第68話・4 竜騎士見習いの戦(4)
盗賊の言葉に激怒したラーファの心がマーヤに伝わってしまいます。
『ラーファ待って、火球を撃ち込む人達は酷い人だけど、ラーファの心が泣いてるわ』
マーヤが叫ぶような念話をして来た。
先ほどのラーファの心の叫びが念話と成ってマーヤに届いた様だ。
あそこ迄、気が昂ればマーヤに思いが伝わるのは当たり前だった、どうしよう。
とりあえず昂った気持ちを抑えた事を伝えよう。
『いいえ、あの小屋に火球をぶち込むようなことはしませんよ、この世には理不尽な事が沢山あるけど女性を欲望のはけ口と思っている様な男達は後で制裁するわ』
ラーファはル・ボネン国で傭兵に散々追いかけまわされた事が在る、そうゆう意味では傭兵に隔意を持っているが、その事を抜きにしてもあの傭兵たちがした事、して来た事はラーファには許せなかった。
ラーファは「許せないと思う」思いを持つ嘘偽りの無い自分をマーヤには隠したくなかった。
自分の怒りで無自覚にマーヤに念話した為、マーヤが心を痛めている。
なまじ彼の方の知識が在る事で、ブロンソの言葉やケッチが何をしに出て行ったか分かってしまう。
マーヤには少しでも理解する為の情報が必要だ、戸惑いすらしないで人を傷つける男達の行動の理由が。
ラーファはブロンソと名乗る盗賊の頭への精神分析位しかマーヤに理由を説明出来ない、それは人間の欲望と行動を医学的に学んだ知識から推測しているだけだ。
でも、今のマーヤにはその理論が必要だとラーファは思った。
『彼らは恐れて不安に成っているの、数日後に迫る飢えに怯えてるの』
マーヤが納得できなくても生きて来た環境次第で欲望と恐怖が行動を決めている者も居ると知ってほしい。
『自分が振るう暴力で、恐怖をばらまき、それで得た人や物で、食欲や征服欲や性欲を満たすと、恐怖が行動の基準に成ってしまうの』
マーヤから険悪感の混じった念話が来た。
『暴力だけで大きな盗賊団をまとめる事は出来無いと思うの』
『彼が盗賊の頭に成れているのは、恐怖のおすそ分けを他の盗賊へ分配出来ているからだと思うわ』
『おすそ分け? 恐怖を分配するってどう言う事?』
マーヤの気持ちを引けた様だ、不安感が好奇心に代わって来た。
『最も忌まわしい今行われている事よ』
ラーファはマーヤに何故恐怖が悲劇を引き起こすのか説明した。
『飢えは恐怖をもたらし盗賊団をバラバラにしかねないわ、ブロンソは手下に恐怖を擦り付ける対象を差し出したの、ケッチも手下に同じことをしてると思うわ』
『あの人達を助けられないの?』マーヤが泣いているのだろう念話でもその震えが分かる。
泣けるまでに心が立ち直ってくれてよかった、泣く事で心の安全弁が働いてくれる。
『今はラーファは助けられない、偵察が終わり次第、直ぐにでも出直してくるわ、そして一人でも多く救って見せる』ラーファはマーヤに決意を念話しながら力強く誓った。
今ケッチが部下を率いて行っているだろう事を知りながら何もできない事が、ラーファとマーヤの気持ちを責苛む。
だからこそ前を向く気持ちが大切だ。
『マーヤは回復ポーションを沢山作るわ』マーヤが自分も手伝うと念話して来る。
『ええ、ありがとう、たくさん作ってね』ラーファもそんなマーヤを応援した。
忌まわしい存在が居る事を初めて知ったマーヤが怯えながらも何とか克服しようとしているのが念話越しに分かった。
ラーファはマーヤとの念話を終えて破城槌をどうするか考えた。
ブロンソはイライファ集落への総攻撃を破城槌で門を壊した後に行う、と言ってた。
彼の行動が恐怖を基準に動くと考えれば、食料が少ないだけだと盗賊達はブロンソ達を襲いかねない。
破城槌が門を破壊できると言う希望が在ればこそね。
破城槌を穴に落として、直ぐには使えない様にする事で盗賊団の作戦を遅らせイガジャ男爵様が到着するまでの時間稼ぎが出来ればいいな。
使い魔を移動させ破城槌を運んでいる盗賊団の集団へ近づく。
破城槌は大きな杉の木を切り倒して枝を切った、長さ10ヒロ(15m)重さ1グンド(約7トン)は在りそうな大木だ。
城塞が在る山の尻尾と尾根のくっつきそうで切れている場所を流れる川に沿って運んでいる。
川に浮かべて運んでいないのは水深が浅く曲がりくねっている川筋のあちこちに岩が在るからだろう。
硬そうな岩は石灰岩に見える、このあたり一帯は過去に隆起した事が在るのだろう。
土では無く石灰岩に穴を掘るのは魔力が多いラーファでも一苦労だ。
『マーヤ、今神域に居るの?』マーヤの空間把握で調べて貰おう。
『うん、ポーションを作るのに神域に帰ってるよ』マーヤは先ほど言っていたポーション作りを早速始めた様だ。
『良かった、少し手伝って』立ってる人は親でも使えってね、3歳児でも良いよね。
早速マーヤに調べて貰うと、今破城槌を運んでいる少し先に探し物が見つかった。
と言っても真に見つけたかったのはさらに下の鍾乳洞だ。
探し物はその鍾乳洞から地上へと延びる割れ目だ。
マーヤに視覚情報として地下の情報を地面を透かして見せて貰い、土魔術の溝掘りと壁作りの魔術を地面に潜った使い魔から行使する。
行使した効果は鍾乳洞から地上へと延びている割れ目を広げ、破城槌の重さで地面が崩れる様にする事。
ロープを破城槌に繋げ引っ張っている盗賊達が通り過ぎ、破城槌が罠の場所へと移動して来た。
最初は破城槌を乗せた枕木が、地面が沈んだ事で折れた。
次に起こった事は、破城槌の前側が一気に沈み、周りの盗賊を巻き込みながら地面に落ち込んだ。
後ろから押していた盗賊らは反動で空中へ放り出された。
ラーファが割れ目を広げた事で、破城槌の重さで鍾乳洞の天井が崩れたからだ。
破城槌の先端は2,3ヒロ(数メートル)下まで落ち込んで土に埋まってしまった。
後ろ側は斜めに落ちたので地面近くに在るけど、それでも地面より下だ。
破城槌を引き上げるにせよ、新しく作って持って来るでも数日は掛かるだろう。
盗賊団も破城槌を移動させていた多くが巻き込まれ、悲鳴を上げている。
前方に居た綱を引いていた盗賊団員も綱と共に引き倒されてケガ人が出ている様だ。
使い魔から送られてくる情報でこれなら男爵様が来るまでの時間稼ぎが出来ると思った。
ラーファは使い魔を引き上げる事にした。
マーヤが何とか前向きに考えられる様になって良かったです。
傭兵は一人だと飢え死にします、集団だから何とか食べていけるのです。
なを、精神分析などは作者の勝手な妄想ですので、この世界ではそうなのかと読み飛ばして下さい。