伝説はそれに心を奪われる
ただ、生きたい。その鮮烈な願いは突き刺すように僕の心を燃やした。
物心がついてから、普通への憧れは僕の心をジリジリと痛めつけるように炙り続けた。
僕は生まれてから一度たりとも普通では無かった。
生まれ持った異常な量の魔力の所為で決まった歳から旅をする事が義務付けられていた。
大人達は眉をひそめて僕を可哀想と言った。同じ歳の子達は最初は僕を羨ましいと言ったが別れが近づくにつれて大人達と同じ事を言うようになった。
それでも、僕は生まれてから一度たりとも不幸ではなかった。里を出るまでは。
里ではそれはもう大切に育てられた。里で生きることのできる手段である「器」を総出で探してくれた。僕が旅をするならば同じ世で生きようと言ってくれた兄がいた。時間制限付きのなかでも厳しく育ててくれた両親がいた。
家族はみんな僕の前では涙を見せなかった。
僕が旅立つ最後の最後まで。
とても甘えたことを言っても良いのなら里のみんなと同じように、年頃になったら里でお嫁さんを見つけて、穏やかに、穏やかに里で歳を重ねて行きたかった。生まれた場所を離れたく無かった。それが里の中では普通で、それが里の中で1番の幸せの定義だった。ただ、ただ周りのみんなと同じ幸せが欲しかった。
里をたってからは地獄だった。僕は誰に覚えていて貰っているのだろう?里のみんなは、家族は、まだ僕を覚えていてくれているのだろうか?そもそも膨大な量の魔力の所為で寿命すら違う。みんなはまだ生きているのだろうか?
最初の100年は怖くて怖くて、毎年暦を確認した。持っている魔力の根本をさまざまな地に分けなければ里に帰ることも死ぬことも出来ない。
そんな事をしてしまったら地のバランスを崩して周りを不幸にしてしまう。早く、早く。1番目の兄さまは大使として人の王と盟約を結び、人の世で生きる事が決まった。父の死と母の死は1番目の兄さまから教えられて知った。
その兄も寿命はあと半分を切ってしまった。
僕はあとどれくらい生きればいい?
そんな時だった。そのか弱くも眩しい生き物に出会ったのは。