第13話 四面楚歌(2)
無事危機を脱出したラーファは追ってを撒く為に行動を開始します。
授乳を終え、ゲップをさせた。
そのまま抱っこしていると寝てしまった。
静かに起こさない様にベッドへ寝かせた。
『マーヤはいい子ね』ラーファは何度でも言いたい。
寝かせた後、神域を移動して歩道へ出るタイミングを図る為に玄関の間へ移動する。
危機察知で馬車の移動を監視する。
比較的馬車の間が広い時を狙い、神域から出ると車道から歩道へと走る。
歩道に上がるとため息が出た。
「はぁー、怖かった」馬車の間を走り抜けるのは、運動能力に劣るラーファではスリルがあり過ぎだ。
もっと歩道に近い所から出れば良かった。
「こらぁ、気をつけろ、危ないじゃ無いか」と通り過ぎる馬車の御者から怒鳴られた。
後ろの人もそう思っているようだ、顔を顰めてこちらを睨んでいる。
神域を誰も気が付かなかったし、気が付いてもマーヤが言う様に自分の常識で修正したようだ。
目にした人は、反対の歩道から女が一人車道を横切って此方の歩道へ走って来た、と思い込んでいる。
怒鳴り声を無視をして橋を渡る。
橋の終わりは砦の門に成っているが、出る方の監視は緩く何の声もかからずに出る事が出来た。
先ほど入って来た橋の前の広場を、川を遡る方向へと歩く。
逃げるにしても川下の平原地帯より、川上の山へと行く方が逃げやすいと思うだろう。
まだ昼7前(午前中)なのが信じられない。
5月も終わりごろだと雨が降りやすくなるのだろうか。
空模様が怪しくなってきた、雨が降りそうだ。
人目が無くなると、ゴーレムのビューティを起動する。
「土から生まれよ、ブラック・ビューティ、起動」魔術を行使した魔核を土の上へ放る。
魔術行使の痕跡の光が消えると、ゴーレムの核の周りの土が盛り上がる。
やがて核を中心にしてゴーレム馬のビューティが立ち上がる。
手綱を取り、鞍に跨るとトロット(速歩)で遠ざかる。
雨が降る前触れなのか遠く雷が鳴り出した。
川沿いに進む内に雨が降り出した。
激しい雷雨の中をゴーレム馬で進んだ為、全身びしょ濡れになってしまった。
雨水が下着まで濡らして気持ちが悪い、雨具は用意していないので我慢するしかない。
少しでもキラ・ベラ市から離れたかったので、ずぶ濡れに成ってもゴーレム馬を進ませた。
マーヤがお乳が欲しいと念話で知らせて来た、切羽詰まっているのか泣き声だった。
そう言えば走り出して既に2刻(4時間)が経っている。
マーヤがラーファを呼ぶのを我慢していたのだろう。
最近マーヤとラーファの間が意識的に切り離されてきたようだ。
前はお互いに考える事が何となく分ったが、最近は念話で会話する、へと変わって来た。
今もマーヤから念話が来るまでマーヤの事が分からなかった。
急いでゴーレム馬のビューティから降りて、停止させ核を拾って神域へ入る。
玄関の間からお風呂場へのドアを通り(マーヤが改装した)、着ている物を脱ごうと服と格闘する。
全身濡れネズミなので、服が肌に張り付いて脱ぐのをじゃまする。
何とか脱ぎ終わると、お風呂をカラスの行水並みの速さで体を洗ってマーヤの所へ急ぐ。
マーヤから心配そうな念話が来る。
『ラーファ雨の中を馬に乗って走るなんて無茶だよ、ラーファが心配でマーヤは怒ってるんだよ』
マーヤが念話では怒っているような事を言ってるが、泣いているマーヤはラーファを見て泣き止んだ。
タオルで全身を拭きながら、髪は別のタオルを巻き付ける。
裸のままで、マーヤをベッドから抱き上げると、お乳を飲ませる。
我慢させてしまった、マーヤが乳房に張り付いてお乳を飲んでいる、余程お腹が空いていたのだろう。
『マーヤは正直で嘘つきね』マーヤに授乳しながら、念話でマーヤを揶揄う。
マーヤが念画像で熱を出して寝ているラーファの絵を送って来る。
『怒って無いよ、心配したんだよ』
丁寧に、顔を赤く染めて熱が高い事が見るだけで分かる。
マーヤに体調不良になっても対処できることを知らせる。
『体温が下がって体調不良になった場合の対処は、魔術医として対処方法を知っているから安心して』
『マーヤが気にするのは、体調不良に成らない事だよ』
マーヤ、それが出来れば医者は要らないわ。
『今回も必要だから多少の無茶はする必要が在ったのよ』
ベロシニア子爵が気が付くか、御者が気が付くかすれば、ラーファを追いかけて来るのは間違いないけど。
少しでも遠くに行ければ、それだけ追跡は難しくなる、だから多少でも遠くへ行く必要が在った。
『そうね、目撃者が数人いると思うから、川の東に出た事は何時かは知られると思う』
マーヤの言う通りね。
『でも、目撃者まで追ってがたどり着くのは時間が掛かるはず』
希望的観測って奴かな。
『追跡のスキルって何かあるの?』
マーヤが知りたいのは、遠くから追跡できるようなスキルだと思うけど、そんな便利なスキルは知らないな。
『狩人とかならスキルが無くても、痕跡を追って来る事が出来そうだけど』
今回は考えなくて良いかな、キラ・ベラ市に狩人が居ると思えないし。
『そう言えば追跡のスキルで有名なのは、鷹の目や狙撃スキルとか魔力感知は魔術か、気配察知に空間把握とかがあった、ラーファが持ってる危機察知も追跡スキルに応用できるかな』
危機察知はせいぜい半径7ヒロ(10m)の球形内しか分からないので、追跡には無理だな。
『鷹の目と狙撃スキルは数ワーク(数㎞)先を見る事が出来るから追跡に便利なスキルだね』
その代わり、対象の位置を凡そでも知っている必要がある。
『空間把握ならマーヤ持ってるよ』マーヤが凄い事を知らせてくれます。
『いつ気が付いたの』
『生まれて直ぐ使えたよ、彼の方の端っこを捕まえたのもそれがあったから分かったの』
そうだったのね、マーヤの才能は生まれた時から凄かったのね。
『追ってに鷹の目のスキル持ちが居たら厄介だね、此方が気が付いて無いのに見張られて、何処へ逃げても追いかけて来るよ』
マーヤの言う通りだよ、前に鷹の目のスキル持ちに見張られて撃退しても撃退しても襲ってこられて捕まりそうになったのは、今でも思い出したくない。
ラーファとマーヤの間が心が定まって来た為、混在した状態から別個の心へと分離出来て来た事の結果です。
今後、マーヤ側からの記述が増えて行く事に成りますが、まだ主人公はラーファです。