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第29話 薬の木(4)

いよいよ村長に会いに行きますが、村人の反応がラーファを戸惑わせます。

 後2コル(30分)で昼の10時(午後3時)に成る頃だ。

 宿を取っってそろそろ1刻(2時間)近く経ったので村長に挨拶に行こう。


 此の宿もカギを渡すと引き換えに番号を書いた板を渡してきたのでオウミ王国の宿では共通のシステムなのだろう。

 広場を横切り、村長の家兼城へ赴く。


 門番が誰も居ないけど門を通っても良いのだろうか、空堀を渡る石橋を渡ったが誰も居ない。

 門を通るとそこは広場に成って居て、正面に大きな建て物が在る、この建物が村長の家なのだろうか?

 村長が男爵と言う事は、ここら一帯の領主か領主代理なのだろう。


 広場でポツンと突っ立っていると、倉庫が並んで立っている北側から男の人がやって来たので救われた思いがした、彼に聞いて見よう。


 「失礼いたします、私はイスラーファと申すものですが、カカリ村の村長殿にお目にかかりたい、取次をお願いしたいがお願いできるだろうか?」


 「ヘッ・・・イス・・アッ!」

 ペタンと座り込んでしまった男の人は、じりじりと後ろ退りして、いきなり後ろ向きに立ち上がると脱兎のごとく逃げ出した。


 『ラーファは嫌われているのかなぁ?』

 その姿を見て悲しくなったラーファがマーヤに訴えた。


 『嫌われていると言うよりも恐れられているのかも』

 マーヤが不穏な事を言ってるけど、ラーファは怖く無いよ。


 『マーヤ、ラーファってそんなに怖い存在?』

 『飛竜を火球1発で仕留めるぐらいは怖がられてるかもね』


 『それは結果であって、むやみやたらと火球を撃ったりしないのに、それに撃てば魔力が枯渇するからしばらくは撃てなくなるから』

 ラーファがいくら思っても、村人は飛竜を1発で仕留めた女と知っているので近寄って来ないのだろう。


 村長の家の前の広場を囲む倉庫や厩、宿舎の影からこちらを伺う人達が増えて来た気がする。

 『建物の影に隠れてこちらを見ている人が10人程いるよ』


 その時正面の大きな館からビェスが出て来た。


 「ビェスゥ~、誰も近寄ってくれないんだ、如何しよう?」


 ビェスは呆れたと右手を額に当て顔を上に向けてため息を吐いた。

 「はぁ~、ラーファはお貴族様だと思われているんだよ、門で一悶着在っただろ。」


 「宿では普通の対応してくれたよ」

 そう、宿の受付の人はちゃんと受け答えしてくれた、此処の村人だけが近寄って来ない。


 「宿はベロシニア子爵様達貴族が今朝まで泊まっていたんだ、慣れているんだよ。」


 「エッー、そんなぁ」


 「ラーファは樹人だろ、貴族と同じかそれ以上のそう王族並みの扱いになるよ。」


 「今朝まで追手の掛かった逃亡者だったのに、いきなり王族並みとか差があり過ぎだよ」


 「はいはい、其れより村長達が待ってるから、中へ入ろう。」

 と王族並みが何処へ行ったのか手を引っ張って館の中へ強引に連れ込んだ。


 ラーファの手を掴んだままビェスは館の中を進んで行く。

 ラーファはこのまま進んいって村長達と会うのは不味いと思った、髪色を変えているし、耳も形を変えている。

 会うのなら、本来のラーファで会おうと思った。

 「ビェス、少し待って」


 ラーファも立ち止まり、つられて止まったビェスに言った。


 「ビェス、此の髪を挨拶する前に解除したいの、耳の形もね」

 そう言って、髪色変色ポーションの効果をキャンセルして元の金髪へ戻した、次に耳のピアスを外し本来のラーファの耳へと戻す。


 「へぇー、耳まで変えていたんだ。」

 感心したようにビェスがラーファを見て言った。


 「それが、本来のラーファの姿なんだね。」

 ラーファをじっくりと見ながらビェスが確認するように言ってくる。


 「そうよ、これで変えている所はもう無いわ」

 くるりと回転して姿をビェスに見せる。


 「イスラーファ・イスミナ・エルルゥフと申します、以後お見知り置き下さりませ」

 ラーファが正式に礼をして名前を名乗ると。


 「ビェストロ・パストだ、此方こそよろしく。」

 と右手をお腹に、左手を後ろへ回し、お辞儀するビチェンパスト共和国の礼で返して名乗った。


 「「ふふふ」アハハ。」

 楽しくなって笑いあった。


 奥まった部屋のドアの前まで来ると、ビェスがドアをノックした。

 「ビェストロです、イスラーファ殿をお連れしました。」

 おとないを告げる。


 中から

 「お入り下され、お待ちしていました。」

 老齢を感じさせる声で返事が在った。


 部屋の中には大きなテーブルを囲んで2人の老いた男女が椅子に座って待っていた。

 お互いに挨拶を交わす為、訪問側のビェスとラーファから名乗った。

 「遅くなりました、樹人のイスラーファ様をお連れしました。」

 「イスラーファ・イスミナ・エルルゥフと申します、男爵様にお願いの儀が在り罷り越しました」


 「カークレイ・イガジャ男爵と申す、お話は後ほどお聞きいたしましょう。」

 一番奥の椅子に座っている50代の年老いた男性が少し足が悪いのかゆっくり立ち上がって礼をした。


 続いてイガジャ男爵様の右手に座っている、こちらは年老いても元気な女性が立ち上がると頭を下げる。

 「魔女を名乗るクリスティン・マーリアンじゃよ、薬師が本業じゃ」


 「イスラーファ殿、そちらに座って下され。」

 イガジャ男爵様が左手の椅子をすすめて来る、ラーファは勧められた椅子に座ると横にビェスが座った。


 「ラーファ、イガジャ男爵様には私から治療の事は話したが、ラーファからもう一度希望する事を話してくれないか。」


 ラーファが願いの件を話しやすいようにビェスが誘導してくれる。


 「はい、先日までベロシニア子爵様に追われていた事は御存じの事と思います」


 「ええ、知っています。」と男爵。


 「私が、東の山頂から空へと飛び立った時の事はお聞きでしょうか?」


 「ええ。」

 男爵が気になる事でも有るのか眉をひそめたが、直ぐに気を取り直して短く答える。


 「私が飛び立つ前に作っていた砦に積み上げた小石の壁を登ろうとした人たちで、崩れた小石の雪崩で怪我をした人が居ると思います、私は未だにその時の怪我が治って居ない人を治療したいと思います」


 一息つくと、此処へ来たお願いを申し入れる事にする。

 「その為の便宜をお願いしたく此処へ来た次第です、如何か怪我人を治療することに手助けをお願いします」


ラーファを王族並みの扱いかと言うと大げさですが、貴族の考えでもそこらの貴族よりははるかに貴人として認識されています、そのため魔女は通常名乗らないのに今回魔女のクリスティンは名乗っています。

それでベロシニア子爵の対応はどうなのかと言うと、尋問で樹人かどうかシツコク聞いたのは理由が在ったのです。

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