第75話 持ち込まれた難題(7)
新しい治癒魔石は新しい難題を引き寄せたようです。
マーヤ5歳の冬は、新しい治癒魔石とその製造用魔道具の開発を行って過ごした。
カカリ村も雪と氷に閉ざされて人の往来も少なく、人々も家に閉じこもりがちな静かな村の景色です。
久しぶりに治癒魔石の工房へやってきました。
新しい治癒魔石の製造魔道具が完成したのです。
今日はその設置に来ました。
おばばとイガジャ男爵さま、それに新しく魔女となったエリスと竜騎士となった魔女見習いのハリナ(リナ)も治癒魔石工房の担当者として立ち会います。
工房の中の古い魔道具は既に撤去解体して神域に素材として回収しています。
新しい治癒魔石は既に量産テスト段階の物が領内へ新しい置き薬として配布されています。
値段も下がりました。
これまで銀貨50枚だった治癒魔石ですが、価格だけでなく名前も変えました。
ケガや傷を治す傷薬が銀貨5枚。
腫れや体の水分バランスや熱を元に戻す解熱薬が銀貨5枚。
毒(重金属を含む)や病原菌を排除する解毒薬が銀貨25枚。
風邪や肺病を排除する風邪薬が銀貨15枚。
これだけだと癌や膠原病など対応できない疾患が在りますが、魔女の治療でも八割は4つの治療薬で対応できます。
又、この薬で回復できるのは病なら初期症状ぐらい、ケガなども打ち身や切り傷まででしょう。
重症の場合でもこの薬を複数回組み合わせて使用すればたいていの場合回復できますが、前に使った薬の効果が続いている間に次の薬を使用すると、治癒魔術の行使が反発で無効化されるかもしれません。
連続投与する場合は最低でも1/5コル(3分)位は開けてほしいです。
考え込んでいたラーファの背中に圧を感じます、イガジャ男爵さまから急かされている気がします。
新しい魔道具を設置して行きましょう。
神域から設置する魔道具を出します。
魔石研磨用魔道具2台、傷薬作成魔道具1台、解熱薬作成魔道具1台、解毒薬作成魔道具1台、風邪薬作成魔道具1台の6台の魔道具を土台に動かない様に土魔術で固定して行きます。
魔道具以外に研磨前の魔石を運搬する台車が1台、研磨した魔石を運ぶ台車が1台、製造した薬毎に収納する棚が4つ、神域から出します。
製造能力は、研磨が1台で1日に100個、2台で200個です。
傷薬が1日に50個、解熱が1日に50個、解毒薬が1日に50個、風邪薬が1日に50個です。
製造には魔女見習いで、今回開発した傷、解熱、解毒、風邪の治癒魔術が行使できることが前提です。
製造した各種の薬は魔道具の在る工房から製品を収納した棚の反対側に箱詰めの場所が在ります。
其処では新たに5人の村娘が雇われて薬の箱詰め作業を行います。
箱詰めは5個づつ箱に入れて行きます、2列に並べて入れ最後に余る場所へ小さなカップを入れます。
このカップは治癒魔石の大きさの球を入れると、中に在るゴム状の材質が球を締め付け保持してくれます。
治癒魔石を使用する時、このカップに薬を入れさかさまにしても落ちない事を確認して患者の体にカップを密着します。
後はカップの上部に在る穴から指で薬を押して皮膚に密着させ「傷薬、設定、治癒」と声を出せば治療の終わりです。
薬の種類毎に、最初の傷薬の部分を使用する薬の名前に言い換える必要があります。
魔力が少しでもあれば、無言でも治癒魔石が勝手に行使されますし、魔力がまったく無い人は居ません。
こうして新しい治癒魔石の薬が製造され始めました。
オズボーン商店から売り出された4種類の薬は、医者や貴族の軍や警邏隊、そして新しく創設された傭兵ギルドが主な買い手に成りました。
ホレツァの町には2年前に傭兵ギルドが作られ、闇の森ダンジョンへ潜る傭兵でにぎわっていました。
其処へ此の薬が発売されると闇の森ダンジョンへ行く傭兵が此の薬を買うようになりました。
この薬を使うと即死以外の重度の負傷でも生還出来るようになったのです。
しかも切断されても直後に切断ヶ所を合わせて傷薬を使用すれば切断ヶ所ごと治癒してしまうのです。
切断されてたら傷薬を連続で3,4回使用する必要がありますが、逆に言えばそれだけで済むのです。
闇の森ダンジョンには毒持ちの魔物も居ます、でも解毒薬が在れば安心です。
このような理由で傷薬と解毒薬は需要が大きく伸びて供給が足りなくなり、問題としてラーファに帰って来たのです。
今回の難題は供給するための魔道具が足りない事から、魔道具を作る必要があります。
ではどのくらい作れば供給が足りるのか?
今、月に6000個製造しています。
個別だと1500個に成りますが、需要は月に傷薬だけで5000個、解毒薬も3000個が必要とされています。
これでは作っても作っても追いつきません。
しかも需要はまだまだ増えそうなのです。
対策に追われるラーファに油断が在った様です。