、霊、山や海そのもの、自分自身、飼っている猫だったりもするよ」


 自然の中にいたほうがいいと言って、カヤルは家の裏手にある小川にルークを連れ出した。松葉杖を突いてルークはカヤルを追いかける。

 自分の体力があまりにも落ちていて、ルークは衝撃を受けた。少し歩いただけで息切れがするのだ。それでも、家で縫い物をしているよりずっといい。


 「世界の愛に比例して、人の中で生きるのが難しくなる」


 川縁の地面に座り、片膝を立てて水面(みなも)を眺めやりながら、カヤルは言った。


 「カヤルは俺とノマさんと生活してんじゃんか」

 「ノマさんからは微弱だけど、世界からの愛を感じる。あれだけ微かだったら、村でも生きられるだろう」

 「俺は?」

 「お前はよくわからん」

 「なんだそれ……」

 「目も髪も黒いしな。たぶん、例外か、愛される前か……ルーク、お前、生まれつき体に痣か、動かしづらい所はあるか?」

 「痣なら、胸にあるぞ。背中にも」

 「ちょっと見せろ」


 ルークは着物の帯を緩め、前をはだける。寒さに身震いする。カヤルの整った顔が近付いて、その白い手がそっと胸に触れる。


 「……うん。例外、かな。お前は。何の愛も受けてない。普通の人間だ」

 「例外って、どういうことだ」


 ルークは着物を直しながら訊く。


 「術者は、受ける世界の愛に比例して、世界に愛されなかった普通の、大多数の人間に、愛されることはなくなる」


 カヤルは無表情で言う。


 「例外ってのは、そんな術者に対して普通の人間みたいに接せれる奴のことさ。前世は術者で、今世では愛を持たずに生まれてきたと言う人もいる。本当かどうか調べる(すべ)はないが……人を愛し、人に愛され、術者をも愛することができる」


 そのカヤルの無表情を見つめながら、ルークは言った。


 「お前だって、普通に人間だろ」


 カヤルは疲れたようなあの笑みを返した。


 「それはお前が普通じゃない」


 その疲れたような、諦めたような顔が、ルークは酷く嫌だ。


 (だって、お前はちゃんと、楽しそうに笑えるじゃないか)


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