第7話・3 ホレツァの町(6)
この世界は帝国編でもそうでしたが、殺伐としています。
犯人達は金さえ手に入れば、殺しも戸惑う事が無いでしょう。
危機察知は宿の部屋に侵入者が居て私へ危害を加えようとしている事を教えてくれる。
『奥で食べてた5人組ね』マーヤが緊張した念話を送って来る。
『ええ、その位の人数ね』ラーファも危機察知から知った部屋の状況で襲って来たのが複数だと知った。
朝食の時危機察知で真っ赤に成っていた5人組が、人が少なくなる昼時を狙って部屋に侵入したようだ。
カギが掛かっていたはずなのに、どうやって入れたのだろう。
ドアを壊した様子は無いので、合鍵か錠開けのスキル持ちが居るのだろう。
彼らが部屋へ扉を壊して入って来るかもしれないとは考えていた。
今部屋の中に3人、部屋の外に2人いる、危機察知では全員赤黒く殺意以外に別の欲望さえ感じる。
部屋には初めから私の私物は置いて無い、このまま無視していれば諦めて去っていくだろう。
玄関の間まで移動して、彼らの動きを監視する。
彼らの動きを危機察知で追っていると、彼らの内の一人がテーブルの上から何かを拾う様な仕草をした。
何かテーブルの上に置いてたかな?
しまった!カギをテーブルの上に置いてた。
盗られると銀貨が3枚必要になってしまうが、緊急事態だこの際諦めよう。
カギを見つけた彼らの動きが急に活発になった。
彼らはベッドの下や窓の建付け、天井まで調べようとしている。
うかつだった、私が隠れていると思っているのだ!
カギの掛かった部屋の中に部屋のカギがある。
それは、部屋にカギを掛けた本人が居る証拠だから。
『不味い事になったね』マーヤが事態を危惧して念話して来る。
『神域は彼らには見つけられないから安心だよ』マーヤに現状のまま放置する事を伝える。
『5人組はラーファを見つける為に部屋を壊す積りだよ』
マーヤは放置するとより過激になると見ている様だ。
マーヤの言う通りかもしれない、彼らはなりふり構わず部屋を探している、大きな音も出ていると思う。
音は神域までは伝わってこないけど、彼らの動きで天井や壁を蹴ったり叩いたりして動かせるか調べている様子がわかる。
その内業を煮やして部屋を破壊しだすのも時間の問題だと思う。
どうにも乱暴な男達だ、しかも暴力を振るうのに躊躇が無い、音が出て宿の人に知られるのも無視して部屋を調べている。
『宿の人達が気が付いて部屋まで来そうだよ』マーヤが宿の人が巻き込まれると危惧して言って来る。
居直り強盗に成られても、部屋を壊されても困る、宿の人が来ると大事に成るだろう。
そんな事に成ると役人が出張って来るだろう、そうなった時ラーファが役人に拘束されている間に名前が追手に知られるのはとっても不味い。
事此処に至っては、役人が来る前に部屋に居る彼らを倒す覚悟を決めた。
大事に成る前に強盗を倒して、早めに開放される事を期待しよう。
『しばらく神域に来れなくなりそうだけど、ごめんね』
マーヤに授乳したばかりだから1刻(2時間)は大丈夫だろう。
だけど、取り調べは長くかかるだろうから、隙を見て授乳に来るしかない。
神域を窓側の壁に沿って少し開け、土槍を1本出して彼らの内の最も近い位置に居る一人に狙いをつけて撃ち出す。
土槍は曲線を描き狙い通り心臓を撃ちぬいた。
男は「グホッ」と押し殺した声を出すと、ベッドへ倒れ込んだ。
二番目に近くに居た男が気が付いて、「ガイ、間抜けにベッドへ寝るんじゃねぇ」とベッドへ倒れた男を見た。
男から広がる血を見て、身構えたのは荒事に慣れているようだ。
しかし、遅い、次の土槍は既に撃っている。
背中から心臓を貫いた土槍に、驚いた顔をしたが声も無く倒れた。
神域を大きく開けて部屋へ出る。
部屋に居て天井を剣の鞘でつついていた最後の男が、手に持った剣の鞘を投げすて剣を構える。
「居たぞ!!入ってこい!ガイとベンがやられた!」3人目の男が、大声で外の男たちを呼んだ。
直線しか進まない土槍を曲げるのは、魔力を繋げたまま目視でコントロールする必要が在る、距離も伸ばせるが魔力を繋げている間、魔力が大量に消費される。
既に撃ち出している土槍を天井に沿って曲がり男の死角に成る背中から心臓へと打ち込んだ。
「グハッ。」
いきなり胸に生えた土槍を、信じられない物を見たとばかりに目を見開いて睨む。
急に力が抜けると、声を上げる事も無く前のめりに倒れた。
倒れる時テーブルと椅子を巻き込み、床に倒れる音が大きく響いた。
外から部屋へとドアを開ける音がしたので、土槍を3本出して出口へ向き直った。
外に居た男2人が部屋の中の音を聞いて、ドアを開けて中へなだれ込もうとした。
が、ドアに閊えて2人とも止まってしまった。
「強盗!」と声を限りに叫ぶ。
声と同時に土槍を二人の腕や足を狙って撃つ。
ラーファは頭上の3本の土槍を1本づつ撃ち込んで行く。
「ぐはぁ」、「ぎゃあー」と足や腕に1本づつ打ち込み頭上の土槍が無くなると次の土槍を浮かべる。
土槍が腕や足に次々と撃ち込まれ悲鳴を上げる二人。
悲鳴が宿中に聞こえたのか、騒がしくなった1階から人が階段を上って来た。
「どうした!何が在った!」と声がした。
部屋のドアの前に蹲り、のたうち回る強盗の2人を見て宿の受付に居た男が吃驚してこちらを見ている。
驚いて動けない彼(宿の主人)に声を掛た。
「強盗です、部屋の中にも3人入って来ました」
宿の主人が男の使用人を呼びつけ、うめき声を上げている男共を縛り上げさせた。
おかみのグレイスさんに私を別の部屋へ移動させて、話を聞くように指示すると。
「鐘の口の警邏隊に知らせて来る。」と言って出て行った。
部屋の中の惨状に顔をしかめながら、グレイスさんは私を2階の別の空部屋へ連れて行った。
ラーファも殺した男達とうめき声を上げている縛られた男達の側から、離れるのはありがたかった。
此処に出て来る冒険者5人は、高級宿に泊まれるぐらい稼ぎが良いにも関わらず、簡単に大金を狙って襲う様な刹那的な生き方をしています。
殺して奪う事に躊躇が無くなっているのです、奪った後のことなど考えて無くて、逃げれば何事も無く済むとでも思っているのでしょう。