第56話・3 (閑話)イガジャ男爵(2)・3
イガジャ族とキラ・ベラ市の大公家(北の大公)との諍いの始まり。
オウミ王国には東西南北に大公が居ます、その中の東の大公が王となりました。
カークレイ(イガジャ男爵)はイスラーファ様の思い出から政治的な事へと考えを変えて行った。
飛竜の群れを発見した事はその日の内にキラ・ベラ市の北の大公へと知らせた。
知らせなければ、後でどんな難癖を言って来るか分からないから知らせただけで、援軍を期待した訳では無い。
実際男爵家が討伐を行うに際して大公からの援助は何も無かった。
北の大公からの返事には、諸般物入りの為軍を動かす事は難しくイガジャ男爵の活躍に期待すると返答が在った。
北の大公への飛竜の群れ発見の報告に対して良い返答は最初から期待はしていない。
返事を持ってやって来た使者にカークレイは皮肉を効かせて同情したように言ってやった。
「大公様もイスラーファ様捕縛の件では50騎もの騎馬隊と傭兵を50名即座に雇い入れて派遣したそうですな、諸般物入りとはさぞかしその時の散財が大きかったのでございましょう。」
使者は黙ったままぞんざいな一礼をしただけで帰って行った。
オウミ王国建国時から北の大公家とイガジャ族は反目してきた。
建国前までは隣接する領地の故に勢力争いは在ったが、イガジャ族は山岳地帯の蛮族対してキラ・ベラ市の大公は広大な平地を治め大河ラニの水運を利用した内陸部にありながら交易も盛んな大領の主。
比べるまでも無く大公側は強大でイガジャ族を蛮族と蔑んでいただけだった。
その関係が大きく崩れたのは、北の大公が今の王家(当時は東の大公)との抗争で徐々に後退して行き追い詰められた事が原因になった。
カークレイは初代イガジャ男爵となった祖父のハードリイから建国時の北の大公家と拗れる原因となった経緯を直接聞いている。
最初は東の大公が仕掛けた謀略から始まった。
皮肉なことに謀略を実行したのはイガジャ族出身の影の組織だった。
イガジャ族は元々鉄の鉱山を領内に持っていた。
それはイガジャ族内の需要を賄う程度の物でしかなかった。
ところが其の鉱山は実はダンジョンでそこから鉄や魔石さらには魔銀までが取れると噂が広まったのだ。
やがてダンジョンが在ると言う情報が幾つかの物証(魔石や魔銀の小片)と共に北の大公の耳にも入って来た。
北の大公はダンジョンを手に入れて起死回生の力となる重装備の騎馬軍団を作ろうと考えた。
イガジャ族を蛮族と侮っていた北の大公は集められるだけの軍を集め、有能だと北の大公に期待されている次男に大将を任せ、イガジャ領へと進軍した。
処が蛮族と侮っていたイガジャ族は争わずに山の奥へと逃げて隠れてしまった。
ダンジョンも見つからなかった。
イガジャ族が逃げた先にダンジョンが在ると思い込んだ北の大公の軍は奥へ奥へと引き込まれ、偽情報や囮を使った罠に引っ掛かり少数で孤立させられて大損害を出してしまった。
さらに大軍を率いて進軍してきた北の大公の軍は、イガジャ族の精鋭に後方の食料や軍需物質を燃やされたり、奪われたりとさんざんに引っ掻き回された。
そして次男の大将も混乱の中忍び込んだイガジャ族に暗殺されてしまった、その為北の大公の軍は進軍を中断してしまった。
イガジャ族はなぜ北の大公の軍をほんろう出来たのか?
それは、魔女が使い魔で北の大公の軍が出す情報を書き換え偽情報をばら撒き、シノビのスキルを持った精鋭に率いられたイガジャ族が待ち伏せる場所へと誘い出したから。
暗殺もシノビのスキル持ちによる者だった。
イガジャ族は傭兵で身を立てるしかない寒村の山里の集まりからなる一族だ。
それが名うての傭兵一族として知られるようになったのは、オウミ王国建国の争乱のおかげだった。
元々険しい山々を移動しながら狩りをしていたイガジャ族は身の軽さと獲物を追う様々な技能を持った集団だった。
その能力を戦に利用したのは争乱の最中の大公達だった。
最初は偵察をさせる事が多かったが徐々に敵の情報を探って持ち帰るような仕事へと変化していった。
イガジャ族も期待に応えるべく技能を磨き、有効なスキルを得る者も増えて行った。
暗闇に紛れ、探り、戦い、移動する技能はシノビのスキルを得やすくしたのだろう有用なスキルを得て傭兵で生活出来るようになった。
他にもイガジャ族には昔から魔女の魔法として闇精霊術を行使してきた魔女達が居た。
彼女達が育てて来た薬を作る技能や知識、使い魔として使役してきた闇精霊は同じように敵の情報を得る手段に成った。
魔力感知の能力を持たない人族は魔女の使役する使い魔に対して対抗する術を持たなかった。
さらに、魔女の薬は人を癒すだけでなく人を誑し込む媚薬や心を無防備にする自白薬の様なものまで在る。
魔女と呼ばれたのは、その様な不思議な術を魔法と言って恐れた人々が魔法を使う女性を指して魔女と言った事から始まった。
かくしてイガジャ族は諜報の達人としての名声を得ることになった。
魔銀が取れるのはダンジョンの中以外に無い事は一般常識として最低でも貴族は知っています。
魔銀が闇の森ダンジョンから取れる事(この場合は魔物のドロップ)は大公も知っています。
次回はイガジャ族と北の大公との諍いの裏側です。