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第26話 薬の木(1)

ビェスがオウミ王国まで来た、理由が分かります。

 「ねぇ、僕が今泊っている村へ来ない?」


 未だ怒りは収まらなかったが、ビェスが言う罪を許すとは追手がもう居ないと言う事。

 大公に会いに行くなど論外だが、ビェスの誘いに乗る事は平穏無事な日常へ戻れることでもある。

 勿論怪我をした村人の治療も提案して見る積りだ。


 「村には数軒宿屋があるけど、今僕が泊って居る宿は居心地が良いんだよ、ラーファもその宿に泊まらない?」


 ビェスの泊っていると言う村の事も興味が湧くし、ビェスの誘いに乗る事にした。


 「ビェス、ラーファは追手の中で怪我をした村人を治したい、村長へお願いして怪我人を紹介して貰い治療したいの」

 ビェスへ村へ行く理由を話すと、ビェスは直ぐに返事を返した。

 「ラーファが気にする事じゃないけど、ラーファが怪我の治療をしたいのなら村長に話してみるよ。」


 「ありがとう、村長に話せば他の村へも話を通してもらえると思うから」


 「今回徴集された村全部を回るのかい?」


 「ええ、それがラーファが今思っている事」


 「あの時から10日近く立ってるから、打ち身ぐらいならもう治ってるよ。」


 「そうね、骨折していたら治した方が良いと思う」


 「たしか10人程が重い怪我で死人は出て居なかったから、その10人を治療すればいいと思うよ。」


 「分かった、その10人を治療できるか聞いて見る」

 ビェスは改めて村長に話すと言ってくれた。


 坂道を上ると踏み固められた道が鷹の目を遮ってくれた尾根へと続いている。

 彼は村への道すがら自分の事を色々話してくれた。


 「僕はビチェンパスト共和国と言う中の海に面した国から来たんだ。」

 ビェスは少し自慢げだ。


 「また随分と遠くから来たんだね、ビェスは冒険者とか言う人なの?」

 マーヤが広げてくれた念画像の地図中で、遥か遠くにあるビチェンパスト共和国の淡く点滅している場所を見ながら言った。


 「いや、僕は父の傭兵団について来たんだ、依頼を受けてね。」


 「依頼?」


 「そう、15歳の成人の儀を済ませた時に与えられる課題(通過儀礼)で幾つか種類を選べるんだけど、僕はお金儲けを選んだんだ。」

 ビェスは話しながら手を握り締めた。


 「他には、魔物退治などの武威を示したり、大食いや歌や踊りなどで何か周りの人に認められるような事をするんだよ。」

 「僕の場合、傭兵団の長を務める家なので武威かお金儲けの2択しか選べないからお金にしたんだ。」


 ラーファの方を見ながら、ラーファの反応を気にしている様に見えた。


 マーヤはお兄ちゃんはラーファが武威を選ばなかった事を弱いからだ思ってい無いか気にしているのではと思った。


 「どうやってお金を儲ける積りか聞いていい?」

 ラーファの質問は単純にお金儲けの方法が知りたいと思ったからだ。


 「うん、薬の仕入れをする積りなんだ、此の山には薬の木と言う木が在るんだよ。」

 ビェスはラーファの質問に安心したように話し出した。


 「正式にはキイラ・チョウの木と呼ばれているんだけど、南国の熱病に効く薬が取れるので薬の木と呼ばれているんだ。」


 「南国の熱病?」

 ラーファは記憶の中から該当する病を思い出そうとした。


 熱病と言えば大半の病が熱を出す、恐らく熱病と言うくらいだから高熱を出すのだろう。

 体内に入って来た病原体への反応の一つに体温が上がる現象が在る、病態の一つでもある。

 何らかの感染症の一つだろう。


 「ビチェンパスト共和国では夏ぐらいだけど、海を隔てた南の大陸では1年中罹る人がいて、熱が出るんだ、触ると熱いぐらいだよ、そんな熱が収まったと思ったら3日目に又出て来るんだ。」


 3日熱の症状に似ている、初回の発熱なら魔術の行使1回で完治するはず、特効薬の様な物は知らない。

 「3日熱だと思うが、良く効く薬が在るとは知らなかった」


 「薬が間に合えば治るけど、薬が飲めないと3回目の熱で死んじゃう人が多いんだよ。」


 マーヤは彼の方の知識からマラリア原虫に似た収斂進化して同じように赤血球に寄生する病原体だと考えた。

 だとしたら特効薬としてキニーネの様な物がこの世界に存在してもおかしくない。

 それが薬の木なのだろう。


 『ラーファ、彼の方の知識に似たような症状と薬があるよ、赤血球に寄生する病原体で蚊が病原体を媒介するから蚊に刺された人が発病すると思う』

 『ありがとうマーヤ、ラーファはその手の知識に疎くてね、魔術やポーションで治すから効果の在る薬を知らないんだよ』


 「ビェスに教えて欲しいのだけど、蚊は多く居るのかい?」

 ラーファは病気の媒介をするのが蚊なのか知りたくて聞いて見た。


 「え、蚊?」

 「蚊は多いけど、何でいきなり蚊なの?」


 「ラーファが教えて貰った似たような病気は蚊に血を吸われると病気になるんだ」


 「ビチェンパスト共和国に居ると夏は毎日刺されるよ、寝るときは鬱陶しいから蚊帳を吊って寝てるぐらいなんだよ。」


 蚊に刺される事が多いなら媒介生物と考えられるが、確かめるのは現地での調査が必要だ。

 薬についても聞いて見よう。

 「ビェス、南国の熱病に効く薬だけど、薬の木はどんな木なの?」


 ビェスが首をかしげながら教えてくれる。

 「僕も良くは知らないんだ、村の魔女のおばば様が詳しく知っていると聞いているよ。」


 薬を仕入れに来たビェスが知らないなんて思っても見なかった、その魔女のおばば様ってどんな人なんだろう。

 「ビェスも魔女のおばば様にはまだ会って無いの?」


 「そうなんだよ、今日の朝までラーファを探したり、罪を許した事の通達を配ったりして村中の人達が駆り出されていたから薬の話が出来なかったんだ。」


 ラーファはそんな話を聞くと何か申し訳なく思ってしまった。


 「今朝ベロシニア子爵様達が引き上げて行ったから、やっと村長に魔女のおばば様に薬の事で話をしたいって伝言できたんだ。」


 何気にビェスに迷惑を掛けていたんだ、ラーファのせいでは無いけどラーファを追いかけるベロシニア子爵が悪いのにラーファがビェスに申し訳ない気持ちに成るのは何となく気に食わない。


 今度、ベロシニア子爵に会ったら毛根を死滅させるポーションでも引っ掛けてやる。


3日熱はマラリアと同じ赤血球への寄生中による疾病を想定しています。

ラーファには魔術医として魔術行使で治すかポーションに付加して患者に飲ませる治療しかしたことが無いので、薬で治す治療については話は聞いていますが、具体的な事は知りません。

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