最終話 (閑話)神の恩寵ダンジョン
闇魔術師アルデビドは寿命を延ばす方法を研究してマーヤニラエルに至る。
この世にはダンジョンと呼ばれる魔力の集まる場所が在る。
聖樹がこの地に溢れさせた魔力の集まる所でも在る。
魔力は魅力の大きい物の中を通る時はゆっくりと流れ、それは留まるかのようにも見える。
魔力は流転し留まる事は無い。
魔力は物質を変異させる、魔力の流れる間だけ変異は続く。
この世に魔力の流れぬ物質は無い。
故に魅力の大きな物は魔力が溢れる。
あたかも魔力を生み出しているかのように。
エルフの中のダンジョン派と呼ばれる女達は一般に森ダンジョンと呼ばれるダンジョンの研究から一つの真理を見出した。
聖樹は一人のダンジョンである。
聖樹は計り知れない魅力の大きな生き物だった。
星と星の間を渡る数万年の航海を、体内に一つの世界を内包して行うようなとてつもない生き物だ。
必要な物質は聖樹により作られ供給される。
生活必需品から空気、水、食料までありとあらゆる物資を作り、分解し、循環させ、養う。
それを魅力の大きさのみにて実現させる。
では聖樹は与えるだけの存在なのだろうか?
もし何かを欲するのなら、何を持って得るのだろうか?
聖樹の降臨する前の此の『名も無き世界』は、魔力の無い世界だった。
大いなる矛盾が在る、この世に魔力無き存在は無い。
在るのは粗密なのだろう?
この名も無き世界に魔力がいきわたり、物質が植物が動物が変異した。
大地も変異を免れなかった、ダンジョンの誕生だ。
生まれたダンジョンは聖樹に似た小さな世界を支えた。
エルフの研究者は森ダンジョンを聖樹に変異させる方法を探った。
大地を流れる魔力の流れ、魔脈に魅力の大きな物を近づけダンジョン化させる方法を思いついたのは誰だっただろうか?
聖樹の物質を供給する方法に似せた、コントロール可能なダンジョンを作る事に成功したのは誰だっただろうか?
神の恩寵ダンジョンは生まれた、エルフの研究者の手によって。
闇魔術それは魔力の生命に及ぼす変化を指す言葉。
魔石を持つ魔核生物は闇魔術が発達するきっかけに成った。
魔石を持たない生物から生まれた魔石を持つ生物、元に成った生物より能力は格段に上がった。
体内の様々な循環を魔石の持つ魔力を制御する力で代行すると消費エネルギーは下がり、力は強くなった。
代わりに感情と情動が薄まった。
生物の環境に対する適応力は魔石生物は格段に高くなった。
魔石は小さくても魅力の高い物質だ。
魔力の流れをコントロールする能力を持っている。
ダンジョンを作る魅力の大きな物と似ていないだろうか?
魔石はダンジョンのコア(魅力の大きな物)と共鳴した。
ダンジョンに住む魔核生物は魔石生物がダンジョンと共鳴した事で生じた生き物だ。
やがて魔石生物はダンジョン以外では数を減らし、めったに見られなくなった。
闇魔術の研究は魔石生物の研究から始まり、やがて魔核生物へと拡大して行った。
アルデビド・エルンスト・ヒーナニマ・エルルゥフ。
彼はエルゲネス国で父親が目を付けた魔核生物について研究した。
魔石の持つ魔力の制御の一つ、生物の寿命を延ばす身体強化と細胞活性化に注目したから。
研究結果はエルフ系の寿命を千年に延ばす成果を上げた。
しかし、万の年月までは届かなかった、何故だろう?
これまでの研究から、魅力の大きさ以外に彼には理由が思いつかなかった。
寿命の違いは魅力の大きさの違いで生じる物だと考えるしかなかった。
魅力、それはエルフでは女親から受け継がれる物、男親からは人族より少し多いぐらいにしか受け継がれない。
その違いが寿命の違いに繋がるのだろう。
研究対象をエルフの発生した、マーヤニラエルの親について調べ始めた。
記録は聖樹に残っているだろう、しかしエルフは男と女で諍いを起こし国を分けて住むようになった。
女のエルフに記録を調べて貰う事は不可能だ、其処で数少ないが聖樹島に残った男エルフを頼った。
その男エルフは首都ジュヘイモスを守る海軍の提督をしている。
彼の協力でマーヤニラエルに関係する資料を得る事が出来た。
古い記録は紙として残って居なかった、全てはデータ化されたものだった。
経年変化により記録媒体の劣化が再生時の雑音となり再生を妨げた。
様々な手法を以て記録の再生を試みる挑戦が始まった。
エルフの年月にしても長くかかったが、意味の在る情報の再生が可能に成った。
後にアルブと名付けられた惑星は、エルフ発生の惑星だ。
その惑星で2百周期(500万年)前に長寿のエルフは生まれた。
妖精族の男と原始エルフ女の間にマーヤニラエルと名付けられたエルフが生まれた。
アルブに降り立った樹人は鬼人族と狼族と妖精族だった。
普通な二人は普通に結婚し、普通に短命なエルフらしく短命で死んだ、長命なエルフを残して。
妖精族の男もエルフへ変異して短命に死んだ。
長寿な妖精族が変異で短命になる事は考えられ無かった。
彼の研究は妖精族へとその矛先を変えた。
聖樹の中に住みめったな事では外に出てこない妖精族を調べたい。
彼の願いは聖樹の変で潰えた。
だが、エロフの母親からの情報が全てを変えた。
ロマナム国でエロフからの情報の対価として働いている。
闇魔術を調略の道具としてイスラーファを調べる内に、ご先祖と同じ名前の娘が居る事が分って来た。
マーヤニラエル、妖精族の王族の血を引くエルフの娘。
契約の期間の3年が過ぎ、私は自由に動ける様に成った。
ロマナム国の王は再契約を言って来たが、こんな臭い王の元で仕事をするのは二度とごめんだ。
私は独自にイスラーファとマーヤニラエルの二人を探す。
幸い戦争はロマナム国が王都まで押されていて、私の邪魔をする事が出来ない。
前から考えていた、計画を実行する機会がやって来た。
イタロ・カカリ村は闇の森ダンジョンの魔脈の一つが村の下まで伸びている。
此処に魅力の大きなダンジョンコアを持って行けば、神の恩寵ダンジョンを作る事が出来るだろう。
先ずは「ダンジョンコアの成かけ」を見つける事から始めよう、幸い闇の森ダンジョンが近い。
ここに子ダンジョンが出来れば「ダンジョンコアの成かけ」を採取できるだろう。
魔脈に「ダンジョンコアの成かけ」を近づければ、魔力により魅力を増す事でダンジョンコアへ変異するだろう。
後は、ダンジョンコアに聖樹の枝を取り込ませれば、神の恩寵ダンジョンの出来上がりだ。
神の恩寵ダンジョンをカカリ村に作れば、イスラーファかマーヤニラエルのどちらかあるいは二人ともダンジョンに来るかもしれない、いや来るだろう。
エロフからの情報に魅力の減り方が計算より小さいと在った、どこかに聖樹の1/3程の魅力の大きな物が在る計算になったと聞いた。
ならばどこかに魅力の大きな物が在るはずだ、聖樹が魅力が大きかったのなら、聖樹の種なら魅力は大きいだろう。
ハイシルフが聖樹の種を産んだ事は海軍のエルフ男からの情報で知っているが、聖樹の変で行方知れずと成って居る。
ならば、ハイシルフの従妹のイスラーファならば持ちだしていて不思議では無い。
行方不明に成って居る聖樹の種はイスラーファが持ちだしたなら、育てるための『ゆりかご』を作る必要がある。
必要な材料のダンジョンコアは欲しいだろう。
ダンジョンのコアが在る部屋で待ち伏せればやがてふたりがやって来る。
その日が待ち遠しいぞ、わが能力を使って罠を仕掛け待つことにしよう。
神の恩寵ダンジョンがカカリ村に出来たとしてもラーファとマーヤは居ないでしょう。
ひょっとしてマーヤが魔女学園に残る事にしたら、マーヤに危機が迫るかも?
過去編第二部は王都ウルーシュから始まります。