第21話 こんなはずじゃ無かった(1)
ラーファ達とベロシニア子爵達との攻防戦です。
『おはよう、起きてラーファ、お腹空いたよ』
夜12時(午前5時)に起された。
『おはよう、起きたわ、待っててね、直ぐ用意するから』
急いで顔を洗いトイレで用を足す。
マーヤのお世話をしているとマーヤから念話が来た。
『下の人達が動き出したわ』
四方を囲んでいる追手が起きて動き出したようだ。
マーヤの授乳を終わらせて、朝食を食べている頃、空間把握で見張って居たマーヤから念話が来る。
『山へ登り出したわ』
いよいよ始まったのね、じわじわと追いつめて来る、日が昇る前に動き出したのは逃がさない為だろうか。
『分かったわ、いよいよね』
ほのかに甘いパンとチーズとハムに麦茶、此の所毎回お世話に成っている食事の内容だ。
急いで食事を終わらせると、玄関の間へと移動する。
『気を付けてね、マーヤ』
『ありがとう、うまくやるよ』
マーヤの声に励まされて、神域の外へと出る。
空は夜だが、東の空に朝焼けの赤い雲が広がり、夜明けが直ぐ其処だと告げている。
石壁の隙間から見える裾野は松明を掲げた人々の姿が垣間見える。
『人が沢山居て、登って来てる』
マーヤに見たままを伝える。
様子見を終えると、玄関の間からハンググライダーを神域の外へと出す。
何時でもハンググライダーで飛べるように、組み立てる為だ。
石壁で囲った中にハンググライダーを広げ組み立てる。
後は機体とラーファをハーネスで繋げるだけにする。
外の様子を確認する為に石壁の外へと出る。
「ピーッ」
東南の尾根伝いに近寄って来る一団の中から甲高い笛の音がした。
ラーファを見つけたので合図に笛を吹いたのだろう、鷹の目スキルの持ち主だろうか?
『見つけたよ、今笛を吹いたの鷹の目の持ち主かなぁ』
マーヤも同じことを考えた様で、笛を吹いた人を空間把握で捕らえた事を知らせて来る。
『ベロシニア子爵も居るよ』
次いでに嫌な奴も見つけた様だ。
やっぱり彼が追って来た親玉なんだね、馬車の中の出来事は未だに怒りが湧いてくる。
ラーファの胸を小さいと言った奴は絶対許さない。
四方から山頂へと登って来る追手達は自然と包囲の輪を縮めて行く事に成る。
まだ個々の人影は見えないが、松明を掲げ登る速さを合わせて登って来る。
空が明るくなってきた、東の空に一際まぶしく太陽が顔を出した、夜明けだ。
朝の光は、山頂を照らし出す。
今日は雨も降りそうにない、青空の多い天気だ。
追手の持っていた松明が消されて行く、太陽の光が広がり山頂目掛けて登る人達を照らして行く。
段々と人の姿が良く見える様に成って来た。
両側の裾野を登るのは徴集された村人達だ、背や手に大小の長さの棒を束にして担いでいる。
村人の後ろには武装した人達が見える。
尾根伝いに来る両方の一団は武装している、彼らの後ろから荷物を持った長い人の列が登って来る。
『後4コル(1時間)もすれば山頂へとたどり着きそうだ』
彼らの着実な動きを見ながらマーヤへ念話する。
追手がどんな手段をもってラーファを捕まえるのか知らないが、数の多さだけでも厄介だ。
『地面を逃げるのは無理だね』
漠然と彼らが近寄って来るのを見ていると。
マーヤが揶揄するように念話して来る。
『あはは、そうだね、地面だけならね』
敢えてこのような場面に成るように、堂々と顔を見せて行動したのだから。
だけど、ハンググライダーの練習が半日ぐらいしかしてない事が不安を募らせる。
後は空へと逃げるだけ、もう心配してもどうしようもない。
『弓を持った人が沢山居るよ』
暫くしてマーヤが念話して来る。
マーヤが武装した集団に弓持ちが居る事を空間把握で知ったのか心配そうに念話して来た。
尾根を辿って来る集団に弓を持つ者が複数いる様だ、矢に何か仕掛けをして撃って来るのだろう。
『近寄ってきたら矢除けの結界を張って矢を避けるから大丈夫だよ』
『うん』
何の仕掛けか分からないが、それで対処できるだろう。
しばらくして、近寄って来た追手の中から魔道具特有の響く音で声が届いた。
「イスラーファ、見るが良い!、お前は包囲された!、もう逃げられない!。」
「貴族への暴行は大罪だ!だが、大公様は慈悲の心で!、許しても良い!、と言われている。」
「観念して、大人しく捕まれ!」
此の声はベロシニア子爵だろう、命令に慣れた物言いが貴族らしい。
声が聞こえる距離まで来ていたのなら、矢も届きそうだ、急いで矢除けの結界を張る。
無詠唱で風の魔術を行使する。
山頂の岩場の周りに風で出来た気体の流れが渦を巻いて流れ出した。
再度ベロシニア子爵の声が拡声の魔道具を通して流れて来た。
「抵抗する気だな!者ども捕まえろ!」
「ワーッ」と言う集団の叫び声が響き渡った。
両側の尾根から矢が幾つか飛んできたが、矢除けの結界が全て弾き飛ばした。
矢の先端に括りつけていた袋から粉が舞い散った。
しかし結界の中まで入る事は無く何の粉か分からないまま、効果も無かった。
またもやベロシニア子爵の声が響いた。
「イスラーファ、魔術に対抗する手段も用意した、如何あがいても時間の無駄だ、観念して出てこい!」
簡易砦の周りを何重にも包囲した村人や武装した者達が待機している。
尋問中や馬車の中で何度も聞いた相手を冷笑するような声が、今は少し焦っている様だ。
一方的に悪者にされるのは嫌なので、反撃する事にした。
「聞きなさい、オウミの国の民よ!」
「キラ・ベラ市に立ち寄っただけで、罪を着せ持ち物を奪おうとした! 卑怯者は誰だ!」
「女ひとりと侮り、兵士は遊びで女を侮辱する、賊の集まりか!」
「とりわけ貴族は権威をひけらかし、言葉巧みに追い詰める、口先ばかりの詐欺師だ!」
「国を治める者達がそのような輩で満ちている、法を都合の良い弱者を虐げる道具として使うのは誰だ!」
「聞きなさい、オウミの国の民よ! 貴方達の国は罪も無い者に罪を着せ、追手を出して無理矢理捕まえようとする、私はオウミの国のその様な者達を軽薄する!」
『ベロシニアの奴がラーファの胸の大きさをバカにした事も追求したかったけど、言えばラーファへ跳ね返ってくるのが分かってるから言えないしね、ベロシニアの奴をもっと罵ってやりたかった』
『ラーファの胸はマーヤは大好きだよ』
マーヤにはこの悩みは早いかな。
拡声の魔術行使を行い、ラーファの声を追手にはっきり聞こえる様に四方へと伝える。
ベロシニア子爵が何か言っているが、ラーファの拡声魔術の威力が大きくて他の声をかき消してしまう。
「ピーッ」「ピーッ」「ピーッ」。
甲高い笛の音が3度響き渡った。
それを合図に武装した者達が動き、周囲の追手が山頂の砦へ全員で襲い掛かって来た。
総攻撃の合図だったのだろう。
小石を積んだ山が崩れる音がする、そして巻き込まれた人達の悲鳴も聞こえて来た。
ハンググライダーで山頂から飛び立つタイミングだ。
ハーネスをハンググライダーにしっかりと二重に取り付ける。
風の魔術を行使して前方下から風をハンググライダーに充てる。
ハンググライダーが風に乗って上昇していく、既に石壁を越えて山頂の上空へと舞い上がっている。
山頂を取り巻く追手からどよめきが上がる。
空を飛ぶラーファを見て驚いているのだろう、ベロシニア子爵も見ているかな?
『ラーファ、大型の飛行する何かが近寄って来る!』
マーヤが念話で叫んだ!
「キェーッ」甲高い鳴き声が聞こえた。
ハンググライダーの練習を十分出来ないまま飛び立つことに成ったラーファ。
地上からだけでなく、空からも襲い掛かる敵が出てきました。




