第68話・9 竜騎士見習いの戦(9)
女性の救助と盗賊への制裁を終えたラーファは、盗賊団討伐の軍議に出ます。
助け出した女性たちを食事の後、休む事が出来るテントへと移動させた。
後の事は魔女見習いのポリーとミンに託した。
ミンの話ではいつの間にか治療所はイガジャ男爵家臨時救護所と成って居た、ラーファが所長だけど一番最後に知る事に成るとは驚だよ。
ラーファはレイが待つ救護所の本部に成って居るテントへと向かった。
「救護所本部」と書いてある立て札の在るテントは本部とは名前だけの5人も入れば溢れそうな小さなテントだった。
番兵も居ないテントの中ではレイとアリスが書類と格闘していた。
静かにテントへ入り、声を掛ける。
「お疲れ様、レイもアリスも大活躍しているそうね」
レイが吃驚した顔を上げ、アリスがピョンと立ち上がった。
「教官! お帰りなさい」、「ご無事でしたか! 心配しました。」
二人とも書類を畳んで前へ出てきた。
「ポリーとミンが後で新しい人達の名簿を持って来ると思うわ、増えるのは此れが最後よ」
「はい、わかりました。」レイがうんざりした顔をするのは増える書類にうんざりしているのだろう。
「ミンから此処がイガジャ男爵家臨時救護所に指定された件は聞いたわ、他に知る必要が在る事は無いかしら?」
「父から2日後には着くので、陣を構えたらイガジャ領軍まで来てほしいそうです、その時に盗賊団の動向を知りたいので調べて貰いたい、との事です。」
一息ついてまだ有る伝言の続きを言う。
「着陣出来次第、コガジャ族の族長様を招いて軍議を開くそうです、用意が出来次第伝令兼護衛を送るのでゴーレムの馬で来てほしいと伝言が在りました。」
レイが伝えられて安心したとでも言いたげな、ほっとしたような声で伝えてきた。
「男爵様も2日後には着陣するのね、場所は何処なの?」
「イライファ集落の西側だそうです、コガジャ族の軍勢は北西に陣を構えるそうです。」
どちらも盗賊の砦からはイライファ集落の山が遮って見えない場所だ。
男爵様の要請だし、ラーファ自身も盗賊団のこの後の様子も気になるので、使い魔を出して偵察させよう。
「了解、2日後に着陣したら行って来ますね」
レイもそうだがアリスは今日ワイバーンでカカリ村と2往復しているので疲れた顔をしている。
「二人ともつかれている様だから治療しますね」
と言って、治癒の魔術を二人に行使した。
二人の少し元気になった顔を見ながら分かれると、ラーファも少し休む事にする。
今夜は神域に行ってマーヤを見てから治療所へ顔を出して見よう。
明けて偵察してから3日目、盗賊団が女達の逃亡を知って大騒ぎとなり、砦の外に居た者も砦に引き上げて警戒を強くしている。
日中は何人も偵察に出して逃亡した女達を探していたが、女達以外にも放逐した男達さえ一人も見付からない事から夕方には砦に閉じこもってしまった。
使い魔で調べるラーファには、夜遅くまで小屋の中でグダグダと此の件の事を話すブロンソ達の押し殺した話し声が続いた。
明けて4日目、盗賊団に動きが出てきた。
砦の中では残り少ない食料を使って盛んに水で溶いて焼いただけの保存食を作っている。
朝から召喚した使い魔でブロンソ達の様子を伺うと、まだ領兵が迫って居る事は気が付いていないが不気味に思っている事は伝わって来た。
小屋の中ではお宝を身に着けて何時でも逃げれるように用意しているが、此処はイルク山の山中なので何処へ行くにも3日以上掛かる。
今作っている保存食を3日分作るには食料が足りない様だ、せいぜい1日分が作れれば良いだろう。
牛を全て潰して肉を焼いて食べさせているのは、逃亡へ向けて腹いっぱい食べる積りなのだろう。
肉は生肉なのであまり持ちそうにないが2,3日なら持ちそうだ。
砦内を見渡すと一見バラバラに分かれている様に見えるが、元々の傭兵団毎に纏まって行動しようとしている様に見える。
ただブロンソ達の傭兵団は、小屋の周りに集まっていて、食料も多めに持っている様だ。
小屋の中では、ブロンソ達幹部が明日の早朝にも幹部だけで馬で逃げ出す相談をしている。
残りの盗賊達がそれを見たら揉めるのではないだろうか?
既に日が暮れかけている、イガジャ男爵さまから伝令が着て着陣したと伝えてきた。
ラーファは伝令に来た小隊20名と共に討伐会議に出る為、ゴーレムのビューティに乗って出かけなければならない。
使い魔にそこまで確認させると、一度帰って来させて召喚陣から戻した。
イガジャ男爵様の陣はイライファ集落の西にテントを張り巡らして簡易な柵まで構えた拵えに成って居た。
伝令隊と共に陣地の中へ入り、イガジャ男爵様の居るテントまで案内された。
そのテントの中央には、イガジャ男爵様、ダンガー隊長、老齢の男性と若い男の4人が居る。
他にも大勢が居るが、その4人を遠巻きにしているので側に仕えている者達なのだろう。
「救護所より、ただいま到着しました」ラーファの名を省いた報告にイガジャ男爵様が答える。
「うむ、救護所での活躍は聞いている、さらわれた人たちの救出ご苦労だった。」
隣にいる老人を意識してだろう、かたっ苦しい物言いだ。
イガジャ男爵様がその老人へ向き直ると、「紹介しよう、イガジャ領でおばば様の所で指導してもらっている魔女殿じゃ。」
そしてラーファに向き直ると言った。
「魔女殿こちらがコガジャ族の族長イシス殿とそのご子息のマキナ殿じゃ。」
「よろしくお願い申し上げます、おばば様の元で魔女の仕事をさせていただいています」
魔女は名をなるべく名乗らない事で守られてきた歴史が在るため、カカリ村以外ではラーファも名前を言わない様にしている。
盗賊団の討伐会議は、ラーファの報告から始まった。
「使い魔で偵察した内容は、明日朝早くブロンソ達幹部が馬で逃げ出す相談を行っておりました」
「盗賊の砦では、保存食を作り、牛を潰し肉を食べています、彼らは元々の傭兵団毎にまとまっているようで外だけで無く盗賊団同士でも警戒している様子でした」
ラーファの報告を受けて、盗賊団が逃げる事は間違いないとの前提で会議が行われた。
逃げるとして今夜動くかどうかだが、「馬で逃げるには夜道は無理がある、動くとしても明日の日が昇ってからだろう。」とのイシス殿の意見で、明日の早朝へ向けてこちらも用意する事になった。
問題は、盗賊が何処へ逃げるかだ、八方へバラバラなのか、少しはまとまって動くのか、全体がまとまって動くとしたらどの方向へなのか?
意見がまとまらない、コガジャ族の二人は包囲して殲滅したい様だ、それに対してイガジャ男爵様は盗賊団の幹部連中を先にとらえる事をしたい様だ。
バラバラに逃げるとして、イガジャ男爵軍とコガジャ軍で包囲網を作ると、盗賊団が集団で突破しようとしたら包囲網を破られてしまう恐れがある為、盗賊団の動きを気にしているのだ。
「魔女殿、盗賊団を偵察したからこそ聞くが、盗賊がどの様に動くか分からぬか?」
コガジャ族のイシス族長がラーファに聞いてきた。
盗賊団との戦いもいよいよ佳境、戦いも始まり竜騎士見習い達も戦いに巻き込まれ、戦う事に成ります。




