第86話 決意(1)
ラーファは神聖同盟の要求にオウミ国を出る決意をします。
重要な書類なので、魔印象を紙全面に使用した内容証明付きの書類に、専用のインクで書きました。
魔印象は高価な魔道具の中に在って、最も普及している魔道具です。
偽造が出来ない文書は国に必須の魔道具と言えます。
魔紋の浮かんだ書類を見て、ベロシニア子爵が使った魔印象の椅子を思い出しましたが、嫌な思い出です。
ラーファが出国の件と誓約の書について書いた物を持って男爵様がアリスと王都へ飛んで行きました。
神聖同盟の文書を持って来たアリスが運良く? 悪く? 家に帰らずに残って居ました。
父親にそのまま王都へ連れていかれる事に成りましたが、ご愁傷様です。
本日2度目の飛竜便なので、今日はそのまま王都に泊まります。
4月のまだ寒い中、あわただしい出発の後、執務室でカークレイさまと先ほどの続きを話し合います。
ラーファはカークレイさまにオウミ国から出て行く時期や行先を相談したいのです。
「カークレイさま、ラーファは今考案中の新薬の開発が終わりおばばに引き継ぎしたら、密かにオウミ国を出て行きます」
渋い顔をされたカークレイさまは一つ頷きました。
「うむ、仕方なしじゃな、神聖同盟とやらは戦力は10万だと嘯いておるが。」
「あながち嘘では無いようじゃ。」
カークレイさまはラーファがオウミ国を出る事は了解されています。
「ただ密かに出るより、大いに騒がしくと言うか『イスラーファ様出国記念祝賀大祭典』でも盛大にやった方がよかろう。」
名前がひどいです、それに盛大にとかラーファは苦手です。
「そっ、それは、名前はともかく騒ぎすぎると邪魔が入りませんか?」
「それとも、神聖同盟に見せつけるのですか?」
見せつけるのは、出国を印象付ける為なのかも。
「そうじゃよ、前にベロシニア子爵に対して行った様にな。」
「でも今回はラーファは本当にこの国から出て行く積りですよ?」
「大丈夫じゃよ、前回はワイバーンに乗って飛び立った、その事が行方を眩ます事に繋がった。」
「今度じゃが、イスラーファ様船にお乗りなさい、今年もビチェンパスト国から船団がやって来るじゃろう。」
「港で盛大に見送りさせていただきますぞ。」
お祭り騒ぎの中船でオウミ国を出れば、出国の確認になるだろう。
「そうですね! 船は良い考えです、それにビチェンパスト国へ行くのも良いですね」
ビェスの事が分かるかもしれません、でも。
「カークレイさま、今回の神聖同盟の件でラーファは名前が知れ渡ってしました」
「見た目はごまかせないでしょうけど、今後イスラーファの名前は名乗らない事にしようと思っています」
「うぅーむ、お名前を隠されるか。」
「はい、エルフ系の人族は此の大陸にも数は少ないですが、居る事は居ます」
「オウミ国を出ても、ゆく先々でイスラーファの名が出れば神聖同盟が、再び脅して来るかもしれません」
「じゃが、イスラーファさまの名前を出さないと祭典の名目が力を失ってしまいますぞ。」
「そこらあたりは今後話し合っていきましょう、王都での事ですし時間も在ります」
「そうじゃな、何か良い知恵が浮かぶかもしれんな。」
「そうじゃ! ビチェンパスト国の王が妃をオウミ国へ求めたと言う噂を利用して、ビチェンパスト国へ嫁入りするとかなんとか噂を流せば完璧じゃの。」
「名を出さないなら、謎の姫様とかダキエの姫とかでどうじゃ。」
そういえばアリスも同じような嫁入りの噂が在ると去年言っていましたね。
「そうですね、姫ではないですがイスラーファの名さえ出さないなら、滅亡したダキエの名は出ても良いかと思います、ラーファ以外に出国した者もいるでしょうから」
「でも、出航する直前までは邪魔が入らない様に秘密でお願いします」
ラーファはカークレイさまに念押しします。
「もちろんじゃ、それに陛下が一度会ってお願いしたいことが在るとアリスから伝言を頂いておる。」
「もちろん、イスラーファ様のお気持ち次第と念を押されておるから、ちょうど良い機会でもある。」
頼みたい事とは何でしょう? あまり気が進みません。
「何やら魔女がらみの事らしいとしか聞いておらんが、大した事では無いそうじゃよ。」
「おばばが魔女学園を王都に開設する準備に、魔女を王都へ派遣する事は知っとるじゃろ。」
「はい、おばばからミンを派遣すると聞いています、ミンの夫が王都出身で出産は王都でするそうですので、魔女学園の開設準備はミンにまかせるそうです」
「その件と関係があるかもしれんの。」
王宮でラーファの出国と聖約の書の事で一波乱あります。