第68話・8 竜騎士見習いの戦(8)
盗賊への制裁と攫われた女達の救出の始まりです。
最初に憎きブロンソから、そのむき出しの腕へポーションを投げつけた。
「うん、何だ? 虫か?」ブロンソには虫か何かが腕をかすめて行ったと思った様だ。
ブロンソに魔術行使の行使痕が現れるのを見て、ポーションの効果が効き出した事を確信する。
ラーファは使い魔を使って、囚われの女性がこれ以上襲われ無い様に不能ポーションを盗賊団へ投げつけて行った。
使い魔に手あたり次第に盗賊団員へ投げつけさせたが、大した衝撃も無いので気にする盗賊は居なかった。
ポーションの効果が出た男たちは、魔力が見える使い魔からは判別できるので重複する事は無い。
ラーファが朝から初めて日が沈む頃には、400名程居た盗賊団のほぼ全てへ処置が終わった。
運よく逃れた盗賊が居たとしても数人程度だとラーファは思っている。
破城槌の引き上げやイライファ集落への攻撃でへとへとになって砦へ引き上げて来た盗賊達は、少なくなった夕食を食べ、当番以外は傷の手当や武器の手入れをした後大半は疲れ果てて寝てしまった。
寝る前に欲望を満たそうと、女性を襲おうとした盗賊団の男たちは自分たちの一物が役に立たなくなっている事を発見したが、疲れからの一時的な事だろうと女性を解放して寝てしまった。
日が暮れると、ラーファは潜んでいた場所から出て、門番や見張りを鎮静魔術で眠らせながら、女性だけのテントへと近寄って行った。
盗賊団が女性に手を出せなかったおかげで、生きて動ける女性達は一つのテントに集まっていた。
ラーファがテントに入ると、怯えた近くの女が「ヒッ」と短く悲鳴を上げた。
「助けに来たわ」とテントの皆に聞こえるだけの声を出して伝えた。
無言でラーファを見つめる女たち、やっとラーファが助けに来た事が理解できると声を出して近寄ろうとした。
「静かに! 盗賊に聞かれるわ!」声を抑えて女達へ伝える。
動けなくなり、固まってしまった女達に、ラーファは静かに近寄り一人一人の目を見ながら「助けに来たよ」と再度静かに告げた。
ラーファの言葉に希望を持った女たちは、ラーファを見つめ返した。
口の前に指を立て、静かにする様に知らせつつ、女たちの状態を確認していく。
ほとんどの女が着る物をなくして半裸状態で、何処かしらケガや血の跡が付いている。
ざっと数えて28人程だ。
「私はラーファと言います、イガジャ族の魔女です」
ラーファがそう言うと女性たちは助けが本当だったと理解したようだ、涙ぐむ人も居る。
「まだ、ここは敵地です、これから治療しますから、まだ静かにしていてください。」
考えなしに騒ぎ出す女性が居るかもしれないと思っていたが、全員今の状況を理解しているようで騒ぎ出す人は居なかった。
一人づつマーヤ謹製のポーションを手渡した。
「これは魔女の薬で、ケガや受けた暴行の後を消す事が出来ます、妊娠を防ぐ効果が在りますが、ここに来る前から妊娠していた人は居ますか?」
ラーファの問いにみんなが首を振って否定した。
「飲んでください、効果が実感出来たらここから逃げ出しましょう」
女たちは魔女の薬を飲んで行った、効果が表れると体が軽く感じるのか立ち上がって自分の体を触ったりするようになった。
一人の女がラーファの方へ向くと小さい声で言った。
「友達のルイザが連れていかれて戻って無いの、彼女も助けてください」
ラーファは頷いて了解した事を伝えると、マーヤに念話した。
『マーヤ、ここに来ていない女の人は何処に居るかわかる?』
『探してみるね、えぇと、 この砦の外には居ないけど、中で12人見つけたわ』
『あ、ラーファ急いで死にそうな人がほとんどよ、二人は死んでる!』
マーヤが念話で叫んだ。
『急いで助けるよ!』
「しばらく待って居て下さいね、ここに帰れずに倒れている人が何人かいるようです」
不安そうに見つめる女達の中から今話しかけた女性に話しかける。
「魔女の薬を飲ませれば歩けるようになりますから、今から行って飲ませてきます」
彼女の目を見ながら話しかけると理解したようで、頷いた。
二人の話声はテントの中に居れば聞こえるので、皆も分かったようだ。
ラーファはテントの外へ出ると、マーヤが探してくれた人から順にマーヤのポーションを口に押し込んで回復させた。
助けた女たちは、回復しても目を虚ろにしたまま助けた人が居る事も分からずにテントへと帰って行った。
ラーファの助けが間に合わず亡くなった地面に横たわる二人の亡骸を見て、ラーファは悲しい思いをする事に成った。
ひょっとしたらと思わずにはいられない、ラーファが少し早くここに来ていればと。
遺体は後で回収する事にして、誰も見ていない事を確認して土の棺を作って地面に埋めた。
動ける様になった女たちは全員テントへ帰ってた。
テントの中で魔女が来た事を聞いたのだろう、先ほどの無関心から少しは希望を持った顔つきに変わっていた。
ラーファがテントに入ると、全部で38人の女達が地獄から連れ出してくれる者を見つめた。
「良く聞いて、これからあなた達をここから連れ出すわ」
ラーファはそう言って38名の顔を見渡した、どの顔も薄汚れ絶望を見た顔をしている。
「二人組に成って頂戴、一組毎に連れ出すから」
「最初はあなたとあなたね」
そう言って、友達を助けてと言った女と側に居るルイザと思える女を指名した。
一度に全員での逃走は見つかる公算が大なので、1組づつ時間を置いて移動する事にした。
女たちのテントは砦のほぼ真ん中に在り、逃走経路は北の尾根の奥へと進むしか無い。
砦の柵の出入り口は3か所、北と南と西に在り、治療所へは東か北へ逃げる必要が在った。
北の尾根の奥へ進む道へは、ラーファが眠らせた門番と見張りの盗賊達がまだ寝ているので、其処から逃げ出す事に成った。
最初にラーファと一緒に二人が同行して門をくぐった、門の先の木の生い茂った場所が皆の集合場所としてよさそうだった。
そこへ同行した2人を残し、ラーファは一人で女たちが待つテントへと戻って行く。
「おい、女、お前だ、ちょっとこっちへ来い!」
いきなり盗賊の男から呼びかけられた、どうやらラーファを見て自分の塒に引っ張り込もうとしている様だ。
振り返りながら、ラーファは鎮静魔術を問答無用と行使して男を眠らせた、不能ポーションを逃れた男の様なので念の為不能ポーションを使っておいた。
何度か連れ出した時、見張りの交代で盗賊の当番が来たが、2人ともラーファに眠らされて土の上に寝る事に成った。
女性を連れて北の門から出る事を19回繰り返し、38名を連れ出すと治療所を目指して移動した。
見張り当番の交代や起き出してうろついていた男以外にラーファが鎮静魔術で眠らせた盗賊は居なかった。
女性の全員が逃れるまで、騒がれることも無かった。
治療所で全員を無事に保護した後、ラーファは盗賊団の反応が気になって使い魔に砦内を見張らせた。
3日目の朝に成ってから大騒ぎになった、盗賊団も流石に女性が居なくなり危機感を覚えたのか、イライファ集落への攻撃を止め小屋の在る場所に引きこもり見張りを厳重に行うようになった。
イガジャ男爵様の軍勢が到着したのは4日目だった。
派遣軍が到着し、ラーファは盗賊団の討伐作戦会議へ出席します。