第68話・5 竜騎士見習いの戦(5)
男爵領軍の派兵とラーファが助けると宣言した人達の救助活動を始めます。
アリスが描いた数枚のスケッチも完成したので、レイにカカリ村へ帰る様に言うと、レイは高度を1ワーク(1500m)へと上昇し南へと南下する為にワイバーンに合図を出した。
カカリ村の魔女の城塞に在る飛行場へと帰還したのは昼10時(午後3時)を過ぎていた。
ピースィは鞍を外してやり、神域へ入れた、直ぐにイライファ集落の近くまで再飛行の積りなので神域で少しでも長く休ませたい。
ラーファとレイとアリスはイガジャ邸での派兵会議に出る為に急いで移動した。
ラーファ達が男爵邸に着くと、入り口で門番から執務室へ移動する様に言われた。
執務室へ移動すると、イガジャ男爵様とサンクレイドル様におばばが既に中に居た。
ラーファ達の後から、ダンガー隊長とバンドル家宰があわてて入って来た、門番から知らせが彼らにも行ったのだろう。
偵察の報告は、執務室に持ち込んだ円卓を囲んで聞く様だ。
「疲れている所を悪いが、偵察の結果を報告してくれ。」イガジャ男爵様が真っ先に口を開いた。
「はい、報告します、帰りの飛行中にレイとアリスから聞いた事とラーファが見聞きした事を纏めると、盗賊団は総勢400名、装備は弓兵が50から100,槍は半数が持っているようです」
「4百か!多いな。」盗賊団の人数を聞いてダンガー隊長が思わず声が出た様だ。
「悪い、続けてくれ。」
「はい」短く返事をすると、アリスの描いたスケッチを円卓の上に広げる。
口頭だけでの説明よりも上空からの情景を描いた物が在ると、とても説明しやすい。
ラーファはイライファ集落の近くの尾根に盗賊団が砦を築いて集落を攻撃していた事。
偵察時点では、イライファ集落が防衛出来ている事。
盗賊団の頭がブロンソと言う名前で在る事。
カルロとケッチと言う幹部が居る事。
食料が少なくなっているとブロンソが言っていた事。
破城槌を用意して門を破ろうとしていた事。
破城槌はラーファが地面に埋めて数日は使え無くした事。
他の集落から無理やり連れて来て荷物運びをさせている男達が100人は居た事。
女性の姿は見えなかったが、話から数十人は居そうな事。
食料が残り少なくなった為、男性は全員 女性は動けなくなった者 の手や足を傷つけて放逐している事。
などを報告した。
説明しながらスケッチの場所を指さしながら言うだけで場所の説明が省けるし、皆も分かりやすいようだ。
アリスも自分が描いたスケッチが役立って居るのが嬉しそうだ。
イガジャ男爵様は偵察の内容を詳しく聞いた後、偵察に出ている間の男爵家の動きを話してくれた。
男爵様によると既に派兵の手配は大方済んで居るそうだ、やはりイガジャ男爵様は緊急時での行動は目を見張るものが在る。
ラーファ達が偵察に出ている間に、イガジャ男爵様は館でカカリ村の主だった者達を集めて会議を開くと、各集落毎に10名の徴兵を行う事を決め、徴兵の使者を出すよう命じていた。
偵察で盗賊団の人数が分かったが、徴兵人数は変えないそうだ。
「理由はな、コガジャ族からも2百程集めると向こうから知らせて来とるし、イライファ集落の戦える男女も2百ぐらいは居るだろうしの、全部を足せば盗賊団の2倍以上の人数に成る。」
続けて男爵様が言う。
「そして今必要な事は、いかに早く移動できるかそれに掛かってをる。」
「ラーファ様が稼いだ時間を無駄にしないでイライファ集落を救うには3日で向こうに着く必要が在る。」
「破城槌を引き上げるのは無理があると思うし、新たに作るには3日掛かると見ておる、盗賊団が最初の破城槌を作るのにその位時間を掛けたようじゃからな。」
「出来れば、引き上げに手間を掛けて断念してくれれば、更に時間が稼げるかもしれん。」
領兵にも40名からなる派遣軍を決め、これを男爵本人が率いる事とした。
留守の領主代理はサンクレイドル様がする事に成った。
おばば達魔女は、ラーファの報告から治療を必要とする人々が多数発生している事を知って、魔女の治療部隊を作り、送り出す事とした。
敵地なので防衛出来る力が必要と言う事で、領兵から最終的に16名派遣してもらえる事に成った。
最終的と言うのは、2頭のワイバーンで移動しても一度に4名しか運べない為、数日かかる予定だからだ。
更にイガジャ男爵様は今回竜騎士見習からレイとアリスを治療部隊の護衛に任命した。
そして借りているワイバーンを運用して魔女の治療部隊へ人と物資の運搬をするように命令した。
領兵の部隊長が補佐してレイが初陣ながら指揮を執ると言う事で、レイがとても張り切って引き受けた。
最後に男爵様が執務室内の全員を見回して言い放った。
「皆の者、我らが同胞を傷付ける様な無法者を許してはイガジャ族の名折れぞ!」
「盗賊団許すまじ!」とこぶしを突き出した。
部屋の残りの全員が「おおーっ」とこぶしを上げて気勢を上げた。
ラーファとおばばにレイとアリスは魔女の城塞へ、他の人は執務室から出ると、男爵様の指揮の元派兵の準備に散らばって行った。
おばばとラーファが立てた計画は、必要な人員と物資はレイとアリスがワイバーンに乗って運べる事を念頭に、今日中に救助活動ができる事を第一に考えて立てた。
初めての試みながらラーファは何とか旨く行ってほしいと願っている。
治療隊が直ぐに活動できるように第一陣はラーファにレイと領兵4名で今日中に現地で設営を開始する。
第2陣は明日の夜12時(午前5時)にレイだけが乗って2頭のワイバーンでカカリ村の飛行場へ戻る。
そのまま必要物資を積み込み、折り返す事に成る。
折り返しの便ではレイと領兵2名とアリス、イライザ、サマンサの3名が騎乗する。
二人の魔女は治療所を早く稼働する為と設営の基礎を作る為の土魔術が使えるから早めに来て貰う事にした。
ラーファ達第1陣はかき集めた物資をワイバーンに乗せると、ワイバーンに乗るのが初めての領兵からの志願者4名を順次ワイバーンの鞍に乗せて行った。
ラーファは武装した領兵を鞍に固定しながら、彼らの蒼白な顔を見て飛行酔いしなければ良いけどと思った。
イガジャ領兵が出陣します。
ラーファは一人でも多く救う為に急いで引き返します。