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第27話 薬の木(2)

樹人の扱いが村人から誤解されているようです。

 草原へ降りる坂道を上がった先の道はやがて上り下りをくり返し、西へと向かった。

 幾つかの分岐の後周りから独立した山頂へと続く折れ曲がった登り路と成った。


 ラーファの歩く速さにビェスが合わせて新緑の中をゆっくりと山道を進む。

 二人でおしゃべりをしながら歩くと疲れを忘れ景色を楽しむ余裕さえ在った。


 二人で楽しく歩いて行くうちに、山腹に作られた村へとたどり着いた。

 ラーファはあまり疲れて居ないのが不思議だった。


 ビェスが村の門の前まで来ると、門番の前で気取った格好で一礼して言った。

 「ようこそ山頂の村イタロ・カカリ村へ。」


 「ビェストロ様それはオラの言う言葉だ、取らんでくれ。」

 門番の一人が苦笑しながらビェスに文句を言う。


 「ラーファには僕が言いたかったんだ、ボブ、紹介するよ彼女がイスラーファだよ。」

 ビェスが紹介した名前は門番には衝撃的な出来事だったようだ。


 オドオドとボブと呼ばれた門番がラーファに質問した。

 「お、おみゃあさまが、いや・・、貴方様が空を飛んで飛竜を倒し・・、倒されたイスラーファ様でございますか?」


 「名前も飛竜を倒したのも確かにラーファですけど、もう追いかけては居ないのでしょう?」

 ラーファは門番がなぜオドオドしているのか分からなかった。

 ラーファが肯定すると、門番は地べたに土下座してしまった。


 「申し訳なかっただ、お偉い人から追いかけろって言われて仕方なく追いかけただ、許してくんろ。」

 門番だけでなく他の門番や近くの村人までが土下座している。

 門番達のいきなりの土下座に吃驚びっくりしたラーファはボブと呼ばれた門番に急いで言った。


 「立ってください、追われたのは全てベロシニア子爵の指示なのですから、貴方は従っただけで何にも咎める積りはありません」

 ラーファの言葉に門番のボブは咎められる事は無いと分かってやっと安心したようだ。


 「そうだよ、ボブがラーファから怒られる事は無いよ、ベロシニア子爵なら別だけどね。」

 罪を許すと書かれた紙を見た時のラーファの様子を知っているビェスがボブを宥めている。


 ボブの話によると、ラーファが樹人だと言う事が、樹人を良く知らない村人に樹人は外国の貴族の事だと勘違いされ、罪に問われると思ったらしい。

 如何やら村人が恐れているのは、追いつめられたラーファが山頂でベロシニア子爵達にした演説の様だ。

 対象として「オウミの国の民よ!」と話しかけたのがお前達も責任が在ると捉えられたようだ。


 「貴方達へ罪を問う様な事は一切ない!」

 結局門番や村人への咎めは無い事をラーファが改めて宣言して、この一件は何とか無事に終わった。


 「ラーファごめん!こんな騒動に成るとは思わなかったんだ。」

 とラーファの宣言で収まった門前の騒動に、切っ掛けを作ってしまったビェスがラーファに謝った。


 「謝るのはラーファだよ、ラーファがした事で大事に成って、それがラーファに帰って来ただけだから、ビェスが謝るような事じゃあ無いよ」

 もとよりビェスを咎める気が無いラーファは反論の為とは言えあんな演説をした事を後悔していた。

 ただ、今後ラーファは樹人として知れ渡っている為同じような事件が在りそうだと不安に思っている。


 カカリ村の入り口での騒動が終わたので、ビェスに宿屋へ案内して貰う事に成った。


 歩きながらのビェスの話では、村は山頂一帯を石の壁で囲っていて、入り口は先ほど通った門だけだそうだ。


 「この村はね、この辺り一帯の林業と薬草関係の中心地に成っているんだ。」


 「林業に薬草って薬の木以外にも薬が在るの?」


 「薬の木だけで無くて、薬草から作られる薬も多いよ。」

 「小さな部落が沢山在って、山から採って来た薬草をこの村で換金して、そのお金で生活必需品を買って帰る生活をしている人が大勢いるらしいんだ。」


 「林業は木材の切り出しとかしているの?」


 「木材もそうだけど、加工品も多いよ。」

 「そうした加工品や薬を仕入れて売る為の、この村を根拠地にしている大商人が何人も居るんだよ。」


 「とても大きな村なのね、でも町じゃあないのね」


 「立地が山だからね、これ以上大きく出来ないんだよ。」

 「木材とかは、商人が集めてキラ・ベラ市まで持って行くんだ。」

 「キラ・ベラ市まで続く街道が在って、その所々に木材の集積所や製材所が設けられているんだ。」


 「でもここは山頂だし、人も多いから不便じゃ無いの?」

 ラーファが色々と不足しそうな物を思い浮かべて聞いて見ると。


 「山頂の村長の家の側から水が湧き出ているんだ、地面の下に水道が埋まってるから見えないけど村の全ての家に水道が在るんだ。」

 「すごいのはそれだけじゃなくて、下水も在るんだよ、下水も集めて下の方に見えるあの建物で処理してるんだって。」

 と少し登って折り返しの地点へ来た所で、石壁に隣接した大きな建物を指さした。

 先ほど入って来た門の北へ少し離れた場所で魔力のうねりを感じる所が下水処理場らしかった。


 「加工品を売った帰りに食料を仕入れて帰るから、不便に感じるのは毎日坂道を登ったり下りたりする苦労ぐらいなのさ。」

 「それにね、ほら下に見える開墾した部分が在るだろ、そこで蕎麦や燕麦などを作ってるんだ。」

 ビェスが立ち止まって、石壁越しに見えて来た村の周りの傾斜の在る開墾地を指さしてビェスが言った。


 ラーファにはカカリ村は人口も千人以上は居る様だし、とても栄えている町に見える。


 大通りが門から一度折れ曲がり山頂へと続く高台まで繋がっている。

 大通りは高台の所で反対方向へと折れ曲がり、大通りの両側に店や家が並ぶ中を大きな広場へ行き着く。

 広場の先に砦の様な真っ直ぐ切り立った崖の上の山頂を利用した砦が在るそこが村長の家らしい。


 高台へと続く坂道を歩いて行くと、大通りの石造りの家の間に路地が在るのに気が付いた。

 その先の小さな広場には女性や子供が大勢見える、前にも見た事が在る光景だった。

 山腹に作られた城塞に見える外見にも関わらず、住心地の良い商業の盛んな町なのかもしれない。


 「この村は、作られている薬の評判も良くて村の重要な収入に成っているんだ。」

 と今度はラーファを見ながら教えてくれる、必要なお金は木材や薬を売る事で得ているらしい。


 「村長には、まとまった量の薬を買い入れて、ビチェンパスト共和国へ持ち帰る事を伝えている。」

 「村長は男爵の貴族だけど、村の事を一番に考える人なんだ。」

 「入って来る税収の半分は村や周りの部落の為に使っているぐらいなんだよ。」

 貴族の領地については詳しくないので分からないけど、ビェスの言い方だと凄いのだろう。


 大きな広場に着いた。

 門は馬車が2台並んで通れるほど大きいが開け広げられていて門番も居ない。

 この広場とそれを囲って建っている建物を含めて大きな城郭の作りに成っている。


 広場のその先には山頂の村長の家の前に在る空堀を渡る石橋が在る。

 村長の家らしいお城の前の空堀を渡る石橋は頑丈そうだ。


 村長の家は山頂一帯を囲った城の本丸で、いざと言う時村人全員が籠城出来るらしい。

 城と言っても村に向いた側の空堀は土を魔術で石に固めた作りで、作られてから時間が経っているのか堀も浅く埋もれかけている。


 大きな広場は村の門から続く大通りの終着点で、広場を囲う様に宿屋や雑貨屋などの店に鍛冶屋や木材加工の工房等々が在った。

 大きな石造りの建物が何棟か広場の周りに在るけど、大商人の店なのだそうだ。


 ビェスに寄れば、村長へはビェスがこの村に来た時に薬の木の内容は伝えたがベロシニア子爵の件で今朝まで良い返事が貰えなかったらしい。

 ベロシニア子爵達が今朝帰ったのでやっと話し合いが出来る様になって、昼から薬師や採取する部落の代表に商人を交えて話し合いをする事に成ったそうだ。


 その時にラーファの件も話してくれるそうだ。


イタロ・カカリ村の大雑把な姿と在り様です。

下水処理場は魔道具を導入して堆肥化しています、ビェスが指さした斜面での作物作りに活用されています。

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