第12話 四面楚歌(1)
ラーファには少しかわいそうな展開です。
ベロシニア子爵はラーファの腕と口の拘束が終わると兵隊に馬車を用意するように命じた。
これから子爵邸へ連れて行く為に馬車にラーファを乗せて帰る様だ。
兵士4人に前後を挟まれて、ベロシニア子爵を先頭にラーファは猿轡をされたまま部屋から連れ出された。
後ろ手に縛られたまま、馬車へ乗せられる様だ。
ドアの開いた馬車の中では先に乗ったベロシニア子爵が居て他に誰も乗って居ない。
兵士達はラーファを馬車へ押し込めるように腕と胸を掴み、太ももに手を掛け足を持ち上げる。
兵士の手が胸やお尻にいやらしく触って来る、ラーファは我慢が出来ず身をよじって抗がった。
兵士は薄ら笑いを浮かべながら、抗いを物ともせずベロシニア子爵の向かいの椅子へ荷物のように放り入れた。
ラーファはベロシニア子爵の向かいの椅子に寝転んだ状態で、馬車の扉が外から閉められる音を聞いた。
やがて砦を通るガタガタと揺れる石畳の音がし出す。
逃げ出すのは橋を渡り出した後だ。
きっちり先ほどの兵士と目の前のベロシニア子爵に落とし前を付けてやる。
ベロシニア子爵の方を向くと目が合った。
「イスラーファ、お前の秘密は全て吐かせてやる、その前にまだ何か隠して無いか調べるぞ」
彼がラーファの腰に手をやり何か身に着けてい無いか探し出した。
腰の周りからお尻へ、そこから太ももへ移動し、やがて股間へ手が触れて来る。
手から逃れようと身をよじるが、押さえつける様に彼の手が服の上から強引に触ってくる。
「ぐぅッ・・・くッ」触られる手の感触に声を上げたいが、猿轡に阻まれ声が出せない。
「これは何だ?」彼の手がフレアスカートのポケットに差し込まれた。
ラーファは彼に触られて身を屈めて逃げようとするが、縛られていて逃げられない。
彼がラーファのスカートのポケットから取り出したのは、ゴーレムの核だった。
彼はゴーレムの核をじっと見つめると、その大きさと中に刻んだ魔術陣から予想される物に思い当たり。
「ゴーレムか!しかもこれほどの大きさと成ると8級いや7級の魔物か、すごいぞ」
といきなりの獲物に喜色満面にラーファを見る。
やがて砦を出てガタガタからゴトゴトへと音が変わり馬車が橋を渡り始めたようだ。
外の音に気を取られ、ベロシニア子爵の行為に反応が遅れた。
ベロシニア子爵がいきなりラーファの胸に手をやり、胸を鷲掴みに掴む。
強く揉まれ痛みが走る。
「はは、樹人も女には変わり無いな、胸が小さくとも柔らかく掴むと弾力的で張り?・・・」
あまりな事にラーファが声も出せずにいると、何を思ったのか。
ベロシニア子爵がラーファの胸の中に手を入れて来た。
『マーヤのお乳に汚い手を触れないで!』
反射的に撃ち出しかけた土槍3本を寸前で何とか止めた、殺しては後が厄介だ。
漏れ出した魔力を3つの魔弾へと纏め、彼へと打ち出した。
「「「ドカカッ」」」3重音がした。
ベロシニア子爵は米神、鳩尾、股間へ魔弾を撃ち込まれ、即座に意識を刈り取られた。
そして、呻き声も出さずに馬車の床へ転がった。
ベロシニア子爵の左手から先ほどラーファから盗んだゴーレムの核が座っていた椅子へ落ちた。
猿轡と腕を縛る縄を錬金で分解すると、戒められて痺れた腕を摩りながら、御者に馬車の中の事が伝わって無いか危機察知で調べる。
様子を探る間、ベロシニア子爵の息があるか調べる、生きている様だ。
魔弾は物理的と言うより精神への攻撃に近いから怪我は無いだろう。
しばらく探って居たが、御者は何事も無いように馬車で橋を渡っている。
急いで、ゴーレムの核を手に取ると、神域へと逃げ込む。
『ラーファ、大丈夫?怪我しなかった?』マーヤが心配そうな念話を送って来た。
『心配かけたね、ラーファは怪我一つしてないよ、大丈夫だ』
マーヤに心配をかけてしまった。
『彼はラーファにひどい事をした、マーヤは許さないわ』マーヤが怒っている。
『マーヤ、彼には十分な報復はしたよ、殺すほどでもなかったしね』
ベロシニア子爵を殺さなかったのは、彼がラーファに殺意を持っていなかった事とこの国の貴族を殺してしまうと追及が激しくなると咄嗟に考えたからだ。
彼が生きているから追手は出るだろうけど、死んでいたら彼の周りが大騒ぎに成って大規模な兵士を使った追ってに成ると思う。
神域越しに危機察知で警戒する。
神域は飛び込んだ位置から移動しないで橋の上の場所に留まっている。
ベロシニア子爵の馬車は何事も無いかのように神域から遠ざかって行く。
御者は馬車の中の事は音がしても無視する様に言われているのだろう。
神域へ逃げ込んだラーファはお風呂へと入り全身を洗い、うがいをした。
着ていた服を着替えてさっぱりするとやっと汚された気分から解放された。
マーヤの寝ているベッドまで来て、マーヤの寝顔を見る事で元気を貰う。
『ラーファさっぱりした?』マーヤが心配して聞いてくる。
『マーヤの寝顔を見てるだけで癒されたわ』
ホントマーヤは可愛い。
『起きるから、お乳を頂戴』マーヤが可愛くおねだりします。
「だぁ」と目を開けてラーファを見て声を出します。
「まぁマーヤ、目が開いたのね」貴方の初めて見る顔がラーファで嬉しい。
マーヤに頬ずりしながら抱き上げ授乳させると、マーヤと念話します。
『この後どうしよう?』ラーファとしては黒の海方面へ逃げたいけどまだ川を渡れていない。
『このまま川沿いに王領を下って行けば黒の海へは出れるよ』
彼の方が残した地図を念画像で表示しながら、マーヤが川沿いに大きく東へと蛇行した道を示します。
『マーヤとしては、一度大河ラニを渡って追手に川向うに居る事を印象付けて置くと良いと思うわ』
マーヤはそう言うけど問題は大河ラニを渡る方法をどうするかだよ。
『今の内に橋を戻ってここから離れた方が良いと思う、騒ぎに成ってからだと警備が厳重になるわ』
そうねマーヤの言う通りだ、川を渡る方法はゆっくり考えてからでも遅くない。
ベロシニア子爵も気が付けば騒ぎ出すから、早めに動いた方が良い。
『神域は少しなら位置を好きに移動できるから、タイミングを見て車道から歩道へと移動して行けばいいよ』
マーヤに言われると、簡単なように思えて来る。
『たとえ見られても、多少不思議に思うかもしれないけど、自分の常識で修正すると思うから、大丈夫よきっと』
よし、授乳が終われば直ぐに、実行しよう。
マーヤはラーファを虐めたベロシニア子爵が嫌いになりました。
彼のこの時の行動は、又後で閑話として書きたいと思います。