第68話・7 竜騎士見習いの戦(7)
マーヤの活躍と振り返りです。
ラーファは囚われの女性たちの救助へ向かいますが、盗賊への制裁を行う様です。
マーヤはラーファから頼まれて治療所の警戒を神域から神石を持つ昆虫を何匹か治療所の周りに潜ませて行っていた。
マーヤにとって今回の件はラーファの思いに巻き込まれた感が強い。
飛竜達に交じって昼寝をしていた時に、いきなりラーファの強い怒りと悲しみをぶちまけられたのだ。
飛び起きてラーファにどうしたのか、何で火球を誰かに撃ち込もうとしているのか、と念話した。
そして何よりラーファが使い魔を介して見聞きした、盗賊のブロンソやカルロにケッチの話が強く伝わって来た。
自分に向けられた訳ではないけど、盗賊の伝え聞いた悪意に胸が苦しくなった。
ラーファに彼らの在りようを説明されたけど、正直真面とは思えない考え方だった。
マーヤは彼らから酷い目に遭わされた人の為に何が出来るか自問したが、回復ポーションを作る事ぐらいしか思いつかなかった。
だから思いの丈を込めて魔金の濃度を高めた空ポーションに可能なだけ付与を行使して作った。
ラーファに付いてきたのも何か出来る事は無いかと思ったからだ、幸いする事は沢山あった。
放逐された人達を探し当てる事や今している様な治療所の警備等マーヤにしかできない事ばかりだ。
マーヤは治療所の場所へ行く尾根を越える道を星明りで一際浮き出て見える様に光魔術の行使までした。
マーヤの警戒網に治療所の場所を教えられた人々がやって来た。
ラーファに助け出された人達は尾根を越えようと、星明りに照らされた道を教えられた希望へと歩いた。
尾根を越えると下に明かりが灯る場所が在った。
治療所の周りには薄暗くはあるが明かりを灯している、人々は導かれたように灯りへと歩いて行った。
治療所まで辿り着いた人達は、レイとイガジャ領兵から暖かい食事と体を休める場所を提供されて安心したのか崩れる様に座り込んでいる。
ラーファが神域の食材を追加して出しているので量は十分足りるだけある。
食器も神域の木を使ってマーヤが作った物を提供していた。
「さあさあ、早くお入りなさい、美味しいシチューもパンも在りますよ。」
レイや領兵が招き入れると、オドオドと治療所へ入って来て用意された食事と座れる場所に崩れる様に座って、渡されたシチューとパンを手にガツガツと食べ始めた。
「ウオゥーッ、ありがどぅ、ありがどぅ、ウオーッ」
叫ぶような、顔面を涙や鼻水でくしゃくしゃにして泣きながら、感謝して提供された食べ物にむしゃぶりついた。
声が出る人は体力も残っている人なのだろう、中には涙も体力も枯れ果てたのか無言で座り込む人もいる。
マーヤの作ったポーションで回復はしたけど、数日に渡る飢えと過重な労働で体力の衰えた彼らはやっとの思いで治療所へ辿り着いている。
領兵の一人が筆記用具を持ってウロウロしていたので、神石持ちの虫を一匹テントの上から近寄らせた。
その領兵が行っていたのは、治療所で十分食べて喉を潤すと少しは聞き取り調査が行なえそうなほどに回復してきたので、名前や出身地などの聞き取り調査を行っていた。
マーヤがラーファから聞いているのは、ポーションで治療しているので救助した人を更に治療する必要は無いが、受けた虐待で心を病んでいる人も居るので、魔女が来る明日から心の治療を始めると言う事だ。
マーヤは彼の方の知識からある程度彼らの次に起こる事柄を予想出来た。
助け出された人々は食事を摂り休める場所に移動すると、今までの事を振り返る時間が出来た。
自分の事を振り返る余裕が出来ると自分の身に起きた理不尽な出来ごとに大声を出す者、泣き出す者、発作的に死のうとする者が出て来た。
「くそ、くそ、くそ、あいつらこんな事しやがって絶対許さん!!」
「なんでこんなことになったの?なんで、なんで、なんでなの!!」
「お願い死なせて! もう生きているのが嫌なの! 死にたい! 死にたいの! 」
「許してくれ、したくて見捨てたんじゃ無いんだ、ごめん、許してくれ!!」
「やめて! やめてって頼んだのに! なぜ、なぜ、なぜ!」
この様な事態を見越してラーファは、マーヤに対処する方法を教えてくれている。
発作的な衝動に身を委ねている人に使う鎮静魔術は、使うと穏やかな眠りを速やかに引き起こす。
発作がひどい場合には強制的に鎮静魔術で寝させると良いそうだ。
起きて居る間中何時までも自分に起きた出来事を振り返り、心が更に病んでしまう恐れがあるそうだ。
中には寝れなくなる人も出てくるらしく、早めに鎮静魔術で眠らせるのが良い対処方法らしい。
大丈夫そうな人は十分な休息を摂って貰った後、治療所の警備や雑用などの何らかの仕事をして貰う事も予定しているそうだ。
ラーファは盗賊団に治療所が見つかった時の戦力として彼らを当てにしていると言っていた。
ラーファが治療所に帰って来たのは、夜7時(午前0時)過ぎだった。
『お帰りなさいラーファ』
『マーヤ、まだ起きてたの? 寝なくて大丈夫?』
『大丈夫だよ、さっきまで寝てたから、何かする必要が在る時は虫さんが教えてくれるから』
『そうなのね、マーヤありがとう、何か問題はあった?』
『ううん、ラーファが言っていた人に鎮静魔術を行使したぐらいで、盗賊団には見つかって無いよ』
マーヤも眠たいのに夜遅くまで頑張ってくれている。
『分かったわ、お疲れ様、マーヤはもう寝ていいのよ、後はラーファが引き継ぐからね』
『うん、おやすみなさい』
マーヤが無理をしてないと良いけど、この時間まで起きてたのは無理しすぎだよね。
幸いその日はラーファが診療所へ戻るまで、盗賊団の見張りはラーファ達の動きに気が付いてなかった。
イライザとサマンサの二人の魔女を迎えに行って貰うのは、夜12時(午前5時)に成るのでそれまでは6人で救助した人のお世話を行いながら代わり代わりに仮眠を取った。
レイは朝早くからの飛行に備え、仮眠だけど長めに休んでもらった。
夜12時(午前5時)の飛行は、元気よくピースィに乗ってキーグを従えて飛んで行った。
ラーファは仮眠もほとんど取らずに回復ポーションを飲んで体調を整え、盗賊団に未だ囚われている女性を救出する為に昼1時(午前6時)に起きると神域へ用意の為に入った。
寝ているマーヤの寝顔にキスをすると、錬金室へ移動した。
ラーファが用意するのは、念話でマーヤに前に伝えた「女性を欲望のはけ口と思っている様な男達は後で制裁するわ」を実行する為だ。
ラーファは、神域で作った物を投げる事が出来るゴブリンの使い魔を使って制裁して行く事にしている。
作成したのは不能ポーション(性欲は在るが男性機能がヘタル)です。
神域から作成を終えて出たラーファは、治療所を領兵に任せ盗賊団の居る尾根の砦へと進んで行った。
進みながら使い魔を召喚陣から呼び出し、不能ポーションを持たせる(魔力の塊のポーションは使い魔でも持てる)、ポーションが音も無く空中を漂う姿は見た目が虫の集団で不気味だ。
ラーファは盗賊の砦近くに潜むと、ブロンソ達から襲っていく事にしている。
今回は、ポーションは小屋の壁をすり抜け出来無い為、入り口から入り込む。
いよいよ盗賊へのお仕置きと攫われている女性の救出です。