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第23話 少年(1)

大公の宮殿に居たビェストロ少年が登場です。

 川を向いていたラーファが後ろへ振り向くと、そこに居たのは10代半ばに見えるの男の子だった。

 彼は草原へと下りて来る坂道の途中に立っていた。


 「私はイスラーファと言う、貴方はだれ?」


 ラーファの問いかけに男の子は短く名前だけを答えた。


 「ビェストロ。」


 ビェストロと名乗った少年は一人の様だ。

 結構山の中へ入り込んだと思っていたが人家が近くに在るのだろう。


 『あの子以外に人は居る?』

 マーヤに空間把握で探ってもらう。


 『見つからない、でもあの坂の向こうは道が続いているから追手が来るかもしれない』

 とりあえず彼以外には人は居ないようだ。


 そうだ、これだけは確認しないと。

 「ここに居ると、ここを使っている人か誰かに怒られたりする?」


 「いや、ここら一帯は大公様の土地だけど、他の人が使っても怒られたりしないと思うよ。」

 ラーファの周りを見ながら追加で言ってくる。


 「まぁ、そのまま散らかしたままだと村の人に怒られるかも。」

 そうかもしれない、早めに片付ける事にしよう。


 「ありがとう、直ぐに片付けるよ」

 彼の言葉を聞いてラーファの周りを見る。

 ハンググライダーの成れの果てと言うか、残骸が散らばっている。


 着陸に失敗してハンググライダーは壊れてしまったが、此の侭では彼の言う様に不味いだろう。

 使われている軽銀や魔糸の布などは大陸でも知られている素材だが、作る事が出来るのはダキエの樹人だけだと思う。

 素材として欲しがる人が居るかもしれないが、其れより見られると不味いのはそれらを組み合わせて空を飛んだ機体の方だ。

 急いで片付けてしまおう。


 『ラーファ、彼から見えない影の中に神域を出すからハンググライダーを落とし込んで』


 ハンググライダーのぐちゃぐちゃに為った機体を錬金を使いながら、長い棒状に素早く纏めた。

 ビェストロ少年が草原の山側に在る坂道を下りて来るのを見ると、もう直ぐ草原にまで降りて来そうだ。


 『マーヤ、神域を開けていいよ』


 地面に暗い穴が開いた、ハンググライダーの残骸を纏めて長い棒状にした物をその穴に落とし込んだ。


 「すごい、其れってインベントリのカバンなの?」


 ビェストロ少年は影に入った残骸を見てインベントリのカバンへ入れたように見えた様だ。


 「インベントリのカバンでは無いが、同じ様な事が出来る物だ」


 神域はインベントリの大きな物と言えるぐらいは似ているかもしれない。


 「え、インベントリのスキルなの?」


 神域はスキルだろうか?


 「ラーファにはスキルかどうかは分からない」


 ラーファには神域への出入は彼の方より貰った能力だ、スキルとして発現した訳では無いと思う。

 ビェストロ少年は違う考えのようだ。


 「魔道具で無ければスキルだと思うよ。」


 「そうかもしれない」


 確かに魔道具を使わないならスキルと言って良いかもしれない、盲点だった。


 「スキルか如何かラーファは分からなかった、ビェストロ殿は凄い、ラーファには思いつかない考え方が出来る」


 少年の頭の良さを褒めたが、少年は誉め言葉を無視して言ってくる。

 「ビェスで良いよ。」


 「それより、のんびりスキルについて話している場合じゃ無いと思うよ。」


 何だろう?ビェストロ少年が何だか怒っている?


 「もう直ぐここへ親衛隊の人達と傭兵も来るよ、お姉さん逃げているんでしょ。」


 ホントにスキル談義をしている場合では無かった、急いで逃げなければ。

 周を見回してみた。


 『その人の言って通りだよ、追手が2ワーク(3㎞)先にやって来たよ』


 「その人達は直ぐに来るの?」


 「うん、1コル(15分)ぐらいで上に着くと思うよ。」


 ビェストロ少年は先ほど下りて来た道の上の方を指さす。


 「そうだ、お姉さん僕が見つけた穴が在るけどそこに隠れる?」


 今見つかると逃げられないのは回りを見れば分かってしまった。

 川も草原も岩がその先にゴロゴロしていて、ゴーレムでは移動できそうに無い。

 走って逃げても彼らが追いかければ1コル(15分)もしないで捕まるだろう。

 ビェストロ少年が居るので、神域へと逃げ込む事も出来ない。


 此処はビェストロ少年が言う穴へ行って隠れるのが良さそうだ、いざと成れば穴の中で神域へ行けばよい。

 それに少年を信じられそうな気がしているから。


 「お願いビェス、その穴に匿ってほしい」


 ちゃっかり彼が許した呼び方で名前を呼びながら、胸に手を当て礼で以って頼み込んだ。

 「それにラーファの事はラーファと呼んでほしい」


 「いいよ、ラーファこっちだよ。」


 ビェスは気軽に言うと、ラーファの手を引っ張って、少し下へ走って連れて行った。

 急に引っ張られ、足がもつれそうになりながらも何とかビェストロ少年に付いて行った。

 ラーファは少年の手の温もりが何故か安心を与えてくれる気がした。


 「この穴だよ、狸か狐の巣穴だと思うけど、今は何も住んで居ないよ。」


 ラーファなら中へ余裕で入って行けるぐらいの穴が山側の斜面にくさむらに隠れる様にして在った。

 急いで入ると、奥まで進み、一番奥で入り口の方を向きながら蹲った。

 ビェスは穴の中へは入らないようだ。


 「あの人達が来たら、誤魔化すから心配しないで、うまく行けば後で様子見に来るから。」

 「あ、そうだ別に僕を待たなくてもいいからね、ラーファも逃げられそうなら逃げてね。」


 ビェスが来た道を逆に走って行ってしまった。


 『此の穴に匿ってくれたけど、信用できると思う?』

 マーヤがビェスの事を聞いてきます。


 『あのままだと追手が来れば神域以外の逃げ場所が無さそうだし、何となく信頼がおけると思ったんだ』

 手を引かれて走った時の事を思い出しながらラーファの気持ちを振り返る。


 『ラーファはあのビェストロ少年が信頼できると何故思ったの?』

 マーヤは不思議そうに聞いてきます。


 『何となく嘘は言って無いと感じたんだ』


 『彼の目が届かない所まで行って神域に逃げ込めばビェストロ少年を撒けたよ』


 この穴に逃げ込む必要は無かったのにとマーヤが言って来るけどビェスの信頼に応えたかったのも事実だ。

 『万が一にも神域を見られたくないし、穴まで案内してもらうだけなら何時でも逃げられるから』


 言い訳みたいだけど、ビェスの目の前で神域へ入る訳には往かなかった。

 神域へハンググライダーの残骸を入れたのをスキルでしまい込んだと思ってくれたのはありがたかったが、出来れば見られたくなかった。

 ラーファに取ってマーヤが一番なのだ。


 『今の内に神域へ行くね』


 ビェスの目が無い今なら神域へ入っても構わない。

 狐か狸の巣穴の奥は少し広さがある、此処なら入り口から見えないと思うので神域へと入った。


 玄関の間には放り込んだハンググライダーの残骸が放り込んだまま横たわっている。

 先ずはこの残骸を片付ける事にした。

 倉庫へと残骸を片付け終わった頃マーヤから追手が草原までやって来た事を知らせて来た。


 『ラーファ、追手が着いたよ、騎馬が2騎に武装した人が5人でまだ後から大勢の人がやって来ている』


 果たしてビェスは信頼できるのだろうか、ラーファは不安だった。


ビェストロ少年の行動は父親を裏切っているようですが、ラーファの味方なのでしょうか?

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