第68話・6 竜騎士見習いの戦(6)
ラーファは救出の為に行動に出ます。
今日2度目の飛行を前にレイに疲れていないか聞いてみた。
「少しも疲れを感じていません、気が張っているのか全然気に成りません。」
レイの顔色を窺って見ても大丈夫そうなので、キーグの飛行は任せる事にした。
「今回後ろのお客様は初めての飛行だ、薬(治癒魔術を付加した魔石)は持たせているので気分が悪くなりそうだったら早めに使うように言ってやってくれ」
マーヤはラーファのインベントリ(神域)の中に入ってラーファに同行する。
ラーファのインベントリ(神域)に入れるのは血の繋がったマーヤだけだと説明している、(実際、生き物は神格か神石が無いと入れない)ので問題ないのだが、ラーファに同行するのは危ないからと止められた。
それをラーファもマーヤも離れる事は嫌だと強引に認めさせたのだ、男爵様もおばばもラーファ達がそうやって逃亡生活をしていた事を知っているので強くは言えなかった様だ。
マーヤがワイバーンに乗らないのは、一人でも多くの領兵を連れて行きたかった為だ。
今回も飛竜達の出番は無くおとなしく飛竜舎で待つことになった。
治療所の設営材料とマーヤをラーファのインベントリ(神域)に入れ、ピースィに乗って飛び立ったのは昼11時(午後4時)、帰って来てから4コル(1時間)が経っていた。
飛行経路は偵察時よりもイルク山の山頂に近い経路を飛んだ。
既に日も暮れて夕焼け空も終わりかける頃、再びイライファ集落から東へ10ワーク(15㎞)離れた上空へと戻って来た。
薄暗く成り掛けたイライファ集落周辺の状況は、遠くにかろうじて攻城槌を埋めた場所に大勢の人が集まっている様子が見えた。
恐らく盗賊団総出で攻城槌を引き上げようとしているのだろう。
今回はワイバーンの姿を見られたく無いし、治療所の場所は盗賊には秘密にしたい。
イライファ集落の状況を遠くから確認すると、直ぐにイルク山から伸びる尾根の一つに隠れる様に低空飛行をしながら治療所を設営できる場所を探した。
治療所の設置予定の場所は、近くに殺気立った盗賊団がうじゃうじゃ居る為、盗賊の砦からさらに尾根を一つ跨いだ反対側を予定している。
しばらくは少人数の集団に成るので見つかる危険を冒せない。
戦えるのはラーファとレイを入れた5名だけど、盗賊団の10や20人なら逆に蹴散らしてやると思っている。
開けた場所で、川が増水しても濡れる心配のなさそうな場所が、ちょうど尾根が2つに分かれる部分に見つかった。
ここは、盗賊団の砦から7ワーク(10㎞)は離れているので盗賊団の見張りは居ないだろう。
ワイバーンを着地させると、ラーファとレイの2人は直ぐに降りた。
ラーファが周辺を調べる間に、レイはワイバーンに乗った領兵達の降りる手助けをしていた。
ラーファが偵察から戻ると全員降りていた、幸い酔った者は居らず領兵達は薬が効いたのか元気そうだ。
ワイバーンをご苦労様とポンポンと首筋を叩いて労うとラーファのインベントリ(神域)の中に帰した。
今頃はマーヤが神域でピースィとキーグのお世話をしてくれているだろう。
盗賊に放逐された人々を収容できるだけの広さと治療所を設置する場所の目安を付けると、作業開始だ。
設営は基礎をラーファが作って行き、残りの5人で治療所を中心にスタッフの休憩所や厨房に倉庫、トイレなどのテントを立てて行った。
水回りはお得意の土魔術で設置できるのでその点は楽だった。
浄水は地下水から下水は土管を繋げて下方へと流して魔石に土生成の魔術で肥料に成る土へと変化させ、分離した浄化済みの水は川へと流している。
ラーファは治療所を設置し終わると、放逐された傷付いた人々を救う為、一人で盗賊団の砦が在る尾根へ移動して行った。
治療所では食事や寝る場所を用意してレイと領兵達が受け入れる体制を整えている。
マーヤはラーファに約束したように、回復ポーション(再生、治癒、悪性物質排除、癒しの魔術付与)を作りラーファに渡してくれた。
ラーファはポーションに付与された魔術に一瞬目が眩んだが、マーヤに「ありがとう」とだけ言って受け取った。
ケガ人を見つけるのはマーヤが担当した、神域から空間把握でラーファを中心に2ワークス(3キロ四方)の範囲の救助対象者を見つけるとラーファに念話で知らせた。
知らせを受けたラーファはゴーレム馬のビューティで駆けつけ、動ける様なら治癒魔術をかけて治療所の場所を教えて、其処へ行くように伝えた。
動けない様な重傷者の場合は、その場でマーヤ純正の回復ポーションで、手や足や内臓まで瞬時に再生して治癒して行った。
ポーションで動ける様に成るまで治療すると、治療所の場所を教えて移動して貰うのは同じだ。
最初の内は盗賊団から離れた場所に居る人は動ける人が多く、集団で移動している事も多かったが、盗賊団へ近づくにつれて一人で打ち捨てられている人が多くなり、既に死んでいる人もいた。
動けない人が多くなるにつれてラーファも回復ポーションを使う事が多くなっていったが半面、死者の数も多くなり絶望感に苛まれるのを気力で押さえつけ、全ての人を救うまで動き続けた。
救出者108人、死者35人ラーファは夜7時(午前0時)までに何とか全員を見つける事が出来た。
死者は獣に食い荒らされない様に土の棺に入れて土の中に隠している。
ラーファは盗賊団の中に未だ囚われている女性達を助けようとします。