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魔術師、異世界をソロで往く 過去編 第1部  作者: 迷子のハッチ
第5章 魔女ラーファと竜騎士の卵達
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第68話・10 竜騎士見習いの戦(10)

 勝利の決め手となる竜騎士の出撃です。

 これから言う事は少し盗賊の考え方を知ってもらう必要がある。

 「盗賊は一人では飢えるだけ、でも集団となった傭兵団なら暴力を売ることができます」


 「盗賊団はその傭兵団の集まりです、彼らは他の傭兵団を強く警戒してました」


 「イライファ集落を落とせなかった今、ブロンソ達幹部は自分たちの傭兵団と先に逃げ出すでしょう、それを見て後を追うとしても元の傭兵団毎に固まって動くでしょう」


 「盗賊の食料は在って1日、持たせて3日が良いところ、北東へと進むと無人の山中で飢えます、3日以上の食料を持っているのはブロンソ達幹部だけの様です」


 「彼らの動きは食料が在る場所、すなわち山を下りる南西への移動が最初だと考えます」


 「ただし、それは盗賊団を囮にしたい幹部連中の思惑です、幹部連中は必ず途中で方向を変えて東へ移動するでしょう」


 「彼らの逃げ込む先はキラ・ベラ市しかありません、大都市ならお金さえあれば一人でもしばらくは食つなぐ事が出来ます」


 「彼らは略奪した物で身を飾っていました、言葉には出しませんでしたがお互いに阿吽の呼吸でわかりあっているようでした」


 「9月2日、明日早朝に盗賊団全体で南西方向へ移動する、魔女として偵察した結論です」


 戦場となる地形は、北東に在るイルク山から南西方向へ伸びているイライファ集落と盗賊の砦が在る尾根、そこから少し東に在る救護所が隠れている尾根に挟まれた河川敷です。


 そこには救護所側の尾根近くを尾根に沿って流れ、歩いて渡れる浅い川が流れています。

 氾濫平野にイライファ集落の畑が広く広がっている場所で、今は収穫間近の小麦が植えられている。


 イガジャ男爵様もコガジャ族も小麦畑を避けてなるべく尾根よりに迎え撃ちたいと思っているが、盗賊団はそのような配慮など気にもしないだろう。


 逃がさないため包囲するか、待ち受けてブロンソ達幹部が居る傭兵団を捕捉するか。

 軍議は難航したが、時間が残り少なくなりイガジャ男爵様が引いた、此処はコガジャ族の土地で戦後の事を考えると麦畑は荒らしたく無いのは当然だから。

 コガジャ族長の願いも在って、夜の内に盗賊団の砦を包囲する事にしぶしぶ男爵様も承諾した。


 さらにイガジャ男爵様は盗賊の正面になる、尾根を望む南西から東に陣取る事になった。

 人数の少ないコガジャ族が当たるより盗賊団と同数のイガジャ領軍が担当する方が良いのは分かるが、戦では人が死ぬのだ、当然被害は少ない事に越した事は無い。


 コガジャ族軍200は北東へと回り込み尾根に陣取り、1隊がイライファ集落軍と合流して破城槌が埋まっている集落と尾根の間の谷間に陣取る。

 北東からコガジャ族軍か南西と南東からイガジャ領軍が盗賊団を挟み込む作戦だ。


 此の布陣なら盗賊団全体も、幹部連中も、南北から大きな口でパックリ咥える事が出来そうです。


 最後の盗賊団を砦から追い出す役割を、強引とも言えるイガジャ男爵様の主張で、竜騎士見習いに託される事に成りました。

 イガジャ男爵様が盗賊団の主力を受ける不利な場所を受けたのも、竜騎士の役割を引き受ける思惑からでした。


 と言う事で、イガジャ男爵様からの命令書を持って救護所へ明日の応援を兼ねた護衛と共に移動します。


 夜遅くに救護所に帰って来たラーファはレイとアリス、領兵の隊長、魔女3人で会議を始めた。

 「9月2日夜8時(午前1時)をもって、討伐軍が動き出します」

 最初に先ほど軍議で決まった事を話す。


 「イガジャ男爵様は南を厚くして東へかけて布陣し盗賊団を待ち受けます、コガジャ族長の軍は北東へ尾根を中心に展開し南下します」


 「教官、包囲して砦を攻めるのですか?」とレイが聞く。

 ラーファの説明ではそう思うのは当然だろう、肝心の事を話していないから。


 「いいえ、コガジャ軍にあわせて竜騎士が攻撃します」あえて見習いを外して言った。

 みんなが息を飲み、押し黙っている間に言葉を重ねる。


 「ワイバーン2頭でレイとアリスが騎乗して攻撃します」

 「レイは今回は竜騎士としてワイバーン隊を率いますから、防衛隊は隊長へ引き継いでください」

 男爵様からの命令書をレイに渡しながら言います。


 「はい、期待に応えて見せます。」

 命令書を立ち上がって受け取ったレイが、顔を高揚させダキエ式敬礼で胸を張った。


 「それって、ブレス攻撃ですか?」アリスが察して思わず声が漏れた様だ。


 「そうです、連絡のため魔女のお二人と魔女見習いで竜騎士のポリーとミンも同乗します」

 イライザとサマンサの魔女二人がなるほどと理解したように頷いた。

 あえて竜騎士と言ったのは、イガジャ男爵様が見習いから正式に竜騎士へと格上げを決めたからだ。 


 「救護所の防衛隊も出ますよ」隊長へ向けて言う。


 「え、そうなんですか?」領兵の隊長が驚いたような声を出した。


 「はい、ラーファの護衛として来た20名と共に、最小限の人数を防衛に残して全力で尾根を越えて河原に展開し、北上する盗賊に備えます」


 「は! 了解であります。」防衛隊は彼に任せれば大丈夫だろう。


 「防衛隊の出撃は夜12時(午前5時)日の登る直前です」


 「竜騎士隊の出撃は昼1時(午前6時)です」


 細かい打ち合わせを行った後、解散し翌朝の出撃を前に各々準備する為に散らばった。


 翌日、日の登る随分前から救護所は騒めきに包まれていた。

 防衛隊は夜12時(午前5時)に領兵の内30名と隊長が率いる75名の防衛隊員を引き連れて、尾根を越えるため出発した。


 救護所の防衛は領兵5名とラーファで行う事に成った。


 防衛隊を見送ると、ラーファはワイバーンのピースィとキーグを神域から引き出して鞍を付ける事にした。

 河原近くの広場を離着陸に使っているので、其処で2頭を引き出した。


 レイとアリス、イライザとサマンサ、ポリーとミンの6名も付いてきた。

 イライザとサマンサは共に使い魔の迷宮灰色狼を召喚した。

 使い魔はラーファの側に控えて連絡を取り合う事にしている。


 ラーファも使い魔のワイバーンを召喚した、使い魔に上空から偵察させる為だ。


 夜明けと共に竜騎士隊は出撃した。

 ラーファは出撃する竜騎士隊に手を振りながら、「人族の史上初めて空からの攻撃を行う事に成るのか」とささやいた。


 ラーファは救護所へと帰りながら、使い魔のワイバーンを空へと移動させた。

 ラーファの使い魔は2頭のワイバーンの後方上空に位置して飛行を見守った。


 夜明けの光の中に遠く、尾根の先が見える。

 ラッパが鳴り響き、北と南から鐘の音が聞こえて来る、軍の速足前進を指示する音で「カンカラッカンカンカン、カンカラッカンカンカン」とリズミカルに鳴らされている。


 いよいよ盗賊団討伐が始まった。

 盗賊の砦の方を見ると、人の動きが激しく成って居る様だが砦から出る気配は無い。

 盗賊も砦が囲まれた事を知ったのだろう。


 しばらく救護所の上空を折り返し飛行して、攻撃するタイミングを見ている。

 魔女の二人からはレイもアリスも落ち着いて様子を見守っている事を、使い魔を通して知らせてきている。

 ラーファが魔女の使い魔に魔力をつなげているから意思が分るのだが、おばばは難しいと諦めている。


 使い魔のワイバーンから見ていると、イガジャ軍の展開が終わったようだ。

 コガジャ軍はまだ南下中だ、そろそろ頃合いかもしれない。


 二人の魔女を介してレイとアリスに攻撃を指令する。

 「竜騎士隊、攻撃開始!」


 2頭のワイバーンが、長い下降を始めた、東からブレス攻撃を砦に行う。

 「現在昼1時(午前6時)2コル過ぎ、これよりブレス攻撃します。」

 レイからの返答がイライザの使い魔を介して伝わって来た。


 次回は竜騎士のブレス攻撃を受けた盗賊団とその後の戦いです。

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