第60話 プロローグ3年間(3)
イスラーファを追う者達と戦争の推移です。
春の訪れの雪解けと共に一人の商人がイガジャ領へと入って来た。
商人のコシ・カッチェがキラ・ベラ市の商人を案内人にしてカカリ村を訪れた。
門から男爵家砦前に広がる城郭の広場、そこに在る商人用の取次所に入ろうとした彼が側を通り過ぎる白いロープの鄙びた田舎では見られない様な洗練された衣服と颯爽と歩く姿の良さに見とれた。
案内をしてくれているキラ・ベラ市の商人に通り過ぎた麗人を視線で指さして聞いた。
「今側を通ったお方はどなたかご存じですかな?」
商人はコシ・カッチェ殿が目を引かれた事に満足した様子で言う。
「ふむ、ご存じないですかな、オウミ王国の魔女様のお一人ですじゃ」
「ほう、あの方が有名な魔女殿のお一人か」
コシ・カッチェには病を癒し、悪人の罪を暴くと言う噂は知っていたが、実際に側で見ると癒しの聖女かと思えるような麗しい姿に罪人への容赦無い罪の暴露を行う取り調べの役人のイメージは感じられなかった。
この時すれ違っていたのはラーファだった。
コシ・カッチェはベロシニア子爵から紹介状と共に仕入れた情報に基づきカカリ村へと向う為に案内人を雇うつもりだった、しかし飛竜騒動でカカリ村へ近づく事が出来なかった。
その為一端追うのを延期して帰国していた。
ロマナム国で人員や資金を補充するとキラ・ベラ市での取り調べでイスラーファが定住する場所を探しているらしいとの情報をもとにイスラーファが魔術医だと言った事から女の医者を探すことにしていた。
増やした人員をオウミ国の都市へと送り出し、新たに開業を始めた女の医者が居ないか調べさせることにした。
コシ・カッチェ自身はイスラーファの足取りを追う事にしている。
ラーファを追ってカカリ村へ来たコシ・カッチェは何時もの様にイスラーファの情報をお金で買う事で集めた。
だが、集まる情報は飛竜の討伐での活躍や空を飛ぶ魔道具で何度も空を飛んでいる事などで、他にはケガ人や病気の人を治した事などが在った。
しかし最後は魔道具で飛び去ったまま何処かへ去ってその後の事は知らないと言う情報ばかりだった。
イスラーファが泊まった「山鳩の塒」や食事をしたと言うレストランなどで聞き込みを行ったが、一番情報を持っていそうなイガジャ男爵からは面会を断られた。
北の大公は飛竜討伐に一切関係ないので助けられたイスラーファ様の件では大公家の貴族の紹介でも話す事は一切無いとけんもほろろに断られた。
ベロシニア子爵の紹介状が返って反発を招いた様だ、北の大公家とイガジャ男爵家の対立を後から知って悔しさにベロシニア子爵を罵りたくなった。
結局イスラーファが飛んで行ったと聞いた南へ捜索の手を伸ばすために南の大公領へと向かうのだった。
彼からの報告書を読んだロマナム国国王は、泥沼状態のル・ボネン国との戦争を何とか傷が深くない内に終わらせられないか苦慮するのだった。
戦線を一つに絞れば事態の打開もあるだろうと在る提案を敵国にする事にした。
ロマナム国の親しい貴族からイスラーファの情報を得たル・ボネン国の国王はイスラーファを取り逃がす原因になったロマナム国にもっといやがらせが出来ないかと色々画策し始めた。
戦争は初め程の勢いは無くなったが小競り合いが各所で起き両軍の間で小さな砦を巡って取った取られたの攻防が際限なく続いた。
戦場と成った場所では青田刈りや人さらい火付け強盗等、身の毛立つような有様だった。
オウミ王国とロマナム国の戦争はヴァトワヌ砦を取返し、昔の国境まで押し返すところまでオウミ王国が優勢になっていたが、ここで停戦の話がロマナム国から在った事で停戦の機運がオウミ王国に持ち上がった。
オウミ王はル・ボネン国との戦争で苦境に陥ったロマナム国がオウミ王国と停戦する事で戦争をル・ボネン国に絞ることが出来る為の提案だと理解していたが、終始押されていたオウミ王国側にもここで停戦して国内の立て直しをしたいとの要求が強いのも事実だった。
しかし、数年の猶予をロマナム国に与えるとル・ボネン国との戦争を終わらせて必ずオウミ王国へ再戦して来るのは分かっていた。
そこで密かにル・ボネン国へ密使を送って在る情報を確認した。
その情報を得た事でオウミ国とル・ボネン国が手を携えてロマナム国との闘いを有利に終わるまで共に戦いロマナム国に在る提案を飲ませる策が決まった。
その情報とはエルフの商人マルティーナから齎された、イスラーファが最後の妖精族であり、彼女の生む子供は長命の父親の種族に成る、と言う情報だ。
戦争はしばらくは混迷を深めるばかりだったが手を取り合った2国が次第に有利になり、開戦してから3年後ロマナム国が開戦前の国境線から更に押されてやっと停戦する事に成った。
しかし停戦交渉の裏で3国が密かに手を結ぶ密約が在った。
密約はイスラーファの情報の共有と確保への手助けとその後イスラーファを3国で共有する内容だった。
オウミ国王は停戦後のロマナム国の侵略を密約を結ぶ事で避ける事に成功した。
3国はイスラーファを自国で保護したいと思って居るが、他国に邪魔されたり攻め込まれることを恐れた。
それならば数万年の寿命を持つ樹人であれば3国が順番に保護する事も可能だと各国共に認識したのだ。
その認識が密約を成立させる主な要因となって3国の密約は成った。
いつものようにイスラーファとは無関係な所で決まった存在そのものが秘された密約だった。
次は
1,神域のワイバーン2頭の調教と騎乗。
1,村外の集落への治療と治療した事で分かって来た領民の病害。
1,イガジャ男爵とビェスへ魔術の講義とビェスの帰国。
です。