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第19話 四面楚歌(8)

いよいよハンググライダーで追手の目の前からの逃亡へ向けて役者がそろってきました。

 『見つかった?』

 ラーファがマーヤに聞く。


 『空間把握できる範囲より遠くで鳴ったよ、2ワーク(3㎞)より遠くだよ』

 マーヤの空間把握より遠くからラーファを見つけたのかな?


 『鳥の声だと思う?』見つかったのだろうか?


 『鳴き声が聞こえる程近くに鷹の様な鳥は飛んで無いよ』

 やはり、鷹の目スキル持ちに見られたか。


 『こうなったら、山頂で籠城してやる、明日の朝までだけどね』

 魔術師は攻めるより守る方がやり易いんだからね。


 日のある内に谷川を渡るべく急いで下へと降りる。

 幸い川は岩がゴロゴロ在るような険しい川ではなく、岩は在るけど歩いて渡れる小川だった。


 ラーファは日が沈み暗くなって行く中、目的の山まで続く尾根まで登り着いた、後3ワーク(4.5㎞)だ。

 尾根を登り始めて直ぐに息が切れた、魔術師に山を登って攻める様な体力は無い。

 ヒーハー言いながら山を休み休み登って行く、星明りの中で足元以外は回りが薄暗くても輪郭が分かるぐらいは見えている。


 何度も休みを入れながら中腹まで登ってきた頃、最初に居た東側の山に松明と思える明かりが何個も現れた。

 まだ松明までの距離は直線距離でも2ワーク(3㎞)以上は離れているだろう。

 しかし、それは追手が迫ってきている事の明らかな事実以外の何物でも無い。


 目に見える所へ追手が現れ、焦る気持ちも在るが、それ以上に気がかりなのがマーヤへの授乳で神域へ入るところを見られ無いか心配している。

 これまでに1度、鷹の目を警戒して岩陰を利用して神域へ入り授乳している。

 その時に食事や少しの休憩を取れたので助かった。


 しかし、其れから2刻(4時間)近くが過ぎている、そろそろマーヤへ授乳する時間だ。

 鷹の目スキルの持ち主が何処から見ているのか分からないので、四方を遮るくさむらを探す。

 アサに似た背の高い草の叢が在ったので、ゴソゴソと四つん這いに成って入り込み、神域へと入る。


 マーヤに授乳しながら、マーヤと念話で話し合う。

 『マーヤ、空間把握で誰か近寄って来てる人が居るか分かる?』


 『2ワーク(3㎞)以内には誰も居ないよ』

 まだ追いつかれては居ないようなので、少しは休んでから出よう。

 授乳の後、食事と休憩する為に、食堂へと移動する。


 前日焼いていたほのかに甘いパン焼きを麦茶と一緒に食べながら、見えない敵に溜め息をつく。

 真に、鷹の目は厄介だ、何処から見ているのかが分かれば視線を掻い潜る事も出来るだろうに。


 神域へ入って2コル(30分)は休めた、再び山頂目指して登山だ。

 『じゃあ行ってくるよマーヤ』


 『行ってらっしゃいラーファ』

 神域を魔力を消費して入った場所から少し移動させる、近くの岩陰が良いだろう。


 山頂へと再び登り出す、途端に「ピーッ」と笛の音がした。

 後ろから聞こえて来た様に思えたが、恐らく後ろの山に跳ね返って聞こえた音だと思う。

 山頂までは距離にして後2ワーク(3㎞)、上るしか無い。 


 それから更に2刻(4時間)、山頂に着いた時は足はガクガク、膝は笑い、四つん這いに成って何とかたどり着いた。

 夜の登山は肉体的にも精神的にも昼に比べ数倍疲れる物だった、途中何度もつまずきながら手探りで登って来た。


 山頂の岩場でそのままうつ伏せに倒れ込んで、動けずに居た。

 うつ伏せから、ゴロンと仰向けに転がり、しばらく息を整えるとマーヤに念話する。

 『マーヤ少し待っててね、この岩場の周りを簡易砦にするから』


 さて、魔術師の魔術師たるその力を見せつけてやる。


 この周りの山より少し高い山は、北西から南東へと連なる尾根の中ほどに在って両側を緩い傾斜の灌木や草藪が覆っている。

 山頂部には大きな岩が風雨に削られながらも残っている。

 簡単に四方八方から人が登って来る事が出来る、山だが丘の高いのと言って良い。


 岩の上に立って四方を見れば焚火や松明などが点々を周りを囲んでいる事が丸見えだ。

 夜だから捕まえに来ないのだろう、闇に紛れて逃がす事を警戒している様だ。

 明日の太陽が昇れば包囲を狭めて登って来るだろう。


 岩の周りに作る砦だが、堀や石壁などを作る時間は無い、そこで岩場の周りの土を土魔術で固めて小石を大量に作って行く。

 この小石を岩場の周りに積み上げるのだ。


 溝を掘る土魔術で山頂の周りの土を中央へと寄せて行く。

 山頂の岩場の下まで土で覆ったら、此の土を錬金で固める。

 岩場の下まで固めたら、山頂へと移動し、山頂をゆっくりと一周回りながら、下から固めた土を小さい丸い石へと錬金していく。

 山頂を囲む固めた土を全て小石に変えて何層もの小石で出来たピラミッドを直角の半分の角度で積み上げた。


 登ろうとすれば、小石が雪崩を打って落ちて来るだろう、こうすればハンググライダーで飛び立つ時間は十分取れる。


 山頂に石壁を四方に作り、鷹の目からの監視を遮るようにする。

 石壁の中へ入ると、やっと準備が終わった事で緊張から解放された。

 神域へと入った、お待たせマーヤ、お乳の時間ですよ。


 マーヤはお腹が空いたのだろう、涙目で待っていた。

 ラーファが砦を作り終わるまで泣くのを我慢して待っててくれたようだ。

 乳房にしがみついて「ゴキュ、ゴキュ」と喉を通る音をさせて一心不乱に飲んでいる。


 『ごめんね、マーヤ我慢させたわね』

 そうーと、お乳を飲んでいるマーヤの柔らかい髪の毛を指先でく。


 『この位我慢できるよ』

 健気なマーヤが言い張ります。

 生後1月の赤子に我慢は良くないでしょう、ラーファが気を付けなければ、又我慢させてしまいそうです。


 授乳させ、ゲップをさせた後、お風呂に入れた。

 マーヤは満足そうに寝てしまった。

 ラーファもお風呂に入って、朝まで寝る事にした。


 朝日と共に逃亡者としての大脱走の始まりよ、ベロシニア子爵が居るのかは分からないけど、ラーファの逃げっぷりをとくと見てなさい。


半分自暴自棄になっていそうなラーファですが、山頂に作った砦は時間稼ぎにはなるでしょうが追手を止める事は出来ません。予定ではハンググライダーで大空へと飛んで行けば良いのですが、練習したのはラニ川を渡った1回しかありません。

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