第11話・1 (閑話)ベロシニア子爵(1)
閑話です。ベロシニア子爵の背景とラーファとのかかわりです。
ムディライと名乗るホレツァの町の警邏隊隊長が大公殿下への手紙を持ってやってきた。
ホレツァの町の代官イブンハディから大公閣下へ宛てた手紙だった。
彼はこの後、王都への至急の連絡事項を運ぶ為、直ぐにキラ・ベラ市を出る積りだと言っていた。
代官からの正式な使者として旗を持った旗手を従えていた、他にも数名の部下と一緒だった。
私はムディライを先導して大公殿下の元へ連れて来た後、大公殿下からの指示が在るかもと退出せずに待っていた。
案の定、手紙を読まれた大公殿下が私の役目であるベラ大橋の東砦門の守将に手紙の内容を知らせる必要が在るからと、大公殿下の執務室へ入る様にお言葉があった。
ムディライを先導した後、大公殿下の執務室の前室で待機していると、執務室付きの従僕から大公殿下のお呼びだとのお言葉を受け、執務室の中へと従僕の後に従い入った。
部屋へと入ると大公殿下のお言葉を承る為、跪きお言葉を待つ。
部屋へ入る時、室内にムディライは居なかったので、彼が話していたように王都へ向かったのだろう。
「シニア子爵、ホレツァのイブンハディ代官殿から面白い話が届いた。」
面白い事なのだろう、大公殿下が声を弾ませて私に話し出した。
45歳になる大公殿下は政務に追われ、前のように鍛錬に時間を掛ける事が少なくなり脾肉が肥えた事を気にしている事は身内の秘密だ。
「面白い話でございますか?」頭を上げて大公殿下の話に相槌を打つ。
「そうだ、シニアは樹人、そうエルフの女を見た事は在るか?」興が乗って居るのだろう、私の爵位を呼ぶのを忘れている。
「はい、王都の城で礼儀作法の習い事をしていた時に、皇太后様の治療に訪れたエルフの女魔術医を見た事がございます、その時の噂では私達を野蛮人だとさげすんでいると聞いています。」
「そう、そのエルフじゃ、イブンハディ代官殿がの、エルフの女が一人キラ・ベラ市へ来ると知らせて来たのじゃ。」大公殿下はエルフの女を見たいのだろうか?
エルフが数日後此のキラ・ベラ市へやって来るのなら、最初に会うのはこの私、ベロシニア子爵に成るだろう。
「大公殿下、エルフの女が橋へ参りましたら、如何取り計らいましょうか?」
先ずは大公殿下の御意向を伺い、動く必要が在るだろう。
「儂はな、そのエルフの女を儂の後宮に入れたい。」
やはりそう考えられるか、無理もない男なら最高の美女を手に入れたいと願うのはあたりまえだ。
ただ気位の高いエルフが自分から進んで後宮へ入るとは思えない。
「じゃがイブンハディ殿から気になる話が幾つか在る。」
と言うとその気になる話を続けて話される。
「そのエルフの女は手練れの魔術師じゃ、ホレツァの町で襲って来た男共を一撃で5人倒しておる。」
魔術師か、捕まえるとなると兵士複数で損害覚悟で同時に襲う必要がある。
「お前も存じていよう、ダキエ国で政変が在った事を、そのエルフは政変で逃げて来た者に違いないのじゃ。」
ダキエの政変で逃げ出したのなら、魔術都市に住んでいたエルフなのだろう、魔術都市が燃えたとは聞いている。
逃亡したエルフなら捕まえた所で文句を言って来るような者も居ないだろう。
「さらにな、そのエルフは闇の森ダンジョンを通ってやってきた節がある。」
なんと、闇の森ダンジョンを抜けて来るような手練れで実戦経験豊富なエルフの魔術師ならば敵対する事は避けた方が良いな。
「何とか捕まえられんか?」
これはだいぶエルフに執着されているご様子。
力づくで捕らえるよりも、計略で搦めとる事を考えた方が良さそうだ。
「何とか一計を案じて見ましょう、兵士に被害を出します事お許し下さるなら。」
魔術師相手に一戦するなら、被害は覚悟して欲しい。
「むぅ、被害は不味いぞ、女が何か犯罪でも犯さない限りこちらから襲うわけには行かぬ。」
人前で襲うには建前でも理由が必要、大公殿下もそこは御理解なされている、思いついた2段構えで行くとするか。
「大公殿下、一つ案がございます、お聞きくださいますか?」
時間が掛かるかもしれないが、大公殿下にはお待ちいただく事に成るかもしれない。
「うむ、聞こう。」大公殿下が前のめりに成って聞こうとしている。
「はっ、では2段構えで仕掛ける事を思案いたしました。」
「1段目は橋に参ったエルフに何らかの嫌疑を掛け、取り調べだと小部屋へ導く事。」
「2段目は2つの選択肢があります。」
「魔術都市に住むエルフならば多少でも魔術医としての経験があると思われます。」
「もし、女が樹人で魔術医と認めるなら、私が後ろ盾に成ってキラ・ベラ市に住むように誘導いたしましょう。」
「しかし、樹人では無いと偽りを申すようでしたら、罪を犯したとして名目が立ちますので捕まえる様に致します。」
「1段目は分かった、じゃが2段目の選択肢が分からん、なぜ後ろ盾に成ってまでキラ・ベラ市へ住まわせるのだ?」
「はい、魔術医ならば医者として大公様へお目通りが叶う理由に成ります。」
「その時に、樹人にも効くような媚薬か眠り薬で捕まえれば後は何とでもなると思案いたします。」
「この手立て為れば確実に女を手に入れられると思案しております。」
「うむ、そうかしばらく待てばよいのか、次じゃが何としても樹人と認めない場合はその場で捕まえるのか。」
お言葉の後半の声の張りが高く、早く手に入れたいとのお気持ちをお示しなされている。
「はっ、犯罪者として捕まえます、狭い建物の中では魔術師と言えど魔術は使いずらいかと、兵士に取り押さえられるのは時間の問題と思案いたしました。」
「うむ、その方の思案する通りにするが良い。」と大公殿下のお許しが出た。
このベロシニア・アースラット子爵一世一代の捕り物を成功させて見せよう。
大公殿下の庶子として生まれたこの身、兄、姉を見返す一助として利用させてもらう。
まだ見ぬエルフの女よ待ってろ。
お前は俺の獲物だ!
イスラーファは俺の獲物宣言です。
彼はラーファのオウミ王国での最も厄介な敵です、でも開始早々ラーファは捕まっていますね。
このまま大公の後宮入りと成るのでしょうか。