第81話 暗雲(1)
3国の間の戦争が次第に近づいてきたようです。
アニータさまが返って来るまで5日間、ラーファはイガジャ邸に閉じこもり待って居た。
この間、マーヤと神域の家で今回手に入れた手錠の残骸と首輪について話し合った。
アニータさまはオウミ国が今回の首輪と手錠を手に入れる事を拒否した。
ラーファが忌避する品物なのでオウミ国が更に首輪を手に入れる事を避けたのだろう。
マーヤが調べたいとうるさく言うのでラーファが手に入れた。
マーヤは首輪を手に持ってプラプラさせている。
「ラーファ、この首輪、神格持ちの人が作ったのは間違いないよ」
「この首輪を神域に持ち込む時、初めて彼の方の警報装置が作動したわ」
「この首輪については神域への持ち込みを認める事にしたから、この首輪に限り手に持って神域に入れるよ」
マーヤの言葉にラーファは改めて首輪を見た。
表面はなめらかで銀色をしている、一見すると一続きの円にしか見えないが、手で引っ張ると一端が割れて首に嵌める事が出来るようになる。
小指程の幅で1枚の紙を細長く切って輪になる様に繋いだ様にも見える。
マーヤが分析した内容を話してくれます。
「材質は純粋な魔銀の中に魔金で付加が刻み込まれているわ」
「しかも全体に付与もされた2重構造よ」
「付加は魔力の方向を歪める効果があるわ、付与は硬化と修復よ」
「この首輪を一度首に嵌められると解除のカギが無いと二度と開かない様に成ってるわ」
「解除するカギを探しているけど見つからないの、たぶん2つの言葉だと思うけど」
「一つは『開け!』だとすぐわかったけど、次の言葉がわからないの」
「マーヤならこわす事は出来るわ、でも首輪を嵌めたまま破壊したら大ケガか死ぬかもしれない」
「他に、この首輪を嵌められると、神域を開けられ無くなると思う、恐らくだけど、認識までゆがめているの」
「この首輪を嵌めた人が近づいてきても、空間把握でも誰だか見分けが付かないかもしれない」
「この首輪を作った人はとても恐ろしい人だと思うわ、いったい誰に使うつもりだったのかしら」
ラーファの記憶は曖昧なので此の首輪を作られたハイドワーフの方について覚えていないが、並べてドワーフは一徹で頑固者が多いから、これでもか! と性能を上げるために情熱を傾けたのだろう。
アーティファクト(古代魔宝物)と言って良い作品だと思う、用途は酷いと思うが。
確か此の首輪を見た宝物庫には他に同じ作者の腕輪と指輪も在ったように思う、聖樹が燃えてそれらの品物はどうなったのだろうか?
マーヤは、一端首輪については終わり、次は壊れた黒い手錠の方に移るようだ。
机に首輪を置いて、壊れた手錠を取り上げた。
「その手錠の材質はラーファでも分かるわ、鉄と魔鋼の合金で魔鋼が1割より少し多いぐらいかしら」
ラーファが自分が壊した手錠を見ながら吐き捨てる様に言った。
「そうね、付与されている混乱の強さが最高レベルで付与されている以外に見る所は無いようね」
「作者も先ほどの首輪の作者とは別人ね、でもこの作り手も一流よ」
マーヤも言葉とは違って興味が無さそうね。
神域に立つこの家もマーヤの成長に合わせてマーヤが使う部屋が幾つか増えた。
魔女学園に入園したいと言い出した昨秋の頃から、一人で寝ると言い出しマーヤ専用の部屋を作った。
他にもマーヤ用に錬金や加工のための作業部屋と収納倉庫も作った。
衣食住全てが揃う此の神域はマーヤが目指すと言っていた、引きこもり? を始めようと思えば出来るだけの物に成ったと思う。
まぁ、ラーファもマーヤも外の世界の方が面白くて、引きこもり にはならないだろう。
マーヤが首輪と手錠をマーヤの作業部屋へと持って行く。
「此の首輪については首に嵌められても解除か最悪破壊出来るように更に調べてみるね」
マーヤが調べるのなら其の内解決方法を見つけるでしょう。
それよりも今回作った治癒薬製造魔道具ですが、複数の治癒魔術に対応させようと改良していた時。
今回魔力の代わりに治癒魔術を付加した魔石をポーション瓶の中で魔力を行使させると魔水化する事を発見した。
さらに、そのポーション瓶を傷に振り掛けると治癒魔術の行使がされた。
何が言いたいかと言うと、魔道具無しでポーション作成より簡単に錬金の初歩で回復薬が作れそうだと言う事。
ポーションは魔力を貯める入れ物に魔力を満たして魔水化させ、魔水にオリハルコンを溶かして空ポーションを作る。
今回発見した方法はポーション瓶の中で治癒を付加した魔石が液体化したと言うことです。
今回の発見は簡易ポーションを作る切っ掛けに成るかもしれない。
出来る回復薬は効能が弱いけど、魔女見習いでも量産できるぐらい簡単に作れると期待している。
これは使えそうだと思った。
更に研究を続けるつもりが、アニータさまが王都から戻って来られた。
アニータさまから聞いた内容はラーファにとって、追手が未だ諦めていない事が分かる内容だった。
しかもラーファを巡って戦争が起きそうなのだ、やはりラーファは此の国に居てはいけないのかも知れない。
次回はいよいよ戦争がはじまります。