第22話 こんなはずじゃ無かった(2)
ワイバーン?の襲撃です。
ラーファは鳴き声が聞こえた方を見たが翼が邪魔をして見えない。
『マーヤ、何が近寄って来るのか分かる?』
『大きな翼を持った鳥? ハンググライダーよりずっと大きいよ』
大きな鳥?マーヤの慌て具合から危険が迫って居ると分かる。
『ラーファの右手上側から近寄って来てる』
ラーファは山頂からハンググライダーを飛び上がらせた時、南西に向いていた。
今もほぼ同じ方向を向いている、右へ向く為には体重を右へ寄せてハンググライダーを右へ傾ければ行けるはず。
マーヤの知らせで、大型の鳥に対処する為に右に体重をかけて右へと旋回する。
右へ体重を掛けたままにしたら、右へ旋回したけど傾き過ぎて地上へと急降下し始めた。
慌てて、体重を左へと移動させると同時に上昇気流に成るように下からの風魔術の行使で強めの風を翼に当てた。
今度は左へと旋回し始めて、あわてて重心を中央へ戻す。
下からの風にあおられて機首が上がり過ぎて来たので、重心を前へと乗り出す様にしながら機首が上がり過ぎない様にコントロールする。
もう今のラーファはどちらの方を向いているのか分からなくなってきた。
『マーヤ、鳥はどっち?』
『ラーファ、慌てないで、ちゃんと鳥の方へ向いているよ、でももっと上に居るよ』
正面に成ったが、上側に居るので風魔術を強く行使して前方下側からの風が常に吹いてくるようにする。
やっと魔術の加減が分かって来た、連続的に魔術を行使しながらハンググライダーを更に上昇させる。
『見えた! あれはワイバーン?』
ワイバーンなら、此処は闇の森ダンジョンの側なのだろうか?
いいえ、闇の森ダンジョンからは百ワーク(150㎞)以上は離れている、ならばあれは飛竜かもしれない。
でも飛竜の生息地は最っと西でロマナム国との境の山々に生息地が在ると魔物学の本には載って居た。
今はどちらの生き物か判別は付かないが、厄介な方はワイバーンだ。
『ワイバーン?あれがそうなの?』
『飛竜かもしれない、どちらでも厄介な魔物に違いないよ』
ただし、ワイバーンより飛竜の方が小型で対処しやすいはず。
もしワイバーンなら急いで対応しないと、300ヒロ(450m)の距離からブレスを吐いて来る。
『マーヤ、あれを取り敢えずワイバーンって呼ぶけど、どのくらい離れているの?』
『今だと1ワーク(1.5㎞)ぐらいだよ、見つけてから1コルの1/10(90秒)で1ワークも進んできたよ』
早いな、ラーファがもたもたしている間に1ワークも進んだのか。
ワイバーンはラーファに目標を定めている様だ、一直線に近づいて来る。
ワイバーンとの位置関係は既にラーファの方が上方に成っている。
ワイバーンは羽ばたきを交えながら正面から近づいて来る。
ラーファも迎え撃つ形になり、風の魔術行使を止めた。
『マーヤ距離が500ヒロ(750m)まで近づいたら教えて』
『分かった、もうすぐだよ』
一瞬の間の後に念話が来た。
『今だよ!』
連発出来る土槍を3本纏めて撃つ、次に打てるようになると続けて土槍を3本づつ撃って行く。
2回目か3回目に撃った土槍がワイバーンの頭や翼に当たったようだ、ワイバーンの体から弾ける様に何かが飛び散った。
「ギョギャーッ」
痛みを感じたのかワイバーンの体が下方へと下がりラーファが撃った土槍の射線から逃げ出した。
体を捻り白い腹を見せながら回避行動を取るワイバーン。
その動きに付いて行くように左へと素早く体重を移動し左旋回をするが、ワイバーンの動きの方が素早い。
ラーファから遠くへと離れた場所まで移動すると、ワイバーンは急降下した勢いで上昇して来る。
ラーファも負けじと風魔術で上昇する。
常に上を取らないと死ぬ、素早い敵に上を取られると逃げられない。
ワイバーンの素早い動きを見ながらラーファは一瞬で理解した。
先ほどと同じようにラーファが上からワイバーンが下から接近する。
しかし、ワイバーンは先ほどとは違って少しづつラーファから見て右へと捻りを加え、射線を避けながら上昇して来る。
ラーファも素早い体重移動を繰り返し、負けじと右へ旋回して常に正面にワイバーンと対峙する。
『ラーファ!500ヒロ(750m)だよ!』
マーヤの念話が叫ぶ!
まだ撃てない、ワイバーンは羽ばたいて上昇し捩じりを入れて左旋回する。
ラーファは右へと移動して行くワイバーンへと右旋回を入れながら下降して行く。
射線が逸れてしまい当たらない。
この様なお互いに移動しながらの相手に魔力を繋げた誘導弾を打っても当たる気がしない。
火球なら近づいた時に爆発させれば行けるかもしれないが、その時は魔力を全て失い、回復するまで全ての魔術行使が出来なくなってしまう。
魔力回復ポーションを飲めば魔力は回復出来るけど、飛行中に取り出せない。
体を保持するハーネスに繋がった幅広の帯がポーションを入れたポケットを押さえている。
迷う内にワイバーンが100ヒロ(150m)ぐらいまで近寄って来た。
大きい、目の前一杯にワイバーンが翼を広げて、口を開けブレスを吹こうと真っ直ぐに近寄って来る。
もう捻る事無く真っ直ぐに羽ばたいて上昇して来る。
ラーファは土槍も氷槍もワイバーンを止める事は出来ないと思った、火球で吹き飛ばそう。
後先考えずに火球の魔術を行使した。
火球はラーファの切り札だけど、一度打つとしばらくは全ての魔術行使が出来なくなる。
頭では分かっていたけど、ワイバーンの大きさが火球でないと勝てないと理解したのだ。
ワイバーンがラーファへ向けてブレスしようと開けている口の、その中へ火球が撃ち込まれた。
火球の爆発はワイバーンの頭部を吹き飛ばした。
「ドーン」と言う火球の破裂音はしたけど、ワイバーンは声を出す事無く羽ばたきを止めた。
錐揉みしながら頭を失ったワイバーンは地上へと落ちて行った。
ラーファの切り札火球を撃ってしまったラーファは空中で上昇する為の魔力を失ってしまいました。
こんなはずじゃ無かったと思っているでしょうね。