少女は差し伸べられた手をとった。
「ひとり旅は意外と退屈でね。君さえ良ければ話し相手になってもらいたいんだ。君が安心して過ごせる群れに送り届けるから」
白いやつはそう言うが、送り届けてもらう場所なんて検討が付かない。心や記憶が筒抜けになるのなら、普通じゃないものを見せてしまう事になる。
長い付き合いになりそうな人ほどそう言ったものは見せたく無いんだよな…
いつ守ってくれなくなるか分からないし、普通では無い私は負担にしかならないから。
ねぇ、でも私、世界を眺てみたいって思ったじゃん。ついていけば、叶うんじゃない?
「話すの、つまらないかもしれないよ?」狡い訊き方をした。
「長旅になればそういう事もあるだろう」
「普通じゃない記憶があるの」
「君が話すまで聞かないようにしよう」
「私、性格悪いかもしれないよ」
「まだ幼いのにそんな事気にしてどうする?」
そこまで答えると、白いやつは私を覗き込んで訊いた。
「共に旅をする事、了承したと受け取っていいだろうか?」
「……うん。」
私の返事を聴いたそいつは少し弾んだ声で名前を訊いてきた。
「メーナ」
「そうか、メーナか。メーナ、これからよろしく。今から僕の魔力で君を包むから少し変な感じがしても我慢な」
「名前!アンタの名前聞いてない。」
「僕の名前?あ、あぁ僕に名前は無いんだ。里の皆んなと同じように月の子もしくは月の人と呼んでくれたら…」
「くぅちゃん。私、アンタの事くぅちゃんって呼ぶから。」
何だかそう呼んでしまったらいけない気がしたから、勝手に呼び方を決めた。そいつは少し涙ぐむと小声でありがとうと呟き、その瞬間私は目に見えない綿のようなもので自分が包まれたのを感じた。
守られているという安堵感は目の前にいるやつの強張った表情ですべて知られてしまった恐怖に変わったけど、それでもそいつが大丈夫、よく頑張ったな、なんて言うから私は泣いて、泣いて、泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい。