第30話 弟子入り(1)
此処でも女性の独り歩きは危険だと言われていますね、ホレツァの町の警邏隊隊長も同じことを言ってます。
マーヤは人の魔力量を知る事が出来るようですね、鑑定系のスキル持ちなのかもしれません。
「少し教えて欲しい事が有るのじゃが、構わんかね」
と正面に座る魔女殿が聞いて来た。
「はい、何なりと」
ラーファは聞かれた事は何でも答える積りで答えた。
「治療と言ったが、既に手当はしておる、これ以上どのような治療をする積りじゃ?」
魔女殿が治療の仕方を聞いて来た、薬師として真っ当な内容なので正直にラーファも答えた。
「はい、10日近く立った骨折患者の状態は腫れが引いてもまだ固定して居なければいけない状態です」
「患者によっては骨片の剥離が在れば、何時までも痛みが続いていると思われます」
現在の怪我人の状態を予想して話を進める。
「私は、魔術医として今からでも魔術行使又は回復ポーションで骨折前の状態へと完全治癒させる事が出来ます」
「「魔術医とな!」じゃと!」
魔女殿とイガジャ男爵は立ち上がってラーファを見つめた。
所が、イガジャ男爵が膝を抱えて座り込んだ。
「あたたたっ」
と急に立ち上がったので元々悪い膝を更に傷めてしまったようだ。
「失礼します」
ラーファは席から立ち上がると、イガシャ男爵に近寄り痛がっている左膝へと手を伸ばし魔術の行使をした。
イガジャ男爵の膝は骨折ではなく所謂膝を経年的変化により軟骨を傷めた状態で、周りの組織も同じで柔軟性を失っていた。
そんな状態の場所に最近過度な負荷が在ったのか軟骨に傷が出来ていた。
驚くイガジャ男爵を無視してしばらくそのまま手を伸ばしたままで居た。
ラーファはその間に魔術を行使して膝の周囲を治癒していた。
「驚いた、痛みが綺麗さっぱり消えてしもうた。」
と、ラーファが手を引くと立ち上がって足を屈伸させて痛むか調べた後、囁いた。
「最近傷められたようですけど、イガジャ男爵様も山へ行かれていたのですか?」
ラーファが診察内容から聞いて見ると。
「其の通りじゃよ、あの時村の者を引き連れて儂も残り岩のあの山へ行っておったのじゃ。」
ラーファは治療した時にそうかもしれないと思っていた。
「大公様の命令とはいえ儂も責任がある一人じゃ、改めてお詫びする。」
そう言うと頭を下げて。
「追いつめる様な事をして申し訳なかった。」
ラーファは既にその件は終わった事と思っている。
「頭をお上げください、ラーファはあなた様にも村の人達にも何の隔意も持っていません」
「そうかありがたい事じゃ、イスラーファ殿の申し入れの件も、一度村の乙名達と話し合って出来るだけ良い返事をしたい。」
と魔女殿の方を確認してから返答した。
「ありがとうございます、ラーファは今ビェス殿と同じ「山鳩の塒」と言う宿に泊まっています、御用がございましたらお呼びください」
「分かった、話し合いの結果が出ればお知らせしよう、その為にももう少し聞いておきたいのじゃが?」
「はい、どのような事でしょう?」
「うむ、ビェストロ殿の話ではイスラーファ殿は他の村の怪我人へも治療したいお考えだと聞いた。」
「はい、出来ましたら、この村以外の方も治療したいので、紹介していただければと思っています」
「それは、治療の為に患者をこの村へ呼び寄せると言う事かの?」
と魔女殿が聞いて来た。
「いいえ、ラーファが村まで出向いて治療したいと思います、その為に事前に村へ知らせをしていただければと思います」
「イスラーファ殿、女の身一人で村々を訪ねて歩くのは危ない、護衛を連れるて行くのじゃ。」
とやはり女の一人旅は危険なようだ、イガジャ男爵からダメ出しが出てしまった。
「村々を回って治療して貰うのはこちらにとっても利が在る事だし兵士を引き連れて行かれると良い、しかし名目が必要じゃな。」
イガジャ男爵様が考え込んでしまわれた。
「のうイスラーファ殿、そなた魔女の弟子になる気は無いかの?」
いきなりの魔女殿からの提案だが、此の提案は護衛に兵士を付ける事が趣旨だと思う。
『ラーファこの提案に乗って弟子になったら良いよ、交換に魔女殿をラーファの弟子にすれば魔女殿にも利のある事とだと思うよ、魔女殿には魔力の行使が出来るぐらい魔力が在るから』
マーヤの報告に驚きました、人間で魔力行使の出来る程魔力がある人は初めてです。
「魔女殿、お弟子に成る件ありがたくお受けしたい、ついては魔女殿にもラーファの弟子に成ってほしい」
今度は魔女殿が驚く番だった、ラーファの提案はその意味が良く分かって居ない様だった。
「魔女殿には人族としては異例なほど魔力が在ります、教われば医療魔術の行使が出来る様に成るでしょう」
と魔女殿にラーファから教われば魔術が使える様に成る事を伝える。
「おおおお、オラが魔女の魔法ば使えるだっべか!!」
いきなり言葉が崩れてしまった魔女殿だったが、直ぐに立ち直ると。
「んっ、イッイスラーファ殿、私が魔術を使える様になるとは、本当ッ、本当の事だろうか?」
声が裏返ったりしたが何とか言い直した。
「はい、魔女殿には魔術行使出来るだけの魔力が在ります」
急に左から圧と言うか熱気が迫って来た、左の方を見るとビェスが顔を上気させて熱心にラーファを見ている。
『は~ぁ、お兄ちゃんも自分の魔力の事を知りたいんだね、ラーファ後で教えるからと言っといて』
マーヤから念話が来た、そうだよねビェスも知りたいだろうね。
「ビェスは後で魔力については教えてあげるから待っててね」
ラーファが言うと、ビェスは静かにしかし力強く頷いて嬉しそうに顔をほころばせている。
『ラーファ、男爵様にも伝えて、残念だけど魔力は魔女殿の1割ぐらいだって』
熱心にラーファを見ているイガジャ男爵の方を向くと、ああ貴方もかと思いながら最後の一人に残念な事を伝える。
「イガジャ男爵様は魔女殿の1割ほどの魔力をお持ちです、もう少し魔力を増やせば簡単な魔術の行使が出来る様に成るでしょう」
残念でしたと告げる。
「おおそうかそうか、儂にも魔力が在るのか、良い事を聞いたな。」
逆に魔力がある事を喜ばれてしまった。
ラーファは人族がこれほど魔力を欲している事に今まで気が付かなかったことを恥じた。
この村にしばらく滞在する事に成るので、魔女殿に教えると共に他の人にも教えても良いと思った。
ラーファは今まで人族が如何に魔術について憧れていたか気が付きませんでした。
そう言えばホレツァの町の宿の女将グレイスさんが熱心に魔術師ラーファの盗賊退治を聞いていた事を思い出しますね。