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第11話・2 (閑話)ベロシニア子爵(2)

閑話の続きです。ベロシニア子爵の心の動きを中心にラーファが彼から如何見えているかのお話です。

 ホレツァの町の代官イブンハディからの手紙にはエルフの女の事が詳しく書いてあった。


 一つ、エルフの女の名前はイスラーファと名乗っている事。

 一つ、金髪で青い目をして、髪を腰まで伸ばしているが後ろで纏めて一つに縛っている事。

 一つ、身長5キュビテ半(165㎝)で、ほっそりした体形で見た目が20歳前後に見える事。

 一つ、手練れの魔術師である、襲撃した冒険者5名を3人殺し、2人手足に重症を負わせた事。

 一つ、宿の支払いにダキエ銅貨2枚を支払っている事。

 一つ、ホレツァの町での買い物は全てダキエ銅貨で支払いを行っている事。

 一つ、宿に襲撃された部屋の弁償金としてダキエ銀貨1枚を支払っている事。

 一つ、宿の女将にダキエ硬貨しか持っていないと言ったと証言がある事。

 一つ、上記証言を聞かれた事が襲撃に繋がった事から、世間の常識に疎いと思える事。


 注目すべきは、ダキエ銀貨と銅貨を買い物に使い、両替をして無い事だ。

 そんな常識知らずはやはりダキエ国からの逃亡者だと思わせる。


 ムディライが訪れてから2日後、毎日橋の料金所で見張ってると、一人の女が列に並ぶのが見えた。


 色は白く金髪で目は青い、すらりとした姿で歩く姿勢に張りがある。

 白い長袖の上服に青い裾がふわりとした見た事も無いスカートを履いた女だ。

 顔を見なくても美人だと分かる、顔を見てしまうと目が離せなくなってしまう。

 美人だ。


 一も二も無く分かった、エルフの女だ間違いようも無い。

 女の並んだ列の正面へと移動する。


 女が最前列までやって来た。

 棒銅を1本、背負った袋から取り出した財布から出して、手に持つと財布を袋に入れて背に担ぎなおす。

 橋の通行料として棒銅を差し出した。


 私は、前に進むと金を受け取ろうとする役人に手を出して止めさせた。

 役人が見上げて来て誰が邪魔したのか確認する、私だと分かると無言で横へと移動した。


 エルフの女はポカンとした顔をしている、邪魔された事が意外だったのだろう。

 私はそんな彼女の耳を指をさして言った。

 「お前の耳を見せて貰いたい。」


 口調は強くなったが、一応丁寧な言葉で言った。

 後ろ盾になる事に成るかもしれないのだから。


 エルフの女は髪を手でかき分け、素直に耳を見せたが手が少し震えている、不安なのだろう。

 私はその耳に違和感を覚えた、二重に見えたのだ、人の耳とエルフの尖った耳の両方が。

 私の護符は心を守る物だと聞いている、エルフが何かしたのかもしれない。


 「名前と何処へ何しに行くのか言え!」

 怒りが湧いて来て強い口調に成ってしまった。

 心を落ち着ける、まだ怒りを面に出すのは早い。


 エルフの女が緊張したそれでいて可憐な声で話した。

 「イスラーファと言います、此処からオウミの首都へ向かっています、魔術医で住む場所を探しています」


 魔術医と言った、これは後ろ盾に成る可能性が大きくなったな。

 名前は代官の手紙と同じイスラーファだ、後ろにエルルゥフとでも付いているのだろう。

 正式な名を聞いたらエルルゥフと名乗るだろうか?

 うむ、先ずは第1段階へと進む事にしよう。



 「イスラーファとやら、詳しく聞きたい事が在る、手間を取らせるが私に着いて来る様に。」

 砦の出入り口を指さして、イスラーファをそちらへと促す。


 移動しようとして、目にイスラーファが支払った棒銅が役人の前にまだあったので腰をかがめて手に取ると役人に渡す。

 立ち上がって出入口へと歩き出しながらイスラーファへと話しかけた。

 「私はベロシニア・アースラットと言う大公様に仕える子爵だ、イスラーファ、話は部屋で聞く。」


 これは私が貴族だとイスラーファに知らせる事が目的だ。

 イスラーファが樹人と言わない限り貴族と平民の話と成り、幾らでも難癖が付けられる。


 イスラーファが顔を不安そうに俯かせている、いきなり魔術を使ってこないのは良い事だ。

 「ベロシニア子爵様、何か問題でも在りましたでしょうか?」


 不安に駆られているのだろう、早く役所の尋問部屋へ連れて行かなければ。


 「少し詳しく聞きたいだけだ、疚しい事が無ければ何の問題も無い。」

 疚しさが在るのはこちらだがな。

 だが、こう言えば黙るしか無いだろう。


 益々不安になったのか、歩く姿が少しぎこちない。


 砦の小さな出入口を通りさらに奥に在る役所の建物へと歩いて行く。

 しばらく無言で歩き続けた、奥の役所まであと少しだ。


 急にイスラーファが立ち止まったので、振り返ると、うなだれたまま再び歩き出した。

 驚いた、逃げられるのかと思ったぞ。

 いや、逃げようと思ったが諦めたのかもしれない、既に砦の中だ、逃げるのは難しいだろう。


 やっと役所の建物まで来た、急いで詰所の兵士に声を掛ける。

 「おい、二人付いてこい、後の者は巡回せよ」


 これは符丁だ、エルフが来たら尋問部屋の周りを取り囲み、いつでも捕縛出来る様に縄や網や棒で武装した兵士が待機する事に成っている。

 2人の兵士が付いてくる、他の兵士はバラバラに出て来るが、尋問部屋を取り巻くように移動する手筈だ。


 イスラーファを無事、尋問部屋へと連れて来れた。

 これで第一段階は終わる。


 テーブルを挟んで向かい合って座るように、イスラーファを誘導する。

 イスラーファの座る椅子は尋問専用に作られたダキエ製の嘘判別魔道具だ。

 2人の兵士は予定通りイスラーファの後ろに立っている、合図が在ればいつでも押さえる事が出来る位置取りだ。


 イスラーファの座る椅子の背を見ると「是」と文字が出ている。

 嘘判別魔道具が椅子に座った人間の判別が可能になった事を表している。


 此の嘘判別魔道具は椅子に座った人が嘘と明確に認識していないと判別できない。

 思い込みや勘違いで嘘を言っても本人が本当の事だと思っていれば「是」と成る。

 逆に真実だったとしても本人が嘘と思っていれば「偽」になる。


 判別は声に出す必要が在る、声に出した時の本人の認識で判別している。

 中々使いこなすのが難しい魔道具だ。


 紙とペンとインクを用意し、尋問を開始する。


 紙の最初に日付と場所に私の名を書く。

 後は尋問して行けば良い、言葉遣いを改めて丁寧に聞いて行く事にしている。

 いよいよ第2段階の分かれ道だ。

 「イスラーファ、貴方の正式な名前と身分とお聞きしたい。

 先ほど魔術医だと言われたが、何か身分を証明する物はお持ちだろうか?」


 イスラーファもよどみなく答える。

 「はい、名前はイスラーファ・イスミナ・エルルゥフと言います、身分証や魔術医の免状などの身の証は、今は持っていません」


 椅子は「是」のままだ、尋問の内容と答えと嘘判別の結果を書き込む。

 やはりエルルゥフと名乗ったな。


 第2段階の質問を始めよう、どう答えるか、私としては結果が如何だろうと対応できる自信がある。

 この質問をする為にお膳立てをしたのだ、全ては此の質問への答えに掛かっている。

 「・・・貴方は樹人か?」


 いよいよ選択肢の尋問が始まった、イスラーファには是非大公殿下の意向に従って、否定して貰いたいものだ。


実は、ベロシニア子爵から後援してもらい、キラ・ベラ市で魔術医として開業するお話を始めは書いていたのですが、途中で進まなくなって断念した経緯があります。

何方にしても大公のハーレムへ誘い入れる謀略は変わりませんが、逃亡者のお題からは遠かったようです。

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