第68話・15 (閑話)コシ・カッチェ(1)
竜騎士の噂を聞いた人々の反応です。
ロマナム国の密偵コシ・カッチェと中間はロマナム国王です。
コシ・カッチェは飛竜の噂を聞いてイスラーファの影をそこに感じていた。
まだイガジャ領にイスラーファが居るのではないだろうか?
イガジャ男爵にはイスラーファの事で手ひどく振られている。
その時はキラ・ベラ市の貴族を嫌っての事だと思っていた。
だが本当にそうなのだろうか、ひょっとしてイスラーファを隠している事を知られたくないので振ったのかもしれない。
一度カカリ村へ行って調べなおす必要がある。
コシ・カッチェは今、ロマナム国へ帰国し再起を図り組織を作り直している。
この3年間の無為に過ごした年月の事を思い、やるせない気持ちになる。
3年前、部下に新しく医者となった女を調べさせた。
オウミ国とその周辺国に散らばった部下たちは、民の中に入り込み熱心に調べた。
年齢、出身、経験、実績、分かる事を調べて行ったがそれらしい事実は出てこなかった。
そもそもこの国の女の医者は魔女と名乗り、身元を隠している。
外見で年齢を推測するぐらいしか詳しくは分からなかったのだ。
この3年間コシ・カッチェの仲間はイスラーファに繋がる情報を見つける事が出来なかった。
コシ・カッチェは国王からの命令で、一度ロマナム国へ引き上げると人員を再編しなおしている最中に今回の事件が発生したのだ。
実は、ロマナム国のイスラーファへの方針が大きく変わった。
コシ・カッチェはあずかり知らぬ事であったが。
方針の変更を受けコシ・カッチェは国に呼び戻されたのだ。
停戦と言っているが体の良い名目だけの物で実際は負け戦だ。
面目も人も金も領土も減ってしまったロマナム国王は、勝ち続けていた戦を逆転させる事に成ったル・ボネン国との争いの原因、イスラーファに対する方針を変えたのだ。
3国の密約はその切っ掛けとなった、力で捕らえる事から取り込む事へと変化した。
変化したとは言え目的が変わったわけでは無い。
何時かは、嫌がるであろうイスラーファの抵抗を跳ねのける方法が必要だ。
ロマナム国王はイスラーファから悪く思われている事は承知している。
そのために彼女の魔術や錬金術への対抗手段を新たに仕入れるべくダキエ国の商人を頼った。
時間はかかったが魔術師への対抗手段が手に入ったのはコシ・カッチェが呼び戻される半年前だった。
これまでは対抗手段として、唐辛子や香辛料の粉末などで悶絶させる方法ぐらいしか無かった。
ダキエの商人はイスラーファを手籠めに出来る対抗手段を幾つか用意した。
一つ目は、闇魔術師を雇い入れて洗脳する方法。
二つ目は、錬金術で作られ、魔術陣を感知すると歪めて魔術行使できなくさせる魔道具の首輪。
三つ目は、同じく錬金術で作られ、混乱を付与された魔道具の手錠だ。
ダキエの商人からもたらされた方法の内、闇魔術師はイスラーファ程の魔術師を洗脳する事は無理だが周りの人族へは有効だ、洗脳して手先にすれば良い。
雇うとしても賃金は高いが魔道具程では無い。
残る錬金術で作られた魔道具には問題点がある。
首輪と手錠だが、新しく作れる人材(ドワーフの錬金術師)が先の聖樹の変で死んでしまい、現存する品物が少なくとんでもない高額の費用が掛かる。
参考に聞いた金額は、
「首輪がダキエ金貨5百枚で手錠がダキエ金貨50枚」だそうだ。
今ダキエ金貨1枚の相場がロマナム金貨6000枚するから国王でも買うのに躊躇する。
首輪と手錠は元々樹人の犯罪者に用いられる物で、イスラーファにも有効だと言う事だ。
首輪をはめる事さえできれば、魔薬を使って闇魔術師がイスラーファを洗脳する事も可能になる。
手錠の方はイスラーファだと無効化されてしまうが無効化するまでに時間が必要で時間稼ぎにはなるだろうと言う事だ。
どのくらいの時間が稼げるのか聞くと、
「1コル(15分)位かもう少し短いかもしれない」と苦笑いと共に告げられた。
残念なことにこれらの方法はル・ボネン国、オウミ王国、ロマナム国へダキエ商人から同時に知らされた。
それと共に前回イスラーファの情報と引き換えに、探す事を求められた物をより具体的に探索する体制作りを行うように求められたのだ。
3国に新たな依頼を引き受ければ、首輪と手錠を前払いとして渡すと言って来た。
前の依頼は。
ダキエ国の商人は魅了と言っていたが、魔力を大量に蓄えた何か。
それが何か分からないがとても大きな魔力の塊らしい。
それを探してほしい。
今回の依頼は。
魅了(魔力)の大きな物を探す組織を作る事。
その組織は国の枠から外れ、国を跨いだ組織にする事。
魅了(魔力)の大きな物を探す動機付けとして魅了(魔力)がある物を優先的に買い取る権利を与える事。
ロマナム国王は喜んで引き受けた、他の2国の王も直ぐに引き受けたそうだ。
此の依頼は見つけるだけで良いし、魔力を大量に蓄えた物など直ぐに思いつく。
3国で使者をやり取りしダンジョンコアを探す手立てを考えた。
ル・ボネン国とロマナム国にはダンジョンがある。
3国に跨る闇の森ダンジョンもある。
3国は傭兵対策も兼ねてダンジョンへの探索に傭兵団を当てる事にした。
魔石の買取やドロップ品の査定と取引などの整備を行い、戦争に雇う以外にダンジョン探索をさせる組織を作った。
組織の名前を「傭兵ギルド」と命名した。
イスラーファへの対抗手段を手に入れたロマナム国は力ずくで攫う方法から手なずけて油断させる方法へと切り替えた。
油断してくれれば首輪も嵌めやすくなるだろう。
ロマナム国王はコシ・カッチェに新しい方針に沿った人員と手段を取る様に言いつけたのだ。
新しい方針に従って人員を用意し、訓練し、選別する。
組織立って動ける様に成って来た頃コシ・カッチェに今回の噂が耳に入って来たのだ。
その噂を聞いてコシ・カッチェは、3年前にカカリ村へ行く事を断念させた飛竜騒動を苦い思いと同時に思い出す。
その時イスラーファはイガジャ男爵に手助けして飛竜を討伐させている。
その時手に入れた飛竜の卵から育てた飛竜に乗った竜騎士が、オウミ国を荒らしていた盗賊団を壊滅させた。
ひょっとしてまだイガジャ領にイスラーファは居て男爵を手助けしているのではないか?
飛竜を殺した、までは知っている。
だがその先の、卵を孵し育て更には竜騎士なる思いもよらない存在を作り出す、誰に可能なのだろうか?
イスラーファしか居ないではないか、彼女の知識なくして可能か? など考える余地さえ無い。
3年たてばイスラーファも油断して外へ出てくるかもしれない。
彼は新たにした人員をカカリ村とその周辺へ展開させることにした。
そこで村や周辺の集落、部落に何人か潜ませることにした。
と言っても怪しまれない様に商人やその護衛などに変装させている。
実際に取引を行わせる事で取引先や周りから情報を引き出すのだ。
今度こそはイスラーファの存在を掴みたいものだ。
次回はベロシニア子爵です。