第22話・1 こんなはずじゃ無かった(3)
ワイバーンを退けてもラーファの危機は続きます。
『やったわラーファ、ワイバーンをやっつけたよ!』
マーヤの喜びの声が念話で伝わってきます。
『ふー、怖かった、でもやっと終わった』
マーヤに念話しながら先ほどの恐怖から解放されてほっとした。
『でもワイバーンなんてどこから現れたんだろうね』
飛んだ邪魔者が現れた物だ。
おかげで下で待ち構えているベロシニア子爵達の元へ舞い戻る事に成りそうだ。
ラーファはワイバーンの落下先を確認する事無く、ハンググライダーの向きを変えて山頂から南へとなるべく遠くまで飛行出来る様に必死になって居た。
火球の魔術行使でラーファは魔力が枯渇してしまった。
つまりハンググライダーに風魔術を行使出来無くなった為、上昇出来なくなった。
飛空の魔術も切れてしまい、姿勢制御が簡単に出来なくなり、今は滑空するだけに成っている。
『上昇気流を見つけるのよ!』
マーヤが彼の方の知識からアドバイスしてくれる。
『マーヤ、ラーファに風を読んで飛行する技術は無いわ、そのような技術が在るのかも知らないのよ』
そう、在ったとしても今それを使えなければ上昇気流が無いのと同じだよ。
ひたすら長く飛んでいられるように、谷間へと降りて行くしか無かった。
それでもワイバーンに対応する為に高度を上げていたおかげで、滑空するだけのハンググライダーだけど追手から遠くへと飛んで行く事は出来そうだ。
『魔力回復ポーションを持ってたよね』
マーヤがポーションを作った事を思い出したのか聞いてくる。
『そうなんだよマーヤ、持っているんだけどね』
ホントに残念だよ。
『ハーネスと体を支える布が邪魔してサイドポケットに手が届かないのだ』
こんなことも在ろうかと、言えたらどんなに良いか。
滑空しながらポケットに入れて在る魔力回復ポーションを飲む事が出来無いか考えていた。
今の様な非常事態に備えて作ったのに、いざ使う場面でポケットから取り出せない。
最初の南へと飛行する計画が今は南西へと滑空している、南側には越えられそうに無い尾根が遮っている。
もう数ヒロ(数m)高さが在れば越えられそうなのだが。
その尾根は険しく、こちらに見えている側は岩壁と成って居て鋭く切り立っている。
越えようとして、崖にぶつかればそのまま数十ヒロ(数十m)落ちてしまいそうだ。
『そうだ、此の侭神域にハンググライダー毎、飛び込めばいいのよ』
マーヤの言う事は分かるけど、実行するのはどうだろうか?
飛空が使えて居れば、相対的に神域の入り口をハンググライダーの速度に同調させて飛び込む事も出来ただろうけど、飛空も使えなくなっている現状では落下しそうだ。
ラーファの飛空では空は飛べないけど、空中での動きぐらいはサポート出来るから。
『無理だと思う、飛空が使えない今は神域の入り口を大きくしても速度は変えられないし、空中で止まることも出来そうに無いわ』
『そうなんだ残念、出来るだけ遠くへ飛ぶしか無いのね』
ラーファも残念だよ。
『東へはキラ・ベラ市に近づくから西へ飛ぶ方が良いと思うわ』
マーヤがラーファに少しでも遠くへ飛んで行こうと励ましてくれる。
マーヤが一生懸命にラーファを助けようと考えてくれているのが嬉しい。
「はぁー、ラーファってバカだよね」
今更もっと練習して置けば良かったと何度目かの後悔をしてため息が出た。
北東から南西へと続く谷間はやがて西へと方向を変え、尾根は更に高く成って行った。
ラーファは飛び続ける事を断念して、ハンググライダーを安全に着地できそうな、平らで走りながら速度を落とせそうな、程良い長さの在る草原を探した。
谷川が流れる河原の東側に登り斜面だが短い草原が在った。
そこしか降りれる場所は見つけられなかったので、ゆっくりとその草原へと向かった。
後から思った事は、もっと思い切って体重を後ろへ下げて機首上げをすれば良かったのにと言う事だ。
そうすれば勢いを殺せて安全に着地出来ただろう、うまく行けばだが。
上向きの坂に着陸する為に少しづつ機首を上げ、草原に足が着くと走り出した、しかし速度が速すぎて足でブレーキを掛けることなどできなかった。
当然足は縺れ体は転び、体重を前に掛ける事に成った、ハンググライダーは機首を下げ草原に突き刺さるように先端を地面に激しく衝突した。
体はそのまま慣性に従って一回転し、体もハンググライダーも草原に仰向けになり更に勢いに引きずられて前方へと進んだ。
『大丈夫、怪我は無い?』
『ああ、何とか無事だよマーヤ』
ぐちゃぐちゃになったハンググライダーからハーネスや体を支えていた布を外して抜け出す。
ハンググライダーの残骸の側に座り込んでしまった、歩けそうに無い。
体中が痛い、切り傷、打ち身、骨折も在るかもしれない、首の骨を折らなかったのが幸いだ。
用意していたサイドポケットの中に入れて有った回復ポーションと魔力回復ポーションを噛み下す。
瞬時に回復した怪我や痛み、それに魔力を感じながら飛行中の薬をどうやって取り出して飲むか考えていた。
飛行中に飲めるように入れる場所かポケットを変えないと今回の様な時に使えない。
『ラーファ、人が居たよ!』
マーヤの警告の念話が頭に響く。
え、危機察知には反応が無かった。
「ねぇお姉さん、其の魔道具で空を飛んでいたの?」
草原へと降りて来る山側の斜面から弾んだ声で男が呼びかけて来た。
少年はその日天から優雅に舞い降りた天女に会った?
優雅処か墜落して滅茶苦茶になった魔道具?の側でへたり込むラーファを見つけた訳です。
歴史に刻まれない出会いの瞬間です。