第83話 暗雲(3)
ビチェンパスト国の様子が少しわかってきました。
戦況はロマナム国不利ですが、ロマナム国は防衛戦に終始しているようです。
オウミ国が雇った傭兵の中には4年前の戦争の後ビチェンパスト国へ移動した傭兵団が戻って来ているそうです。
王都から遠いカカリ村では、ビチェンパスト国から船団が着て王都へ使節団が来たと聞く位で、詳しい事は何も伝わってません。
でもここには竜騎士で侯爵夫人のアリスが王都と侯爵邸とカカリ村を頻繁に行き来してくれています。
王都で色々情報を仕入れては、ラーファの居るカカリ村へ飛竜でやって来るアリス侯爵夫人はお茶の席でラーファに仕入れた話を話してくれます。
「今王都では戦争以外では、ビチェンパスト国の噂で一杯なの」
「ビチェンパスト国からの船団は商人が帰国する9月末迄港に其のまま停泊するそうよ」
「どうやらビチェンパスト国は王様が騒乱を治め国を立ち上げたそうなの、そして今来ている商人の中に其の王様から手紙を預かった人が居て、陛下にお渡ししたって夫から聞いたわ」
溢れんばかりに噂話を仕入れてきたアリスが、ラーファに一気にその噂をぶちまけています。
アリスを囲むテーブルでは引退生活中のカークレイ前男爵様とボーデン奥様、現男爵様のサンクレイドル様とエイシャ奥様が居ます。
おばばは薬の注文が来たため今日は居ません。
ラーファはビェスがその後どうなったか気になりましたが、知るすべは在りませんでした。
アリスが何かその事で知っている事が無いかとアリスの話す噂話を注意深く聞きています。
「宮廷の噂では、ビチェンパスト国の王様から王妃を迎えたいと手紙に書かれていたらしいの」
「オウミ国から王妃を迎えるのか?」カークレイさまが驚いたのか声を上げました。
「今年ご卒業されるメリンゼ王女がおられるが、王室にとって初めての竜騎士ですぞ。」
男爵様はこの頃言葉使いがカークレイさまににてきましたね。
「ビチェンパスト国はあまりにも遠過ぎますわ」
ボーデン奥様も王家からの嫁入りは無いだろうと言いたげです。
「でも、船団を仕立てて遠方の国へ行かれるのも素敵ですわ」
エイシャ奥様は何か夢見ている様なお顔をされています。
「ねえアリス、ビェスの名前は出なかったの?」
ラーファは知りたくて仕方ない人の名前を出してアリスに聞いて見た。
「えーと、誰でしたっけそのビェス様と言われる方は?」アリスは忘れているようです。
「ビェストロと名乗られたかたですが、家名は存じません、7年前に薬の木を求めてカカリ村へ来られた商人の方です」
ラーファの説明でもアリスは分からないようです。
「7年前ですと私9才ですから家の外へは出ていない頃ですわ、それにビェストロ様と言われる方の話は残念ながら伺っていません」
とラーファを見ながら申し訳なさそうに言われます。
「あはは、いいのよ気にしないで、そうよね未だあなたが9才の時の事だったわね」
初めてこのイガジャ邸で食事をした時はレイもアリスも小さくて会食の席には出れなかった。
あれから7年、二人は結婚しレイに至っては子供がもうすぐ生まれる。
おばばの方には熱病の薬の依頼が在ったそうですが、薬を求めて船団で来た商人はビェスでは無かったのでがっかりしました。
8月の間、新しい魔女の薬の開発の傍ら、薬の木から熱病の薬を作る作業の監督に当たった。
夏の暑さに加え蒸留の熱気で茹だっていますが、作業に当たっている魔女見習いやマーヤは元気に薬の木から抽出した熱病の薬を作る仕事を行っています。
ラーファも新しく魔女見習いに成った新人に薬の作り方を教えています。
マーヤも薬作りのお手伝いをする様になりました。
マーヤは一通りの魔女の技能と知識をこの7年間学んで居るので魔女としておばばから認められています。
おばばに子供も産んでないのに魔女認定して良いのか聞いて見たら、ラーファとマーヤの様に魔力が多いと使い魔の使役でも副作用を遮断できるのが分かったので良いのだそうです。
でもまだ6歳なので魔女見習い候補として働いています。
薬を作り終わる頃、9月に成りました。
魔女学園には9月の初日から入学します、同級生が5人いるそうです。
マーヤは魔女ラーファの弟子として見られているので、魔女学園には護身術や実習を習いに通う予定です。
学園に通うと同年代のお友達が初めてできます、マーヤはとても楽しみにしています。
この頃マーヤの外見の成長が人族と比べて遅くなってきた事に気が付きました。
成長の早い人族ですが、エルフも10才位までは人族並みに成長するはずなのです。
マーヤはエルフの女の子の成長と比べても少し遅い気がします。
妖精族の特徴が出ているのかもしれません。
今の所見た目は6歳児でも小さい方に見える位なので、9月から何とか新入生と見て貰えそうです。
魔女学園の入学はマーヤを連れて学園に行き、先生として魔女見習い3年目のアンナ(アン)が居たので預けるだけです。
同級生の5人の女の子は寮住まいなので、既に教室で待機しているそうです。
ラーファに手を振ってアンと1年生の教室へ行くマーヤを見送ります。
マーヤも今日から1年生、ダキエ国の妖精族の学校は千歳以下の若者の集団がそうでした。
集団へ入るのも3,4歳ぐらいからで子守代わりでもあったようです。
人族の学校は、年齢で分けられていて同じ年齢の子供たちが学ぶ環境はラーファも好きです。
妖精族だと子供の生まれる間隔が数十年単位なので同じ年齢の子供なんていませんでした。
短い秋が過ぎ、冬が駆け足でやってきました。
ダンケルを巡る攻防戦に竜騎士が投入されたそうです。
今回は、ブレスでの攻撃だそうで、出城への攻撃として行われました。
盗賊団を攻撃した時と同じように2頭での攻撃は劇的な効果を上げたそうです。
一気に複数の出城をブレスで攻撃して落とすと、ダンケル城塞の守備兵は怯えて城塞から出てこなくなったそうです。
冬になる前にダンケルは降参し、城塞都市を明け渡したそうです。
ダンケル城塞都市の守備兵と市民は王都ベイリンへ撤退し、ル・ボネン国とオウミ国の軍は冬に備えダンケルで越冬するそうです。
ビェスはパストと名乗っていますが、ラーファは忘れているようです。
次回は新しい魔女の薬を作ります。