少女は異世界を体感した!
「メーナ、メーナ、おはよう」
くぅちゃんに朝、起こされた。
辺り一面、銀のモフモフである。成程これは前世で聞いた犬を飼う幸せとやらか。最初会ったときは子犬くらいの大きさだったがあれは周りを怖がらせない為に魔法で縮めていたらしい。元の大きさは、今の私の倍、だいたい2メートルくらいか。
今は不要に他の魔物を近づけない為に元の大きさに戻ってくれている、らしい。
お陰で溺れるくらいのモフモフでとても幸せである。これはもうちょっとごろごろしていても良いのでは無いか?
「くくっ、それは光栄だがここの森は朝日が綺麗なんだ、よかったら一緒に見に行こう」
たしかに辺りはまだ薄暗い。でもそれはとても魅力的な誘いで。
「うん!」
道中は背中に乗せてもらった。
そのうち体力をつけた方がいいから1日のうち2、3時間は一緒に歩く約束をした。
前世の記憶がくぅちゃんは必要以上に甘やかさない良い人だと感心していた。
「ねぇ、くぅちゃんは飛べるの?」
「ああ、メーナが森の中の生活に慣れたら、街に着く前に乗せてあげよう」
それは楽しみだ。前世の私も、空を飛ぶ経験はしたことが無い。
「ねぇ、魔法は身体を縮める以外に何があるの?」
「いろいろと出来るぞ。炎を出したり、水を出したり。風を起こしたり。」
「くぅちゃんの魔力を分けてもらったら私にも出来る?」
「あぁ、出来るぞ。後で魔力の根本を分けてあげよう。人並みに使えるようになる。」
なんてファンタジー。とっても楽しみだ。
「魔力の根本?」疑問をそのまま聞いてみた。魔力と何が違うのだろう?
「…ああ、生命力のようなもので宿している生物が生きている間に魔力を生み出すんだ。」
「分けて大丈夫なの?」
「私の場合は多すぎて沢山の土地に分けるための旅をしているくらいなんだ。人の一生分くらいでは大して変わらない。それより、ほら、そろそろ着くぞ」
少し歩くと開けた崖のある場所に到着した。
森の中に大小の集落が点々とありその奥に立派な城壁を持つ街があった。地平線はぼんやりと霞んで淡い影となっている。そこから溢れる濃いオレンジは優しげに広がり空の紺色をじわりと染めていく。
「くぅちゃん」
思わず呼んだ。朝日に染まったくぅちゃんが振り返る。
「綺麗だろう」
「うん」
そうしてしばらく、そのまま2人で景色を眺めていた。