建国伝説
昔々、この東の果ての地の島は、まばらな小国からなり、戦が絶えなかった。
あるとき、戦を嫌った男が一人、世界を見て回ろうと考えた。男は旅の果て、西の果ての地の美しい湖で、一人の少女と出会った。
少女は人というよりも、精霊に近い存在であったという。世界のあらゆるものの声を聞き、あやしの術を使った。そんな彼女を男は愛した。故郷に帰り、夫婦になれたらと愛を語った。
少女は了承した。湖の底から拾い上げた石で装身具を作って男に与え、男は水辺に咲いていた花を少女の髪に挿した。
強大な力を手に入れた男は、故郷の島を統一し、国を造った。少女は男のために、強固な城壁と、堅牢な王城、そして国を見渡せる天にも届くかという塔を、一晩で造ったという。それは、この国古来の技術である木と紙ではなく、石と硝子で出来ていた。
少女は男が望むままに、道を整え、井戸を掘り、土砂崩れを塞き止め、地の揺れを鎮めた。
男は益々強欲になった。男の欲に嫌気がさした少女は、塔に閉じ籠り、空へと還ったという。
残された男は一人、この国をより良くすることを誓い、子孫にもそれをよく言い聞かせたので、この国はずっと平和なのだという。