第55話 飛竜討伐(11)
3頭目の討伐完了です。
オイラートの集落から今の飛竜との空中戦は見えていたようで、集落の近くに飛行機で着陸すると領兵の皆や村人が駆け寄って来た。
「イスラーファ様、飛竜との一騎打ち、このイガジャ男爵感服しました。」
イガジャ男爵様が真っ先に駆けつけてきて飛行機が止まる前に一緒に走りながらラーファに語り掛けてきた。
イガジャ男爵様の後ろにはダンガー隊長と一緒に討伐隊の村にいる隊員全員がやって来ていた、更に後ろにはオイラートの集落の人達が一塊に成って付いて来ている。
ラーファが止まった飛行機から降りると、集まった人達に取り囲まれてしまった。
ラーファは飛竜の事が気になるので、イガジャ男爵様に頼むことにした。
「イガジャ男爵様、先ほど撃ち落とした飛竜はまだ生きています」
「なんだと! 飛竜がまだ生きていると言うのか?」
イガジャ男爵様が飛竜の生命力に驚いています。
「これから行って止めを刺そうと思います、誰か付いて来て貰えませんか?」
課題のクロスボウの拘束力アップの件、此の飛竜で確認したいのでクロスボウを用意する必要が在るし、他には何が必要かしら?
続けて提案しましょう。
「イガジャ男爵様クロスボウの拘束力の件ですが、墜落した飛竜で試してみませんか?」
ラーファの提案に男爵様も、生きた飛竜が動けないこの状況に思い至ったのか直ぐに賛成してくれました。
村へクロスボウや専用の矢のボウを取りに行かせると共に村人へは飛竜の解体や運び込む為の運搬具を飛竜の墜落現場へ持って来るように指示をオイラートさんへ続けざまに出して行った。
イガジャ男爵様の命令で討伐隊の全員で墜落した飛竜の場所に行くことになった。
集落からも何人か希望者が出たので一緒に行くことになった。
総勢60人位で飛竜の墜落した場所へとつく頃には日は沈んで夜2時(午後7時)になっていた。
墜落場所へ近づくと、飛竜が首をもたげて此方を見た。
結構な高さから墜落したにもかかわらず生きているとは魔石生物とは丈夫な生き物だなぁとラーファは感心してしまった。
ラーファは明かりの魔術を行使して光の玉を飛竜の周りに浮かべた。
これで飛竜の状態が良く見えるようになった。
左の翼が根元から砕かれて千切れている、空から落ちた時足で着地したのだろう両足も折れている様だ。
匂いか何かでラーファが分かるのか首を上げてラーファを見ている。
頻りにブレスを吐く動作を繰り返している、まだ攻撃を諦めていないその様子に、近づくのは危険だろう。
遠くからクロスボウでボルトと呼ばれる短く太い鉄の矢を、刺さるかどうか確認の為に撃つ事にした。
飛竜の表皮はうろこ状の丈夫な皮で覆われている。
クロスボウを撃って見た所、ボルトは体には刺さらなかったが、薄い皮膜の翼では突き抜けた。
これならボウにロープをつけても翼の膜に刺さるだろう、ボウの返しをもっと大きくすればロープで引っ張っても抜ける恐れは無いと思う。
クロスボウのテストは此れで十分だろう、男爵様も満足気だ。
飛竜の苦痛を長引かせるのも可哀そうなので、ラーファが止めを刺すことにした。
氷槍を飛竜の心臓のある場所へ魔力を繋げて撃ち込んだ。
飛竜は胸の心臓がある場所を瞬時に凍らされて死んだ。
明かりの魔術の代わりに松明に火を灯して死んだ飛竜の周りを囲み、台車に乗せて山腹を滑らせて集落へと運んだ。
もう夜なので集落に持ち込んで本部の前に置いた、解体するのは朝にする事にして見張りを集落の人に任せ討伐隊は明日の任務に備えて寝ることにした。
ラーファも疲れがどっと出てきて眠たくなったので、部屋へと引き上げることにした。
みんなにおやすみなさいの挨拶をして、ラーファの部屋から神域へ引き上げた。
神域はこれまでいつも明るかったが、ラーファが入った時は外と同じに夜の様な星明り程の明るさで、歩くことは出来るが走るのは危険な明るさだった。
『マーヤ、神域に夜が来たよ!』ラーファがマーヤに夜の事を念話で伝える。
『ラーファ、お帰りなさい、うん夜を作ったんだよ』マーヤも眠そうな念話で返す。
ラーファは此れでマーヤによる神域の改造が一段落しただろうと安心した。
マーヤにお乳を上げながら聞いてみた。
「マーヤ、神域の改造は終わったの?」
『うん、夜を作ったので一通り終わったよ』
やり終えたと言うよりも、一段落したぐらいの軽い言い方だった。
この言い方だとまだまだ思いついたら次の改造が在ると覚悟して置く必要があるだろう。
飛竜では無く神域に神石で管理されているからすでにワイバーンだがそのワイバーンに乗る為の諸々の準備もそろそろ始めなければならない。
最初に体格を色々測らないと、鞍を作ろうにも作れ無いだろう。
ラーファがワイバーンの体の長さを測る場面を想像して鳥肌を立てているとマーヤはすやすやと寝てしまっていた。
明けて次の日、昨日討伐した飛竜の解体は未だ胸の氷が解けていなかったので村人に任せる事に成った。
少し遅れて飛竜討伐隊は昼1時(6時)にオイラートの集落を出て、罠を仕掛ける場所へと移動した。
処がその日、昼が過ぎても飛竜は1頭も飛んでこなかった。
不審に思ったラーファはイガジャ男爵様の許可を得て、昼8時(午後1時)過ぎに飛行機で飛竜の巣へ偵察に行った。
飛竜の巣が見える所まで近づいて見たが飛竜は見当たらなかった。
『飛竜が1頭も巣に居ないよ』とマーヤも教えてくれた。
崖の上に飛行機を着陸させた、岩場なので激しく揺れたが何とかひっくり返らずに済んだ。
巣へ行って見ると巣の中には卵がまだ残っていた。
3つの巣から6個の卵を回収して神域にしまい込んだ。
『マーヤ、この卵はまだ生きているの?』と聞いてみると。
『1個はだめかもしれないけど、残りの5個はこのままワイバーンに温めさせるね』
マーヤの調べでは5個がまだ生きている様だ。
『おばばや魔女見習い達に卵が孵る時側に居させたいから、おばばの方の用意が出来るまでで良いよ』
『分かった、死んだ卵はマーヤが貰うね』マーヤは卵を食べるのかな?
『飛竜の卵は美味しいのかな?』その前に食べられるのだろうか?
『食べたりしないよ、卵からの方が再生させやすいんだよ』
2頭目のワイバーンを神域に作る様です。
『楽しみだね、これで2頭目のワイバーンが作れるよ、しかも雄雌が揃うんだよ』
マーヤの喜びの念話が伝わって来た。
ラーファの考えでは半数を殺された飛竜の群れは巣別れして作った新たな巣を放棄して何処かへ移動していった様だ。
イガジャ男爵領の飛竜騒動は此れで終わったのだろう。
飛竜は逃げ出したようです。