第68話・14 (閑話)噂
竜騎士の噂を聞いた人々の反応です。
最初はオウミ王です。
一つの噂を聞いた。
イガジャ男爵が領軍を使って盗賊団を殲滅した、生き残りの盗賊はいない。
これは男爵から報告を受けている、ちなみに西の大公からも受け取っている。
噂とは、「竜騎士がブレス1っ発で盗賊団を皆殺しにした。」らしい。
噂とは言え竜騎士なる存在がイガジャ領に居るのかは、確定している。
居るのだ! 然も飛竜が何頭も、それに乗る竜騎士隊まで存在している。
実は、飛竜を飼育している事は事前に知らせを受けている。
飛竜に乗る竜騎士見習いを育てている事もだ。
最初に報告して来た時は、飛竜騒動の後で「飛竜の卵が手に入ったので育ててみたい。」と言っていた。
それが飛竜の卵が孵り、育って来るに従い変わって行った。
「魔女の行動範囲を広げる騎竜にしたい。」
騎竜だ! 騎竜だぞ、竜騎士じゃあ無い。
男爵の孫達が加わり領兵として騎竜で偵察する事を提案されて「竜騎士」の名前を付けたと報告して来た。
その時だって偵察するためだ! 決して攻撃するためじゃあ無い!
そして今回の報告だ。
イガジャ男爵の報告では、最初は従来の通り偵察をさせて見たそうだ、その効果は素晴らしかったと書いて有った。
空からの偵察で盗賊団の砦や人の配置が丸分かりになった。
その時に描かれたスケッチまで入っていたが、確かに一目で分かるぐらいに良く描かれていた。
我が知らなかったのは飛竜のブレスがあれほどの威力が在り、空からの攻撃が無敵だと言う事だ!
イガジャ男爵は、「盗賊団をつついて追い出す事を戦場で思いつき実行させた。」と報告してきた。
戦で使うとしても偵察させるぐらいだと思っていた、ブレスなど! ブレスなど忘れていた!
急に表れた竜騎士なる存在。
アークライト・ムコライ・オウミ国王は危機感を抱いている。
イガジャ男爵に強力な武力が、降って湧いたようにブレスを吐く竜騎士が現れたのだ。
竜騎士が蹴散らしたのは盗賊団と言っても、少し前までは戦争をしていた傭兵団だ。
それをブレスを数回吐くだけで壊滅させる力が在る存在だ。
しかも反撃できない空からの攻撃と来た。
王の脳裏に攻め寄せる軍に空からブレスを吐く飛竜の姿が見える。
下の軍に為す術は何も無い。
一方的に蹂躙されるだけの哀れな姿がはっきり見える。
脅威となったイガジャ男爵を攻めるか?
戦になるほど追い詰めては被害が大きすぎる、戦うとしても竜騎士を弱体化か此方に取り込んでからするべきだ。
隣国との大きな戦争が終わったばかりなのだ、国内で戦などオウミ王国を滅亡させかねん。
今の所イガジャ男爵は王家側の忠臣と言って良い。
竜騎士が脅威だからと言って敵対するのはバカだ。
飛竜を飼い、其の扱いを知るのはイガジャ家だけだ。
イガジャ家は飛竜を仕留める方法を編み出し実践した。
つくづく飛竜騒動の時にイガジャ男爵に恩が売れる様な行動をしていればと思うが後の祭りだ。
イガジャ男爵は飛竜を殺して卵を奪う事が出来るし実際にそれを行った。
そして飛竜を卵から育て飼いならす事まで行ってしまった。
今から其の技術を知ろうとしても、影働きの傭兵は全てイガジャ家の者だ、無理過ぎるだろう。
一つ手が在る事は在る、イガジャ男爵には孫娘が一人居る、しかも竜騎士だと言う。
実際男爵の祖父の叔母は王家の側室と成り、生まれた子は今の影の組織の長だ。
彼も年を取った、次代の事を考えねばならない。
王はイガジャ家の孫娘を王家に取り込む事を考えた。
単純に孫娘と王家が婚姻で結ばれても飛竜を手に入れる事は難しい。
何とか王家に飛竜毎その娘を貰い受けられないだろうか。
そうなれば娘と共に飛竜の飼育方法も手に入る公算が大きいと考えられる。
しかし、無理強いは出来ない、相手の方に今回は強い手札が在る。
息子に王家の娘を降嫁させる手はどうだろう、家格が足りんと反対されるか?
昇爵と同時ならばどうだろう、男爵家を侯爵へと格上げして娘を降嫁させ取り込む。
イガジャ領を王家直轄の直臣にする必要が在る。
ええい、いっそのこと王家とイガジャ家を一緒にしてしまえば悩む必要もなくなろうに。
ん、そうかその手が在ったか、
王女の降嫁と皇太子の子への娘の嫁入り、それに伴い侯爵への昇爵。
王家の直臣へと帰属先を変更してイガジャ領を北の大公から取り上げる。
その後次の世代で王家の息子を養子に出し王家の一員にするまでが手立てだ。
問題は皇太子の彼奴が今男爵家の娘を嫁に迎えてうまくやって行けるかだ。
彼の性格では不安が在る、ここは皇太子を替えるか?
アークライト王はやっと戦が終わり肩の荷が下りたと思っていたが、悩みは尽きない。
そのような時にダキエ国の商人から連絡が来た。
次回はコシ・カッチェ商人の登場です。