第77話 持ち込まれた難題(9)
いきなり手錠を掛けられたラーファに危機が迫ります。
何かうまく考えが纏まらない。
何が何だか分からない!
『ラーファ! ラーファ! 返事をして!』
『ラーファ! ラーファ! ラーファ! ラーファ! ラーファ! 返事をして!』
マーヤ? こんなに何度も、大きな声? 何かな?
「な~に?」声に出して見たけど力が出ない。
『ラーファ、混乱の魔術よ! 心を静めて掛けられた魔術を払うのよ!』
あっ、マーヤが混乱って言った、いえ念話?
混乱の魔術だって、考えを? が? 纏まらない。
ラーファが混乱? しているんだ。
『ラーファ、混乱が掛かってるの! 心を静めて!』
混乱って混乱するね?。
『ラーファ! 動かないで! 抵抗するの!』
ラーファは手がうまく動かせないよ?
あ! 手錠してる。
手がうまく動かせ無いのは手錠が在るからだね。
一つ分かったので気分が良くなる。
でも手錠? 誰が手錠を掛けたの?
『ラーファ! ラーファ! 止まって!』
手を引っ張っている人だあれ?
手を引っ張ってるの請負人さんだ。
手を引かれて行く先に、資材置き場が見える。
向こうから誰かが走って近づいて来るよ。
危機察知が働き、赤い色が近づく。
何か不味い!
ラーファは立ち止まった。
「イスラーファ様、行く先はこちらでございますよ、皆様お待ちですからお急ぎ下さい。」
請負人が案内するように言って手を引っ張る。
引っ張るのは止めて!
何かおかしいの!
誰かが後ろからラーファを押す。
ズッズーッ、と引きずられて行く。
抗う! でもなぜ?
何を不味いと思ったのだろう?
「抑えてろ! 今首輪を嵌める!」
前から走って来る男が手に持った首輪を開いて近寄る。
え、誰?
反射的に土魔術で足止めしようとした。
魔術が陣を作れ無い!
『ラーファ、落ち着いて、心を静めるのよ! しゃがんで!』
又マーヤが話しかけてきた。
マーヤに言われたように、その場にしゃがみ込む!
請負人が二人掛で立ち上がらせようと手を引っ張る。
分かった!
状況が理解できた!
ラーファも知ってる、ダキエ国の犯罪者を拘束する魔道具よ!
手錠に付与された混乱の魔術がラーファに掛かっている!
心を落ち着け、手錠を破壊するのよ!
幸い口は塞がれていない、混乱に打ち勝つため声に出して詠唱する!
「刃よ切り裂け! 槌よ叩け!」
手錠を切り裂き、叩き壊す。
「シュキン!」「ガンッボギッ!」「ガチャン」音をたてて黒い手錠が手首から落ちた。
掴まれている手を振りほどく。
「うわ! 早すぎだ! 1コル(15分)所か1/3コル(5分)も持たないじゃないか!」
資材置き場からやって来た男が何やら叫んで、手に持っている首輪をラーファの首に嵌めようと突き出す。
危機察知はもう真っ赤に染め上がっている。
「土槍!」
一番危険そうな前に居る男へほとんど反射的に、3本の土槍を撃ち込んだ。
「ゴッベッ」喉と左右の胸に土の槍を生やして男はぐずれ落ちた。
手に持った首輪がコロコロと転がって行き、やがて倒れる。
危機察知では緑のままの二人が、ラーファの手を掴もうと手を伸ばしてきた。
「土槍」、「土槍」今度は1本づつ請負人と協力者に足を狙って土槍を撃ち込んだ。
「うぎゃーっ。」、「ひっ。」
土槍を請負人は右、協力者は左の膝上に受けて地面にうずくまった。
「イスラーファ様、私が何をしたと言うのです、手錠をお渡しして案内をしただけでは無いですか、それをこんな事をされるなんて酷いです。」
請負人がなぜかラーファを責め始めました。
酷い事をされたのはラーファでは無いのですか?
『ラーファ、この人たちは洗脳されているみたい、闇魔術師か魔女が背後に居るのよ!』
マーヤが念話してきました、確かに請負人の態度は洗脳されているようですね。
足に土槍を受けても洗脳が解けない程とは、エルゲネス国に居ると言う闇魔術師でも最高レベルの使い手でしょうか?
二人の事は放置して落ちている首輪を拾い上げ、調べます。
やっぱりこの首輪は、ダキエ国で一度だけ見た事が在るハイドワーフの秘宝の様です。
樹人でも最高位クラスの魔術師で重罪を犯した者へ使用する封印の首輪です。
これをされるとラーファでは魔術の行使やスキルが使え無くなってしまいます。
『良かった! ラーファが無事でほんとによかった!』
マーヤが安堵したのか念話が震えています。
そうですね、マーヤの念話が無かったら、手錠を破壊するのに時間が掛かって首輪をはめられていたでしょうね。
『ありがとうマーヤ』
今更ですが、怖くなって震えがきました。
ラーファはこの出来事を城塞建造の総責任者をしているバンドル家宰へ直ぐに伝えました。
ひょっとしたらバンドル家宰も洗脳されているかもしれないと思いましたが、昨日も会って話していますから洗脳の心配はしなくてよさそうです。
頻繁に会う人なら洗脳されてるかされていないかは分かります。
首輪は誰かに持ち去られたら怖いので手に持っています。
バンドル家宰に渡してダキエ国からどこの誰が手に入れたのか調べて貰うのです。
城塞の建築現場にいたバンドル家宰はラーファから事の顛末を知らされると、警備の領兵に命令して現場となった工房から資材置き場への道へ急いで行かせました。
しばらくして彼らは、死んだ男とケガを負った男二人を収容しラーファが壊した手錠も拾ってきました。
その頃には建築現場は作業が停止し、領兵が各門を閉じて出入りを止める大騒動になりました。
死んだ男の仲間を何人か捕縛したそうですが、詳しくは聞きませんでした。
事件の確認が一通り終わると直ぐにラーファは帰る事にしました。
首輪はバンドル家宰に渡しています。
昼12時(午後5時)過ぎにラーファはワイバーンのピースィに乗ってカカリ村へ帰ってきました。
帰ってからイガジャ男爵さまとおばばに知らせると、すぐさま動いた男爵様が状況を調べにジョモス村へ向かわれました。
おばばは襲われたラーファを心配して、今住んで居る男爵邸の部屋まで付き添ってくれました。
部屋まで付き添ってくれた、心配するおばばに「マーヤが居てくれるから大丈夫よ」と伝え、おばばを返して部屋へ入りました。
部屋からすぐさま神域へ入ると、家まで走って中へ駆け込むとマーヤに抱き着きました。
「マーヤありがとう、マーヤのおかげで首輪を嵌められずにすんだわ」
ほんとに今回は僅差で助かって良かった、少しでも遅ければ首輪を嵌められていたでしょう。
今更ながらに恐怖で震えが来ます。
______________________________________
マーヤは、ラーファに抱き着いてしっかりその存在を感じて安堵した。
「ラーファ、ラーファ、ラーファ、良かった!」
マーヤはラーファが抱き着いた時から、涙が止まらず、泣き声も出続けて止まらなくなってしまった。
マーヤはラーファを失うのではないかと、心に痛みが走る様な恐怖を感じた瞬間を思い出していた。
混乱するラーファに一生懸命に念話で呼びかけ、何度も心を落ち着かせ、混乱を払うように呼び掛けたのです。
その夜マーヤはラーファに朝までしがみついたまま寝ていた、朝起きるとラーファの腕にマーヤがしがみついた後が痣に成って居た。
ラーファが起きた後、治癒魔法でラーファとマーヤの手を治療してくれた。
マーヤの手も痙攣がするほど強く握っていた様だ。
______________________________________
翌日ラーファは、何時もの様に神域でマーヤと朝食を食べた後、部屋から出て何時ものお茶を飲む部屋へと行くと。
イガジャ男爵さま、サンクレイドル様、奥様方、レイとアニータ、アリス、おばば、ダンガー隊長、バンドル家宰とそうそうたる面々が揃っていました。
イガジャ男爵様が頭を下げて話されます。
「怖い思いをさせてしまった、まことに申し訳ない。」
ラーファはイガジャ男爵様に頭を下げさせた事を悔やみました、男爵さまはぜんぜん悪くありません。
「頭をお上げください、男爵さまは少しも悪くありません、皆あの男たちがした事です」
それにラーファもこの所警戒がゆるんでいました。
「それにラーファはしばらく何事も無かったので気が緩んでいました、請負人の人から手錠を掛けられても何も反応できなかったのですから」
「その請負人のダルトンじゃが、おばばの調べでは闇使いに操られていたらしい。」とおばばの方を見た。
おばばがラーファに続きを話してくれた。
「ダルトンの体から魔薬を使い魔が嗅ぎ分けたんじゃよ、幾つか薬を使って調べてみた、案の定闇使いが良く使う魔薬の反応が出たよ」
「しかもこの闇使い相当の実力者と見受けられる、ダルトン自身何時から操られていたのか全然わかって居なかった」
ラーファには、おばばの話の内容は十分理解できる事だった。
「だと思いました、ラーファに手錠を嵌めた時も興奮もせず、当たり前のことをしているとしか見えませんでした」
「ラーファが手錠を壊しても何も反応が在りませんでしたし、土槍で足を撃った時も何故自分にこんな事をしたのか酷いと言っていました」
「ラーファも闇魔術の洗脳だと思います、此処までの闇魔術の使い手はダキエには居ませんでした」
「間違いなくエルゲネス国の高位の闇魔術師だと思います、長年闇魔術を研究して来たエルフでしょう」
そういった後、男爵様の方を向きます。
「男爵さま、今回の襲撃は何処の誰が行ったのか分かりましたか?」
男爵さまは苦虫を嚙み潰したような顔をされます。
「コシ・カッチェじゃよ、死んだ男はコシ・カッチェの手先の一人じゃ。」
コシ・カッチェと聞いて疑問が湧いてきた。
「そのコシ・カッチェですがダキエ国の手錠と首輪を持っていました」
「簡単には手に入らない代物です、ダキエ国の誰かと繋がっているのでしょうか?」
次回は、今回使われた手錠と首輪についてです。