第25話・1 魔改造
マーヤの草原デビュー(他に人はいない)や神域の改造と飛行機について。
草原を中心にして辺り一帯でラーファを探していたベロシニア子爵達も6月に入り暫くすると草原では見なくなった。
10日近くも神域に引き籠って居たラーファも久しぶりに外へと出る事にした。
念の為、髪色変色ポーションを飲んで栗色の髪へと変えて外へ出た。
そこで安全を確認すると、一度神域へ戻り暫くして出て来た、マーヤを腕に抱いて。
ラーファは神域から草原へとマーヤを連れ出すと初夏の気持ちの良い日差しの中でマーヤに初めての世界を見せた。
「マーヤ見てごらん、貴方が生まれた世界はこんなに美しいのよ」
「だーっ」
マーヤがその小さな手で光を捕まえようとするかのように手を振り、指を広げ握り込む。
暫く手をにぎにぎしていたマーヤだが疲れたのか目をつぶってしまった。
マーヤに取って外の世界は眩しく、広く、そして叫びたくなるほど開放的だった。
叫んでも「だーっ」としか声は出ないけど、色にあふれた外の世界は綺麗だった。
手で触ろうとしても溢れる色はマーヤの小さな手を通り過ぎて行く。
色と光に目が疲れて来たマーヤは目をつぶる。
眠気はまだ無いけど、抱っこしているラーファの暖かな腕と体の温もりが気持ち良かった。
マーヤの世界が広がった事で、マーヤは新たな意欲を搔き立てた。
そうだ、神域に此の世界の自然を取り込んで見よう。
『ラーファ、眩しくなったからお家に入ろう』
マーヤには昼の日差しは眩し過ぎた様です。
マーヤを抱っこして神域へ入ると、そこは大きな倉庫に成っている。
ベロシニア子爵達がラーファを捜索している間、マーヤはラーファと相談して神域を改造していた。
改造は単純にこれまでの神域の部屋を移動して、神域の入り口の前に1ワークス(2.25平方キロ)の空間を作って置いただけだ。
高さも1ワーク(1.5㎞)在る空間を一つ作っただけで、マーヤはそこを大きな倉庫だと主張している。
ここに新たに作った超軽量飛行機や前に買っていた台車や直ぐに取り出して使う物などを置いている。
入り口の近くに置いてあるが、部屋が広すぎて超軽量と言えどハンググライダーよりは大きい飛行機が玩具みたいに感じる。
マーヤを抱いたまま、入り口から左にある小道を歩き、移動した部屋の玄関まで歩く。
ラーファは此の広い空間を作る事に賛成した事を後悔しているが諦めても居る。
マーヤは入り口の前に倉庫を作りたいと言ったけど、此の大きさの空間を作るとは思っても居なかった。
ラーファはマーヤが此の空間を使って何かしたい事が有るのを知っているし、既に在るので諦めている。
ただ部屋が屋根を持った家に成ったのは、とても嬉しい。
結構な距離歩いて二方へ流れる切妻屋根の下に四方へ流れる寄棟を付けた入母屋造りの家までたどり着いた。
この立派な屋根を持った家には、壁だけで窓が今は無いがその内作るそうだ。
中央に在る切妻屋根を持つ玄関から入り、寝室のベビーベッドにマーヤを寝かせた。
部屋の配置などは変わってない。
「マーヤはお腹空いてる?」
『まだ空いて無いよ、しばらく神域を弄って居たいから、ラーファは外で楽しんできて』
「じゃ、飛行機のテスト飛行をしてるね」
『うん、テストをしっかりやってから飛行してね』
「分かってるわ、十分テストする積りよ」
『行ってらっしゃい』
「行って来るわ」
ラーファは草原で、改造した新しい飛行機の練習をする積りだ。
神域の新しい倉庫の中で基本的なテストと離着陸までの飛行は終わらせている。
引き籠っている間に、ハンググライダーを分解して超軽量飛行機へと改造した、飛竜対策の為だ。
素早い機動と飛竜より早い移動速度を得るために改造と言うより作り直した。
曲がったり折れたりした軽銀と銅と魔銅の合金の管は一度インゴットへ戻し、錬金しなおした。
軽量でも飛行機にする為には合金の管が足りなかったので、新たに軽銀と銅と魔銅を継ぎ足している。
翼もハンググライダーの物から飛行機らしい翼へと変えた。
その時に翼の外枠にするのではなく翼を中空の立体構造として作り直した。
裂けたり破れたりした魔糸布は破れた部分の繊維を錬金で継いで行く事から始め、布を新しい翼に合わせて錬金した。
翼にはこの再生した布を張り、他にエンロンや昇降舵、方向舵を作った。
新しい飛行機は、1本の細長い筒に前と後ろの2ヵ所に大小の翼を設け、後ろの小翼には垂直尾翼を付けた形をしている。
大きい方の前翼部分に人が座る胴体部分をぶら下げ、胴体部分の後ろに風を操る魔道具を新たに作って置いた。
彼の方の世界では超軽量機と呼ばれる機体にしてみた、翼以外はフレームだけのスカスカだけど。
推力は胴体の後部に付けた風を取り込み圧縮して吐き出す魔道具で得ている。
大した推力は得られていないけど、これで時速50ワーク(75㎞/h)は出せると思う。
これで超軽量型旋風式飛行機と成る、燃料は魔石かラーファの魔力に成る。
胴体はラーファが座る椅子の部分も含めて合金の管で組み立てている。
ラーファも椅子も魔道具も吹き曝しの状態なのでとても軽い、そして恐らく風が強く当たるだろう。
飛行帽と航空眼鏡が必須なので、新たに牛革と蛇紋岩から取り出したケイ素と軽銀から作って見た。
ガラス部分は二重にしてガラスを張り合わせている、張り合わせに魔糸を樹脂状にした物を接着剤として使っている。
ガラスの曇り防止の為に両眼用に2つ在るガラスを取り付ける枠の軽銀の合金部分に調整弁を設け曇らない様に換気している。
航空眼鏡を目を覆う位置にしっかりと動かない様にするために後頭部までの伸縮する魔糸製のバンドで止めている。
飛行帽と航空眼鏡共に外側を牛革で作り、内側の圧の掛かる部分は魔糸布に魔糸製のクッションを入れて作っている。
飛行服も新たに作った、飛行靴は簡単に脱げない様に膝近くまでの長靴にしている。
魔糸樹脂製の硬さや柔らかさなどの性能が違う物を複数張り合わせ、靴底部分を作り他は丈夫さと柔らかさを兼ね備えた、牛革を使って作っている。
服は同じ牛革でズボンとシャツを作っている。
頭から足先まで牛革制だがラーファに革の縫い合わせは経験が無いので型紙から切り取った後は錬金で接着した。
胴体の下にはフロートを兼ねた船型の橇に車輪を付けた物を付けている、フロートはもしもの為の保険として川などに降りれるように浮力を付けているが果たして離水できるかは分からない。
懸念されたポーションの飛行中の取り出しは、手首にポーション収納ケース付きのリストバンドを作った。
ポーション収納ケースの飛び出ている口金を銜えて押せば口の中に一粒ポーションが出て来るようにした。
左と右にリストバンドを付ければ、飛行中でも2種類のポーションを飲み込めるようになる。
これで飛竜と空中戦に成っても魔力切れで滑空しかできないような事態は起こらないだろう。
それに火球に頼らなくても飛竜よりも早く飛行すれば闘いその物を避ける事が出来ると考えている。
飛行服一式に身を固めたラーファは神域から超軽量型旋風式飛行機を草原へと滑走させながら出してきた。
最初は点検から始める、次に操縦桿の動きを確認して、旋風の魔道具の起動テストをする。
草原で、超軽量型旋風式飛行機のテストをしていると、マーヤが念話して来た。
『お兄ちゃんが来たよ』
退屈していた訳では無く必要な事を二人はシテイタ。
神域の改造は出来心ではなくマーヤの先を見据えた考えがあると思いたい。
ハンググライダーを超軽量飛行機にする理由は飛竜対策らしい。
飛空服一式は着てみたい服の一つです、特に航空眼鏡は旧日本軍パイロットがしていたのを参考にしています。




