第11話 キラ・ベラ市(4)
ラーファを狙う新たな敵が現れました。ラーファとマーヤは此の危機をどう乗り越えるのか。
「貴方は樹人か?」とベロシニア子爵様が問う。
嘘は見破られる、どう答えよう?
「私は、先祖に樹人が居た事は間違いないと思っています」
この言い方ならば嘘は言っていない事に成ります、私の先祖は妖精族ですから。
「だとすると貴方は樹人の血を引く人族と言う事ですね。」
肯定は嘘に成るので、椅子の魔道具に嘘だと引っかかる事に成る。
「私はエルフ系だと思います、でも私の知る限り先祖にエルフが居た事は知りません。
私は、両親と違ってエルフ的な容姿に成りましたから、エルフ系だと思います」
嘘は言っていません、変異後は妖精族の姿からエルフの姿に成りましたから。
ベロシニア子爵様はしばらく黙って考えているようです。
しばらくして、今度は別の事を聞いてきました。
「では、次はあなたは魔術師ですか?」
直接的な問いには正直に答えるしかないです。
「はい、私は魔術師です」
「貴方の出身は?」と聞いてきました。
この質問には最初から答えを用意しています。
「答えたく無いです、私の生まれや育ちについては秘密です、ただこの国ではありません」
今更秘密だと言ってもエルフ系だとか魔術師だとか話している為、怪しむだろう。
しかし話すとダキエ国の身分まで話す事になる。
「なぜ話したく無いのです?」ベロシニア子爵様も訝しげに再度聞いてきた。
「秘密があるので、話したくありません」と繰り返すしか無いラーファです。
ベロシニア子爵様がちらりとラーファの後ろを見て首を左右に軽く振りました。
恐らく2人の兵士に動くなと指示したのでしょう。
ラーファは捕まえられるのでしょうか?
「でも、貴方は両親と違ってエルフ的な容姿に育った事や魔術師であることは話した、先祖の事にも触れましたね、なのにどうして出身は言えないのですか?」ベロシニア子爵様がしつこく聞いてくる。
「秘密があるので、話したくありません」と繰り返すしかないラーファ。
「貴方は医者ですよね。」ベロシニア子爵様が確認するように聞いてきました。
「はい、魔術医です」と短く答えます。
「分かりました、よその国から来たとの事ですがどうやってこの国に入られました?」
答えない事を罪に問えるのに、見逃してくれたのでしょうか?
「この国の前はル・ボネン国に住んでいましたが、ロマナム国と戦争に成って逃げ惑っている内に闇の森ダンジョンまで行ってしまいました、迷って抜け出た場所がオウミ国だったのです」
ル・ボネン国とロマナム国は同じネーコネン一族出身の王様なのに仲が悪くて何時も戦争しているそうです。
「闇の森ダンジョンを通って来たのですか、では北のホレツァの町を通って此処へ来たのですか?」
「はいホレツァの町で2泊3日宿に泊まり、買い物もしました」
ベロシニア子爵様が立ち上がって棚から束ねた書類を取り出すと、書類を読んでいる。
読み終わって書類を棚に戻すと、戻って来て椅子に座った。
「ホレツァの町からの報告では貴方は強盗に襲われて撃退していますね。」
「はい、5人組に襲われています」
私の旅よりも早く報告がここへ来ている、ほぼ直線的にキラ・ベラ市へ来たのに報告は其れよりも早く着いている。
単なる強盗事件なのに、キラ・ベラ市まで知らせる様な事だっただろうか?
「貴方はそこでダキエ銀貨とダキエ銅貨を使われている。」
これは確認の様で罠だ!
ダキエ銀貨の事まで知られている、ラーファの事は全て知られているのかも、小さくかすれ声で答える。
「はい」
はい以外に答える言葉は無い、無言も否定も貴族へ抗った罪に問えるだろう、それでなくとも先ほど話したくないと抗っているのだから。
「どこでダキエ硬貨を手に入れた!」
手のひらを返したように、強い口調の声がラーファを詰問して来る。
「ひ、秘密があるので、話したくありません」と繰り返すしか無かった。
「貴方は今貴族からの命令に抗った、知らないかもしれないので教えるが、侮辱罪に当たる。」
ベロシニア子爵はそう言うと、後ろに居る兵士へ命令した。
「荷物を調べろ、抵抗したら取り押さえても良い。」
「容疑は侮辱罪で、ダキエ硬貨の取得理由の詰問に答えなかった事だ。」
兵士が2人がかりでラーファを立たせて、背負っている袋を取り上げる。
ラーファは抵抗しなかった、部屋の中では逃げる隙が無い。
魔術ならともかく、肉弾戦はからっきしダメなラーファなので。
『ラーファ、神域に逃げ込めば』マーヤが心配して神域に逃げる事を進めてきます。
でも神域の事は秘密にして置きたいし、移動も出来ないので如何にも成らなくなった時に考えます。
その間にも彼らの荷物検査は進みます。
背負い袋の中は、着替えとゴーレム用の手袋とお金が入った袋ぐらいです。
兵士の一人が机の上にお金を袋を逆さまにして出します。
ゴトゴト、チャリチャリとお金が机の上に落ちてきます。
5分銀2枚と2分銀が3枚に棒銅が2本と銅貨10枚ほどが机にバラまかれた。
これだけあればしばらくは宿に逗留出来る金額です。
お釣りで貰った、金貨や棒銀と錬金して作った棒銀と棒銅は神域へ置いています。
兵士が着替えの服を鷲掴みにして机の上に置きます。
下着を男の視線に曝すのは、さすがに恥ずかしくて、つい動こうとしてしまった。
透かさず、ラーファの横に居た兵士が、両手を拘束して背中に捩じり上げた。
「痛たい!」思わず声を上げると。
ベロシニア子爵は、抑え込まれたラーファへ向き直ると上から睨みつけながら。
「イスラーファ、お前はダキエ国の者だな。」と決めつけて来る。
椅子に座っている訳では無いので嘘は分からないだろうけど。
「秘密なので、話す気は無い」と答える、今さらこの状態で聞いて来ても答える訳が無い。
「お前は、貴族で在る私、ベロシニア子爵の命に抗った。」
それが最初からの狙いだったでしょ。
「侮辱罪は明白である、故にお前の処分は私に委ねられる。」
それが目的なのね。
「お前の身柄を拘束し、我が家へ引き立てて厳しい取り調べを行う。」
家へ連れて行く?何で?ダキエ硬貨が目的では無い?
この砦で調べないのかな?インベントリのカバンを持っていると思っている?
人目を避ける為、家へ連れ帰り、インベントリのカバンと中に入っているダキエ硬貨を取り上げる事が目的かな?
今の私を調べても両方共見つから無い、その場合はどうなる?
奴隷に売る?それとも。
もしかして追手と繋がりが在るのかもしれない、それは考えても見なかった。
危機察知は終始オレンジだった、彼らには強い害意は無いが、敵意は最初からあった。
今は黒味がかった欲望の色も強い。
油断したのかもしれない。
逃げ出すチャンスは外へ連れ出された時だ、部屋の中では余程不意を突くか、油断している相手で無ければ複数の兵士には勝てない。
ラーファは兵士の手によって後ろ手に縛られ、猿轡をされた。
猿轡は詠唱をさせない為だそうだ。
机の上の着替えは袋に戻された、お金?諦めるしか無い。
男に鷲掴みにされた着替えなど再び身に着ける気は無い。
魔術付与されて無い綱や猿轡など、肌に触れて居れば見なくても錬金で分解できる。
逃げようと思えばいつでも逃げ出せるのだから。
ラーファは何とか言いつくろっている様に思っていますが、ベロシニア子爵からすると最初の闇魔術で耳を偽っている段階で全てバレバレです。