第61話 プロローグ3年間(4)
薬が出来上がりとうとうビェスが帰国します。
いよいよ神域のワイバーン2頭の調教と騎乗を始めます。
村外の集落へ治療に赴きます。
ラーファの魔女修業とおばば達への医療魔術の授業と薬の木から作る薬の作成と息継ぐ暇もなさそうな忙しい日々。
そのような日々の中で在ってもラーファは時間を作ってマーヤと過ごす癒しの時間を必ず作っていた。
その時間はしばしばおばばと連れ立ってイガジャ邸へと赴きイガジャ男爵様の家族との交流の時間に成った。
イガジャ男爵様の家族にマーヤを預けイガジャ男爵様やビェスへ魔術の授業をする事も多く、おばばが教える様をラーファは見ていて後でおばばにアドバイスをしていた。
預けたマーヤの面倒は主にトークレイとアイリスの竜騎士見習いの二人が見る事に成る。
トークレイはレイ、アイリスはアリスと皆に呼ばれていてラーファもそう呼んでいる。
二人は飛竜の子も1匹づつ預かって育てている。
レイとアリスの後ろを飛竜の子達が、更にその後ろをマーヤがハイハイで追いかける様が良く見られる。
二人がマーヤを抱っこすると飛竜が焼きもちを焼いて二人の足を口でつつくまでがお約束だ。
不思議とマーヤを飛竜の子達は攻撃しない、ラーファ以外の人は不思議がっているがラーファにはマーヤが念話で飛竜の子達を手なずけている事を知っている。
イガジャ男爵様もビェスも魔石への魔力充填が次第に出来るようになってきた。
ビェスに至っては魔力もおばばの3割を超えたので、ラーファはビェスに簡単な土魔術を教える事にした。
ビェスに教えるのは自分の少し先の地面に穴を開ける魔術だ。
ビェスは熱心に此の魔術を練習して「右」「左」などの声で魔術行使を行なえるようになった。
ビェスと剣の稽古をするレイやサンクレイドル様は、しばしば此の魔術で足先に穴を開けられて体制を崩したところを撃ち込まれ負けが込んでしまった。
二人は魔術の練習はあまり熱心ではなかったが、ビェスの魔術の使い方には思うところが在ったのだろう、熱心におばばから教わりだした。
年明け早々に薬がすべて作り終わった。
ラーファは旅立つビェスをマーヤを抱っこして見送った。
ラーファとビェスの別れは周りの人達からは親しい人が旅立ち、それを見送るだけに見えた。
前日ビェスはラーファに自分の気持ちを打ち明けていた。
ラーファはビェスの気持ちを拒否して傷つけたくなかった、でもマーヤが一番なのは変わらない。
「10年後気持ちが変わらなければ連絡して下さい改めてその時考えます、今はマーヤの事しか考えていません」
ラーファとしては10年間同じ気持ちを持ち続ける事は樹人以外の人族では無理だろうと思っていた。
ラーファは樹人のゆっくりした時の流れで考えていた為、人族の特に十代の若者特有の思い込みの激しさを理解できなかった。
「10年と言わず来年にもまたここへ来ますよ。」
ビェスはビチェンパスト国との距離を物ともせずに言い切った。
ビェスは去って帰って来る事は無かった。
彼には帰国後、後にビチェンパスト王国と成る動乱の始まりに巻き込まれる事に成る。
毎年商人が薬の木から作られる熱病の薬を求めてカカリ村へ来たがビェスの噂は聞けなかった。
ラーファの心の中でビェスは聖樹が失われた後初めてラーファに手を差し伸べてくれた人としていつまでも心に残る人となっていた。
ラーファにビェスとの別れの感傷に浸る時間は無かった。
まだ外は雪に埋もれた季節だったが、頼んでいた2頭のワイバーンに乗せる鞍が出来上がって来た。
イガジャ男爵様から紹介されたイガジャ男爵家の馬の鞍を一手に引き受けている腕の立つ工房製だ。
工房にはワイバーン用とは言って無くて、一回り大きな飛竜用として作ってもらった。
今後飛竜が大きく成れば今回作った鞍を参考に作っていく事に成る。
鞍は翼と翼の間に人が乗る形をしている、固定する為のベルトは首の両側から腹にかけてクロスして腹帯に繋がっている。
人は正座する形だが、椅子の厚み分足から腰を浮かして座るから長時間乗っても足に負担が掛からない。
椅子には背もたれが在り後ろへ倒れないようにしている。
人も肩と腰で椅子にベルトで固定するから、宙返りや遠心力でワイバーンから放り出される事は無い。
ワイバーンは飛竜がダンジョンの魔結晶と共鳴して生まれた魔石生物なので姿は基本的に飛竜と同じで大きさが一回り大きいぐらいしか違いが無い。
飛竜は空を飛ぶと言う事から形は鳥と似て前足が変化した一対の翼と地上を歩く為の後ろ脚に飛行中の姿勢を制御する尻尾が在る、首は重心が後ろへ行かないようにバランスを取る為に長い。
鳥と違うところは羽毛では無く竜皮と言う鱗の様な皮膚で全身が覆われている。
竜皮は弾性が在り強靭な為、ボウガンの矢も弾く位の強さを持つ。
首の竜皮には文様が在り、その文様が魔術陣として機能する。
引火性の在るジェリー状の油脂からなる唾液を飛ばし、その唾液に竜皮の風と火の魔術陣を行使して火炎を出す事が出来るようになる。
飛竜の制御はマーヤの進言で音で行う事に成った。
飛竜は群れで生活する生き物なので、頭も良く意思の疎通も音声で行う事が多い生き物だ。
その習性を利用して人が出す口笛の種類で飛竜と意思の疎通が出来るように調教する事に成った。
ラーファが乗る2頭のワイバーンもマーヤの介入で口笛での意思の疎通が出来るように変更したそうだ。
ラーファが口笛を吹く練習が終われば、いよいよワイバーンで飛ぶ事に成る。
既にラーファはワイバーン達の事を恐れてはいない。
マーヤによって神石を持つ生き物と成った2頭のワイバーンはラーファにも従順だと言う事を知ったのだ。
鞍の作成の為体のあちこちを測る時にラーファの念話で素直に指示に従って寝たり立ったりする姿を見て十分理解したのだ。
今では2頭共かわいいとさえ思うようになっていた。
初飛行は例によって神域の中で行った。
最初は少し小さいメスのワイバーンから、飛び立つ時も飛行中もワイバーンは問題なく飛べた。
鞍は飛行中に緩みが発生したので、少しきつめに止める方が良いことが分かった、ワイバーンもきつめにベルトを止めた方が飛びやすい様だ。
メスのワイバーンの飛行が成功したので、オスのワイバーンでは空中機動で曲芸飛行をさせて見ると連続で縦や横へ回転する事が出来た。
意外にもラーファには回転に耐えられるようで何回回転しても平気だった。
イガジャ領で暮らし始めて2年が経つ頃、ラーファは少しづつ進めていた各集落の健康調査を本格的に進める事に成った。
イガジャ男爵様の用意が進み、おばばが新しく魔女見習いから魔女へと3人を昇格させ健康診断を行う体制が整ったからだ。
次はプロローグ3年間の最後で、
1,治療の必要な村外の集落へ移動しての治療。
1,治療した事で分かって来た領民の寄生虫による病害。
1,結核を疑うような肺の病気が多くその治療方法を考える。
です。